表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔剣を拾ったら中身が飯にしか興味のない生意気少女だった 〜無限の魔力と空間魔法でダンジョン無双〜  作者: 竜刃丸


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/18

第10飯 焼き鳥 タレ・塩・レモン


ダンジョンを出て、駅前でネギと野菜を少し買い込んでから、俺はシフトで空に浮かんだ。


そのまままっすぐ八皇子の自宅を目指す。眼下を電車が走っていくのが見えた。あれに一時間揺られて帰ることを思えば天と地の差だ。


「……マジで空を飛ぶの便利だな、これ」


シフトを覚えていちばん変わったのがたぶんこれだ。もう電車に乗らなくていい。

渋家から八皇子までまっすぐ飛べば十数分で着く。移動のストレスがまるごと消えたようなもんだ。ワープを手に入れるまでの辛抱、なんて言っていたが、シフトだけでも十分ありがたいな。


『下僕、はよう帰るのじゃ。腹が減った』


腰の短剣状態のヴィヴィが念話で急かしてくる。


「今日はさんざん食っただろ。レモネードも飲んで」

『あんなものは前菜じゃ。メインはこれからじゃろうが。……その鳥の肉じゃ』

「はいはい。帰ったらすぐ焼いてやるよ」


現金なやつだ。だがまあ今日の獲物はいいヤツだ。楽しみにする気持ちは分かる。


俺は高度を落として、自宅のベランダへと降り立った。



 ◇



家に着くと、さっそく配信の準備を始めた。


カメラをセットして、キッチンとテーブルが映る角度に調整する。今日は家メシ配信だ。ダンジョン探索とはまた違う客層がつく。


配信タイトルはこれでいくか。


『家メシ&雑談 焼き鳥はタレ?塩? 俺はレモン派』


配信を開始する。すぐに視聴者が集まってきた。


「はい、RENです。今日も渋家ダンジョンお疲れさまでした。……で、今日はですね。獲ってきたこいつを家で焼いていきます」


俺は、インベントリから今日の獲物を取り出した。メガガルーダの肉だ。


討伐したあと、ギルドにもっていって食える部位を一通り剥ぎ取ってもらった。モモ、ムネ、ハツ、それに皮やレバー。鳥型の魔物はだいたい鶏と同じように食えるのがいい所だ。


>メガガルーダの肉!?

>まてまてまて

>それ市場に出たら一体いくらすると思ってんだ

>ボス素材の肉とか庶民は一生食えないやつ

>高級店でも滅多に入荷しないぞ

>くっそぉぉぉはらへった


「まあ、自分で獲ればタダなので」


>タダじゃねえんだよ普通は倒せないの

>さらっと言うな

>分けてくれー


コメントが早くも荒れ始めた。まあ、いつものことだ。


「ほほぉうまそうじゃのぉー」

「あぁ、今日は焼き鳥だぞ、ヴィヴィ」

「やっきとりっ! やっきとりぃっ!」

「ははっ、楽しそうだな」

「これが楽しくなくてなんと言うっ! やっきとりっ!」


>ヴィヴィちゃんうっきうきで草

>そりゃ(どうみてもお高級な肉みたら)そう(楽しくなる)よ


俺は肉を一口大に切り分け、串に打っていく。モモは脂がのっているから、そのままで。ムネはあっさりしているから、後でサラダにも回そう。ハツは下処理をして、コリコリの食感を活かす。そして、買ってきたネギを挟んで――ネギまだ。これがないと始まらない。


串を打ち終えたら、グリルで焼いていく。



 ◇



じゅう——と脂が落ちる音がした。


炭火とまではいかないが、うちのグリルもなかなか火力が出る。串を返すたびに、鳥の脂が滴って、香ばしい煙が立ちのぼる。皮目がぱりっと色づいて、こんがりと焼き目がついていく。


台所にたまらない匂いが充満した。


「ぐぬぬ……下僕、まだか——まだ焼けんのか」


いつの間にか実体化したヴィヴィが、テーブルの前でぷるぷると震えていた。

我慢しすぎて世紀末覇王のようなオーラが見える。両手に箸を握りしめて、今か今かと待ち構えている。目が——目が完全にいっちゃってるそれだ。完全に串に釘付け状態だ。


「もう少し待て。生焼けは腹壊すぞ」

「ぐぬぬぬぬぬぅ」


>ヴィヴィアンちゃん待機してて草

>箸の構えがガチ

>よだれ垂れてない?

>なんかオーラが見えるんぬ


焼き上がった串に、味をつけていく。今日は三種類、用意した。


一つは、甘辛いタレ。しっかり煮詰めた、照りのあるやつだ。

もう一つは、シンプルに塩。素材の味を活かすなら、これがいちばん。

そして――レモン。焼きたてにきゅっと搾る。さっぱりして俺はこれが好きだ。


「よし。まずはこれ、食ってみろ」


俺はレモンを搾ったモモ串を、ヴィヴィに差し出した。


「れ、れもん……? 肉に、酸っぱいのをかけるのか?」


ヴィヴィが、露骨に不服そうな顔をした。


「いいから食え。だまされたと思って」


ヴィヴィが、おそるおそる、串にかじりつく。


「……っ!」


目が、かっと見開かれた。


「な……なんじゃこれは! さっぱりして、脂がしつこくないのじゃ! 肉の甘みが、逆に引き立っておる……! ぬぅうぅぅ、悔しいが、これはこれで、アリじゃ、ありなんじゃぁ……!」


「にひひ、だろ? 脂ののった肉ほど、レモンが効くんだよ」


>あーレモンニキの布教が始まった

>短剣ニキがレモンニキに転職

>さては唐揚げはレモン派だな?

>わかる、うまいよねレモン

>いや焼き鳥はタレ一択だろ

>塩だろ塩、素材の味

>ヴィヴィアンちゃんが陥落してる


おうおう、コメント欄が、タレ派・塩派・レモン派で割れ始めた。焼き鳥の味付けは、誰もが一家言ある話題だからな。


もっともヴィヴィにとっては、派閥なんて関係なかった。


「うまい! タレもうまい! 塩もうまい! レモンもうまい! 結論、全部うまいのじゃーっ!」


やばい、ヴィヴィのうまぁが閾値を通り越している。

すさまじいスピードでタレ、塩、レモン。次から次へと、串を平らげていく。結局こいつは、うまければ何でもいいのだ。



 ◇



しかしながらメガガルーダの肉は想像以上だった。


モモは、噛むとじゅわりと肉汁があふれる。鶏よりも味が濃く、それでいて臭みがない。ハツはこりっとした歯ごたえのあとに、独特の旨みが広がる。ネギまのネギは、焼けてとろりと甘くなり、肉の脂を受け止めている。


「……うん。うまいなこれ」


俺も一本、レモンのやつを頬張った。さっぱりした酸味の奥から、濃厚な鳥の旨みが追いかけてくる。うまい。素直にうまい。


>短剣ニキもうまそうに食う

>メガガルーダの肉の味とか気になりすぎる

>ジューシーって言った? ジューシーって言ったよね?

>やめろ、こっちは深夜にカップ麺なんだ

>飯テロで訴訟やむなし

>お巡りさんこちらですー


ひとしきり焼き鳥を堪能したところで、俺は片手間に作っておいたもう一品を出した。


「あとこれな。チキンサラダ」


余ったムネ肉を茹でて、裂いて、野菜と和えただけの簡単なものだ。あっさりした胸肉がたっぷりの野菜とよく合う。


「最近、肉ばっかりでな。野菜が不足してる気がして」

「野菜? そんなもの、飾りじゃろう」

「飾りじゃねえよ。お前も食え。ちょっとは野菜取れ」

「わしは、肉と甘味で完成された生命体じゃ。野菜など不要」

「そういうこと言ってると、そのうち体壊すぞ」

「魔剣は体を壊さんわ!」


……こいつ剣のくせに。まあ、言っても聞かないので、俺は黙ってサラダを口に運んだ。うん、さっぱりしていてうまい。肉のあとの野菜は、体が喜ぶ感じがする。


>魔剣は体を壊さない、名言いただきました

>ヴィヴィアンちゃん野菜拒否で草

>短剣ニキが保護者すぎる

>健康に気を使う配信者の鑑

>メガガルーダの胸肉をサラダにするなんて……



 ◇



そこそこ腹も落ち着いたところで、俺は配信を雑談に切り替えた。


「さて。飯も一段落したんで、ちょっと真面目な話をします。……といっても、横でまだ食ってるやつがいますけど」


>お、どしたどした

>真面目な話とは何ぞ?

>ヴィヴィちゃんの勢いが留まることを知らない


ヴィヴィは、俺が話し始めても、まだ焼き鳥にかじりついていた。串の山が、すでに四十本を超えている。こいつが食い終わるのを待っていたら、日付が変わる。放っておこう。


「今日見てもらった通り、今このチャンネルでやってるのは、渋家ダンジョンでのメガガルーダ討伐です。で、明日もその予定です」


>明日も?

>なんで同じダンジョン?

>メガガルーダ狩り飽きないの?


「実は渋家ダンジョンで、ちょっと探し物をしてまして。何を探してるかは言えないんですけど。そのためにしばらく渋家に通う必要があるんです」


>探し物?

>気になるんだが

>えー、マジか


「マジです。なので、それが見つかるまでは渋家ダンジョンを探索します」


>なるほどな

>まあ理由があるならいいか

>配信はどうするの?


「ずっと同じダンジョンに行くわけですから同じ配信内容だとだれますよね。なのでダンジョンの配信は少し控えめになるかもしれません。けれどもその代わり飯配信は増やそうと思います」


>キター飯テロ配信

>べつに毎日ダンジョン配信してもいいのよ?

>安定感あるからなー短剣ニキは

>空飛ぶんでしょ? またその映像流して―

>作業用BGMみたいなもんだから


「ははは、そういった需要もあるみたいで良かったです。何回かやってみて要望の声があるなら続けるってことで」


>おけー

>そもそもダンジョンボスに到達するのが難しいからな。渋家は


「で、もう一つ。このチャンネルの長期的な目標について話しておきます」


俺は一拍置いた。


「目標は――全国のダンジョン制覇です」


>は

>でっっか

>スケールでかすぎだろ

>無理だろ! 特Sダンジョンもあるんだぞ!?


特Sダンジョン。ダンジョンにも難易度ランクがあって、特S、S、A、B、C、Dと分かれている。特Sは、Sランク探索者が束になっても手こずる、災害級の魔境だ。全国制覇っていうのは当然そこも含む話になる。


「まあどれくらい時間がかかるかは、分かりませんけどね」


俺は隣で焼き鳥を頬張るヴィヴィに、ちらりと目をやった。


「見ての通りうちの相棒が、とにかく飯が好きなので。全国のうまいものを食う旅も兼ねて、のんびり回るつもりです。皆さんの地元に行ったときは、仲良くしてください」


>グルメ番組みたいだな

>地元来たら教えてくれ

>ヴィヴィアンちゃんに地元の名物食わせたい

>楽しみすぎる

>あいよー、待ってるぜ


「そのためにも、まずは渋家からです。明日も、やっていきますので。……はい、じゃあ今日はこのへんで。お付き合い、ありがとうございました。ではではー」


>おつー

>焼き鳥うまそうだった

>次も楽しみ

>ヴィヴィアンちゃんまだ食ってて草

>何本食うんだ結局


配信を切る。


隣を見るとヴィヴィは、まだ焼き鳥を食べていた。串の山がさらに高くなっている。


「うまいこと話したのぅ」

「……まぁそのうち魔剣が配信ででてくることもあるだろ。あんまりギルドは公にしたくないみたいだしな、魔剣のこと」

「魔剣を求めるバカがでるからか……」

「そういうこと。ってかお前、まだ食うのか」

「当然じゃ。うまいものは、いくらでも入る」


……本当に、どこに入ってるんだ。


俺は、ため息をつきながら、追加の串を焼くためにまた立ち上がった。

明日の狙いもメガガルーダ。またいい肉が手に入る予定だ。飯についてはいろいろと考えてやるとするか。


そう思ってニュースサイトを見るとあるトピックが目に入った。


『アイドル探索者グループ「FRUITS BASKET」が渋家ダンジョンに挑戦!!』


 

=========================

 カクヨムで先行で2話分配信しています。

 先が気になる方はそちらもご覧ください。


 https://kakuyomu.jp/works/2912051604673684115

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ