25 ゴーストタウンは幻想世界
あれからわたしは枯れ枝をひろい、火をつけてみようと試みました。石と石でカツンとこすり合わせれば火花がでたと記憶しています。でも結局できなくて、気付いた勇者さんがやってくれました。
気付けば辺りはまっくら。
変な虫に刺されてはいけないからと、勇者さんはわたしとユニちゃんをクリスタルへ戻しました。
勇者さんは軽く食事をとり、小鬼焼きとお茶も召し上がったあとにわたしに質問されました。
「近くに遺跡があるが、見てみるか」
遺跡というのは、かつて栄えていた文明の骸。わたしは好奇心に勝てず「はい」とこたえてしまいました。こんな時間に足を踏み入れるのは少し怖い気もしますが、勇者さんは問題ないそうです。
街道の横に細い道が伸びていて、ランタンを片手に勇者さんは夜の道を進みます。大きな月が出ていたので思っていたよりも明るく、わたしは楽しみな気持ちでいっぱいでした。
勇者さんが行こうとしているのはベルケン遺跡と言って、この国でも有名な観光スポットだそうです。
警備に立っているのは古代ゴーレムで、主人亡き今も命令を守り、遺跡へ侵入しようとする不届き者を排除しているのだとか。
神官長はこの辺りで生まれ育ったために詳しく、ゴーレムに追われてレーザーで撃たれた思い出などを語ってくれました。屈強な体を持つオーガ族でもさすがにあのレーザーは痛かったらしいです。
中に入ることは限られた者だけで、さすがの勇者さんも近くまでしかいけません。看板にしたがって遺跡がよく見える丘へ移動されました。そこから見たベルケン遺跡はとても美しいものでした。
鬼火というものは魔族でもいまだ正体をつかめておらず、ある者は死者の魂だといい、ある者は精霊の一種であると言います。
赤や青、緑や紫など、色彩豊かな鬼火たちが遺跡のいたる所にいました。
ベルケン遺跡は別命『死者の町』ともいい、生ける者は住めない場所です。しかし、無数の鬼火たちが照らす様子はとても神秘的で美しいものでした。
壁にも屋根にも、建物の中にも、たくさんの鬼火たちがいます。まるで夜空の星が地上に降ってきたよう。きらきらと光をはなつ鬼火たち。こんなにもキレイなものだったなんて。
ここに人が住んでいた頃はどんな感じだったのでしょう。目を閉じると、人々が活気にあふれ、泣いたり怒ったり笑ったりしながら暮らす様子が鮮明に思い描けました。
クリスタルの中からユニちゃんも不思議そうにながめていました。
ユニちゃんは自分の意思でわたしと一緒にいることを選んだのだと、勇者さんは言いました。そうだそうだと言うふうにユニちゃんも誇らしげに胸をはります。
わたしのことをお友だちと思ってくれたんでしょうか。とても優しい子です。ユニちゃんがそばにいてくれて嬉しいです。
「ユニちゃん、またよろしくね」
きゅわっと元気に鳴くユニちゃん。
お母さまのところへ戻るそのときまで、わたしもしっかりお守りしますからね。




