表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブルームーン  作者: 葡萄
10/17

10話 ゴールデンキャデラック

料理と酒が少しずつ減り、二人が酔い始めたころ。

(かおり)は頬をほんのり赤く染めながら、絢香(あやか)に問いかけた。

「絢香さん、今日の料理でどれが一番美味しかったですか?」

「そうだね・・・どれも美味しかったけど、これかな」

絢香が指さしたのは、湯気を立てるアヒージョだった。

「アヒージョですか。私も好きです。最寄り駅の近くに美味しいアヒージョのお店があるんですよ。今度、一緒に行きませんか?」

「いいよ。楽しみだね」

絢香の穏やかな声に、薫はぱっと笑顔を咲かせた。

「はい!いつか行きましょう!」

薫はそのまま酒を口に含み、もうひとつ質問を投げた。

「そういえば、絢香さんって料理するんですか?」

「いや、しないね」

「そうなんですか。じゃあ、明日、一緒に作りませんか?」

「いいけど、簡単なやつにしてね」

「もちろんです!」

薫は子どものように笑いながらグラスを傾ける。

そんな姿を見つめながら、絢香は小さく呟いた。

「・・・薫ちゃんといると、飽きないな」

「え?なんて言いました?」

「ううん、なんでもないよ」

絢香が軽く流すと、薫は照れたように頬を掻いた。

「絢香さんと料理できるの、嬉しいです。もういっそ、一緒に暮らしませんか?」

「・・・滅多なこと言わないの」

絢香は眉をひそめて、薫の額に軽くデコピンをした。

「いたっ・・・」

薫が額を押さえる。

「むー、私は本気ですよ。でも、お父さんが許してくれるかどうか・・・」

「・・・そう」

薫はしょんぼりとグラスを見つめ、ゆっくり酒を飲んだ。

その横顔を見ながら、絢香もグラスを傾ける。

やがて、絢香はグラスを飲み干して、薫に視線を戻した。

「ねぇ、薫ちゃん」

名前を呼びながら、そっと薫の手に触れる。

「さっきの話・・・本当?」

真剣な眼差し。

その瞬間、薫の酔いが少しだけ醒めた。

「本当です。私、絢香さんと一緒に住みたいです」

「じゃあさ、薫ちゃん」

絢香は薫に究極とも言える二択を選択を提示した。

「もしも、私とお父さん、どっちかと住むのなら、どっちにする?」

薫にとって余りにも残酷な二択に、絢香は若干申し訳なさを感じた。

その選択に、薫は答えた。

「あ、絢香さんです」

その言葉に、絢香はゆるく微笑んだ。

「嬉しいよ。とても」

薫の胸が、どくん、と高鳴る。

高鳴る心音を感じていると、絢香が酒瓶を持ち上げた。

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」

薫が頭を下げると、絢香は瓶を置き、自分のグラスを持ち上げた。

薫も慌てて酒を注ぎ返し、二人のグラスが並ぶ。

「乾杯」

澄んだ音が響き、二人の距離が近づいていった。


朝日が窓の隙間から差し込み、白いカーテンを淡く染めていた。

机の上には、昨夜の名残がそのまま残っている。

空になった皿、まだ少し残ったグラス、そして並ぶ酒瓶。

その前で、薫は腕を組んだまま、静かに眠っていた。

──ぽろん。

微かな音が、空気を震わせる。

それは、ピアノの音だった。

薫はまぶたをゆっくり持ち上げ、音の方へと顔を向ける。

視界の先に映ったのは、白いシャツ姿でピアノを弾く絢香だった。

朝の光の中、絢香の指先が鍵盤の上を滑る。

流れる旋律に、眠気は少しづつ醒める。

絢香は、薫の視線に気づくと、弾く手を緩めてこちらを見た。

「おはよう、薫ちゃん。ごめんね、起こしちゃった?」

「い、いえ、大丈夫です。おはようございます」

薫は寝ぼけ眼をこすりながら起き上がると、絢香のもとへゆっくりと歩み寄った。

ピアノのそばに立ち、驚いたように呟く。

「絢香さん・・・ピアノ、弾けたんですね」

「うん、少しだけね」

「そうなんですか・・・もう少し、聴いててもいいですか?」

「いいよ」

絢香は微笑み、再び鍵盤に指を置いた。

今度の音は、少し優しい音。

ピアノの音色が部屋の中を走る。

薫は両手を胸の前で組みながら、その音に聴き入った。

演奏が終わると、薫は思わず拍手をした。

「絢香さん、すごいです・・・本当に、上手ですね」

「ありがとう」

絢香は穏やかに笑い、腹部に手を当てる。

「・・・お腹、空いちゃったね。薫ちゃん、朝ごはん食べよ」

「はい!」

そう言って、二人は並んでキッチンに向かった。

そして、昨日約束した、二人で調理をする約束は、果たされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ