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第23飯 フルーツ狩り(打合せ編)


フルーツバスケットとのコラボ配信。その打ち合わせで、俺は新宿に来ていた。


事務所は「ピーチ・エモーション」。桃瀬財閥グループの芸能事務所らしい。財閥って桃瀬さんの実家か。そう言えばお嬢様ってどこかで聞いた気がする。


芸能事務所までやってるのか、金のあるところは何でもやるな。


駅から事務所へ向かう道すがら、でかいデジタルサイネージが目に入った。その時、腰のヴィヴィが実体化した。


ボンッ。


「下僕っ! 見よあれを!」


人混みのど真ん中で堂々と現れるな。


ヴィヴィの指さす先、巨大な広告にフルーツパフェが映っていた。背の高いグラス、色とりどりのフルーツ、てっぺんのソフトクリームに、きらきらのソースが垂れている。


「なんじゃあれは! 冷たそうで、甘そうで、宝石のようじゃ! 食べたい、食べたいのじゃ!」

「今は打ち合わせが先だ」


「なぜじゃ! あそこに店があるぞ!」

「約束の時間があるんだよ。……わかった、後で考えてやる」


「後でとは、いつじゃ!」


騒ぐヴィヴィの手を引っ張って、事務所へ向かう。油断も隙もない。



 ◇



打ち合わせ室にいたのは三人。柿山さんと桃瀬さん。それに黒髪ストレートロングの落ち着いた女性。


「フルーツバスケットのマネージャー、一条美桜(いちじょうみお)と申します」


きっちりとスーツを着こなしたできるマネージャー、という雰囲気だ。だが挨拶の途中、その視線がヴィヴィにちらりと動いた。


「……あの、そちらが、噂の」

「ヴィヴィだ。ほら、挨拶しろ」


「うむ! わしがヴィヴィアンじゃ! 崇めてよいぞ人間!」


一条さんの表情が、一瞬だけ崩れた。


「……っ。ほ、本物の、ヴィヴィアン様……」

「一条さん、ヴィヴィのファンなんですか」


「え!? ファンなんて恐れ多くて……むしろ下僕……い、いえ! マネージャーとして、客観的にチェックを……!」

「え……下僕?」

「美桜さん、ヴィヴィアン様の配信、いつも全部見てますものね」


「聖ちゃん!? それは言わない約束!」


約束してたのか。まあ、悪い人ではなさそうだ。



 ◇



「では、コラボ配信の内容を詰められれば。狭間様は、ご飯配信であればいくらでも、とのことでしたので、料理系の企画がいいのかなと」


さすが柿山さん、話が早い。打ち合わせ室に全員でソファに座って話し合う。


「ああ。派手なダンジョン攻略は勘弁してください。前回のようなボス攻略は流石に大変ですからね」

「はい。そこで、いくつか案を――」


「フルーツが食べたいのじゃ!」


ヴィヴィがソファによじ登り、話を遮った。


「さっきのパフェじゃ! 冷たくて甘い、宝石みたいなフルーツの、あれが食べたいのじゃ!」

「おい、話の途中だろ」


「フルーツ料理がいい! それがわしの希望じゃ!」


「フルーツ、フルーツ」と騒ぐ魔剣様。……こうなると止まらない。頭を抱えていると、意外な援護が入った。


「……フルーツ、いいですね」


一条さんだった。


「デザート配信。画も華やかですし、聖ちゃんもいる。何より……ヴィヴィアン様が食べる姿は、絶対に伸びます。むしろ私が見たい……」


……最後本音が漏れてないか?


「わたくしも賛成ですわ! 甘いもの大好きなんですの!」


桃瀬さんまで乗ってきた。多数決の空気だ。まあ、飯なら何でもいいが。


「わかった、じゃあフルーツでいきましょうか材料は買ってくるんですか?」


そこで柿山さんが「あ」と思い出した。


「真宿ダンジョンの密林ステージに、食用のフルーツが自生しているエリアがあるらしくて。ダンジョン産の食材は、味が濃いと評判です」


ダンジョンのフルーツか。ボア肉が絶品だったのと同じ理屈で美味いのかもしれん。


「じゃあ、真宿ダンジョンでフルーツを採る。それを配信する。持ち帰って、調理室でデザートを作る。それも配信する。狩りと料理、二本立てですかね」

「採るところから作るところまで……! いいですね!」


「フルーツ狩り! みなぎってきたぞ! 行くのじゃ! 今すぐ行くのじゃ!」


一番はしゃいでいるのは、企画の元凶だった。


「日程はどうします?」

「明後日で、いかがでしょう」


一条さんが手際よく進める。


「フルーツ狩りは真宿ダンジョン。デザート作りは、うちの調理室を。告知はこちらで担当します」

「告知?」

「はい。フルーツバスケットの公式から、大々的に。狭間様とのスペシャルコラボですから」


さっきヴィヴィのファンだとバレて赤面していた人と、同一人物とは思えない。完全に仕事モードの顔だ。


「今季一番の話題に、してみせます」


ふんす!と意気込んでいる一条さん。……なんか、大ごとになってきたな。



 ◇



その夜、フルーツバスケットの公式が、告知画像を投稿した。


『【スペシャルコラボ決定】あの人気探索者が、FRUITS BASKETと初コラボ! コラボゲストは――あの人!』


ゲスト名は伏せられていた。だが、シルエットと、隣の小さな影で、誰の目にも明らかだった。


ネットは一瞬で沸いた。


『短剣ニキじゃん!!』

『ばればれで草』

『フルバと短剣ニキとかバグってる』

『ヴィヴィアンちゃんと聖ちゃんの大食いまた見れる!?』

『これは事件』

『明後日、絶対見る』


拡散は止まらず、その日のトレンドを駆け上がっていった。俺の知らないところで、話がどんどん大きくなっている。



 ◇



明後日。コラボ配信、当日。


場所は真宿ダンジョン。難易度ランクC。密林ステージが広がる緑のダンジョンだ。


ゲート前にフルーツバスケットの五人が揃った。今日は全員参加。梨路梨花さん、龍梅藍さん、栗花落吟さん、柿山藤里さんと桃瀬聖さん。それに、俺とヴィヴィ。


フルーツ狩りはフルバのチャンネルで配信する。配信が始めると、同時接続数がみるみる伸びた。開始早々で五万人超え。告知の効果は絶大らしい。


「皆さんこんにちは、フルーツバスケットです! 今回はなんと! 今話題沸騰中の!通称短剣ニキて有名なRENさんにゲストとしてきてもらいましたー!」


>きたああああ

>同接やば

>フルバ五人フルメンバー

>ヴィヴィアンちゃんかわいい

>コラボということできました

>楽しみ

>8888


「今日はコラボということで! 真宿ダンジョンにフルーツを集めて、それを料理していきたいと思います!」


>マジで!めっちゃ豪華じゃん

>フルーツ集めと料理配信、二度美味しい

>このダンジョンのフルーツ、オークションとかでたまに見る

>高いんだよなー

>ダンジョンもCランクだしなかなか手が出ない

>出てくるモンスターも結構厄介


ヴィヴィがカメラに向かって胸を張った。


「うむ! 皆の者、おぬし等は今日からわしの下僕じゃ! 今日はうまいフルーツを狩るのじゃ!」


>早速下僕認定で草

>下僕①です

>下僕②です

>下僕③です

>流れよくて草


すっかり配信慣れしてるな。それに何人かうちのチャンネル出身の視聴者もいるみたいだ。


ゲートをくぐると、むわりと湿った空気が絡みついた。目の前に広がるのは、見渡す限りの密林。


空を覆う巨木。絡み合う蔦。腰まで生い茂る下草。道らしい道は何処にもない。


「うわぁ……すごい密林ですね……」


桃瀬さんが呟く。フルバの五人も、揃ってこの密林がもつ陰鬱な雰囲気に気圧されている。


無理もない。まともに進もうとしたら相当な難所だ。フルーツを探すどころじゃない。


「あの、狭間様。ここ、どうやって進みましょうか……? 道もないですし……」


配信のコメントも同じ内容を指摘していた。


>どうやって進むのこれ

>密林えぐい

>普通に無理でしょ

>ニキならどうする?

>つーかニキいつもの装備で草

>安定のTシャツ、ジーパン、スニーカーの男

>今日はサンダルじゃないだけマシ


「ここをまっすぐか」

「はい、この方角のようです」


事前情報ではフルーツの自生エリアは、この密林の奥にあるらしい。


方角がわかるのならやりようがある。だがその前に、一つ確認しておく。


「栗花落さん、索敵得意だよな。この先に他の探索者はいるかな。……ちょっとなんとかしてみる」

「え? ちょっと待ってくださいね……」


盗賊職の栗花落さんが目を閉じ、気配を探る。少しして、首を横に振った。周囲に人はいない。


「周りには他の探索者はいないと思います」

「よし。なら遠慮はいらないな」


オーケー、なら他には被害はなさそうだ。思(・)い(・)っ(・)き(・)り(・)やれそうだ。


>ざわ……ざわ……

>なんか不穏なんだけど

>短剣ニキなにかやるつもり?

>やばすぎる予感しかない

>なにか来ちゃう?


先日メガガルーダからドロップした風魔槍ゲイボルグをインベントリから取り出す。


密林の進む方向に、魔剣ヴィヴィアンを両手で構える。左手を柄の先端、右手を中央より短く持つ。剣道の逆胴の様な構え。両腕に力を籠める。


ガルーダの翼を広げたような十文字の刃を持つ穂先形状。千鳥十文字と呼ばれる穂から緑の刃を形成した渦が巻きはじめた。


俺のディバイドを、ゲイボルグのサイクロンに乗せる。すべてを払い、斬りとばすイメージ。


「みんな後ろにいてくれ」

「狭間さん。何を……」


「飛ぶ斬撃を、見たことがあるか?」

「「「「「え?」」」」」


両腕の力を密林に向けて解放。槍を大きく振るう。木々の間へ左足を強く踏み込む。


「断空(だんくう)」


ズバァッ――!!


目の前の密林が、巨木も蔦も下草も、まとめて吹き飛んだ。真っ二つの木々が左右へ倒れ、ぬかるみの地面まで、綺麗な一本道が奥へと伸びていく。


「「「……は?」」」


フルバの五人が、口を開けたまま固まった。


配信のコメント欄も一瞬止まり、そして爆発した。


>は?

>いま何した

>森が消えたんだが

>またこいつやりやがった

>道がないなら作ればいい理論

>これがCランクダンジョンの光景か…?


「な、なな、何をしたんですか今!?」


「見ての通り、邪魔なものを斬って吹き飛ばした。道がないなら作ればいい」


「作ればいいって……! ダンジョンの木を、こんな、バッサリ……!?」


「どうせ一日で元に戻るダンジョンだ。遠慮するだけ損だろ」


「カッカッカ! ようやったぞ下僕! フルーツのあるところまで、一直線じゃ!」


ヴィヴィだけが大喜びだった。


俺は開いたばかりの一本道へ足を踏み出す。フルバの五人はまだ呆然としている。


「さ、進むか。フルーツ狩りだ」


こうして常識外れのフルーツ狩りが幕を開けた。



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 カクヨムで先行配信しています。

 先が気になる方はそちらもご覧ください。


 https://kakuyomu.jp/works/2912051604673684115

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