天龍
髭面の男の前に座るとワイバーンが不快な重りを落とそうと体を揺らし始める。
久しぶりだなこの感じ。トトとの訓練の日々が頭をよぎった。
「やるじゃねぇの、お姫様。」
「うるせぇ!前は助けなかったクセに何の真似だ!!」
「……さぁな。」
「絶っ対殺してやる!」
「はッ!楽しみにしてるぜ。」
ワイバーンが上空まで上がると、目の前に大きな壁が聳え立った。
それは神秘的で美しく、しかしそれは人間には到底及ぶ事を許さない絶対的な壁。
「グランドツリー…」
「なんだ、ここまで来て怖気付いたのか?」
「そんなんじゃねーよ!こんなに近くで見たのは初めてなだけだ!」
「あ?お前何回目だよ」
「3度目だ。」
「降ろせー!!!!この悪魔共がぁ!!!!」
突然下から叫び声が聞こえて見下ろすと、4羽の簀巻きラビット達が飾り雛の様に蔦で吊るされ、ワイバーンの尻尾にぶら下げられている。
「おい!何やってんだ!下ろしてやれ
「2回は何やってたんだ?昼寝でもしてたってか!」
「お前聞いてるのか!!」
「何も見えてねぇのはお前だろ?余所見してねぇで、しっかり前を見ろ!!!」
男は俺の頭を片手で鷲掴みにすると、力任せに前方へと顔を向かせた。
瞳に写ったのは、神々しく光り輝く白い鱗。
巨大な黄金の瞳には、漆黒の三日月が不気味に浮かび、真っ赤な舌が死へと手招きしている。
ギャーーーーーーーーーーー!!!!!
轟音と共に物凄い暴風が真っ直ぐに襲いかかってくる。
ワイバーンは風に吹き飛ばされ、ラビットたちは凧になった。
俺はワイバーンから振り落とされないよう、必死に捕まるのがやっとだったが、後ろの男は違った。手綱を引いて風を掴む。
すごい……
「無事か!坊主!やるじゃねぇか!奴を前にしてチビらなかったのはお前が初だ!自慢していいぞ!!」
いや、何を考えてるんだ俺は!
「そんな事言ってる場合か!こっちに向かってくるぞ!どうするんだ!!」
天龍はグランドツリーに食い染ませていた体を剥がし、くねらせながらこちらへ向かって飛んでくる。
「おうよ!そうでなくっちゃな。」
口をニタリと歪ませているが、その両眼は瞬き1つせず天龍を捉えて離さないその表情が恐ろしくも不気味に思えた。
ギャーーーーーーーーー!!!!
けたたましい咆哮と共に180度開かれた天龍の口には長い牙が二本と鋭い歯が並び、神々しい白肌とは反して生々しい真っ赤な口腔とその奥へと続く果てのない暗黒は地獄への入り口のように見えた。
「おっと、そうはいかねぇぜ!」
上手く風を掴んだワイバーンのスピードは通常の何倍にも増幅されており、天龍が口を閉ざす前に口元から抜け出した。
そのまま耳元を通ってグランドツリーへと一直線に飛ぶと、天龍は頭をくるりと反転させて背後に迫ってくるが、スピードはまだ此方に軍配がある。
これなら行ける!!
そう思った瞬間、前方から今までと比べ物にならない突風が襲いかかってきた。
これは完全に不意打ちだ、ダメだ戻される!!
「あぁ!あぁ!あぁ!分かってるぜ!知ってるともさ!!だがなまだだ、こんなもんじゃあ殺れねーなあ!!!!」
男は諦めるどころか手綱を手繰り短く持ち、片足を蔵の上に乗せると、グワッと力任せに引き上げた。するとワイバーンの上体は上へと強制的にそらされ、前方の豪風に乗り一気に上空へと急上昇した。
バクッ!!
死の音を置き去りにして飛び上がるとそこは鳥籠の天井だった。
「死んだか?坊主。」
「生きてるよ!なんとかな……」
「へぇ〜やるな。」
「アンタもな、だが許したわけじゃないからな、アンタは絶対俺が殺す!」
「はっ!お前には無理だ。」
「無理だと!?ふざけ」
ウオォォォォォォ!!!!
俺の声を遮るように地鳴りのような怒号が響き始めた。
「始まったみたいだな。」
下を見下ろすと、グランドツリーを囲むようにして円のように茂る中央の森、そこからグランドツリー迄には1キロ程の芝生地帯がある。其れを塗り替える程のプレイヤーがグランドツリーに向かって走り始めていた。
それと共にワイバーンに乗ったライダー達も飛び始めている。
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不知火美月




