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13.あー滑らないかなぁ私の手

 学校から帰り、私は今日もログインした。

 目の前には巨大なサイクロプスが立ちはだかっている。レベルは18、三メートルを超える筋骨隆々な灰色の体躯に、頭部には天を突く一角、大きな一つ瞳がぎょろりと眼光を放っている。歴戦の戦士のように体中に無数の傷跡があり、手には巨大な棍棒。筋肉質な腕は棍棒を振り下ろすたびに隆起し、一振りで大気が重たいうねりを上げた。


 「うわっあっぶ、ない」


 あと少しで当たるところだったよ……。ってもう一撃がくる!でもさっきは油断してたけど、今度はちゃんと見えてるからね。


 「グオォォォ! 」


 サイクロプスの棍棒が振り下ろされる瞬間、素早く横にステップを踏んで、刀でパリィを試みる。金属と棍棒がぶつかり合う音が響き渡って、軌道が逸れた棍棒は私の横を通り過ぎ、地面へ激突する。

 私はその隙を逃さず、素早くサイクロプスの足元に回り込んで斬撃を加える。細かく俊敏に、サイクロプスの動きは鈍重だけど、その一撃一撃は致命的。だから私はその巨体の動きを見極めながら、パリィと攻撃を繰り出す。

 慣れなかったパリィもそれなりに上手くできるようになってきた。と言っても、片手剣とか刀みたいな軽量かつ扱いやすい武器しかまだ出来ないんだけどね。

 再び振り下ろされた棍棒を再度パリィする。今度は力強く押し返して、サイクロプスのバランスを崩した。


 「グオオォォォォォォッ! 」


 お、まだまだ元気だね?パリィは武器の耐久値が減るからあまりしたくないんだけど…………まぁ減ったら減ったらで砥石で修繕できるんだけどね。私鍛冶師だし――――、


 「って……あーっ!壊れた……耐久値の目算ミスった!これじゃ直せないじゃん!んーーーーー!」


 ま、別に壊れてもいっか、


 「どうせこれから増やすんだから!」


 これの角でね!

 私は何度もパリィを繰り返しながら、少しずつサイクロプスの体力を削っていく。同時に武器の耐久値も削れていく。でも、


 「これで終わり!」


 全力で刀を振り下ろし、膝をついたサイクロプスの首に深く食い込み、その巨体がゆっくりと崩れ落ちた。

 やっと一体!集中力的な意味でけっこうキツイけどもう少し狩りを続けて素材を確保したい。さっきドロップした素材だけじゃ武器一本分にもならないからね。素材を他のプレイヤーから買う手段もあるけど、そんなことをすれば直ぐに金欠になっちゃう。だからなるべく自給自足を心がけているのだ。私って偉い!コツコツ頑張れて凄い!


 「……ふぅ、じゃあ頑張るかぁ」




******


 「おい、ちょっと待て」


 鍛冶ギルドに戻ってきた私を呼び止めたのはNPCの男だった。鍛冶ギルドにいるので、設定上一応はギルドの先輩にあたる相手だと思う。なんだろうねまったく……私はこれから武器を作らなきゃいけないのにね。


 「お前、鍛冶レベルはいくつになった」

 「16です」

 「なら次のステップに進む時が来たな。よし、作った武器で一番の出来のものを見せてみろ。鍛冶レベルが22の先輩の俺が見てやる」

 「…………」

 

 なんだか良くわからないけど、武器を見せろと言われた。早くしろと言わんばかりの尊大な態度に、思わず八倒したくもなるけど、ぐッと堪えて、ここ最近で一番出来の良かった武器を選ぶ。会話内容的にクエストフラグっぽいし。


 「おい、早く渡せ」


 お?ストレステストかな?私は今すぐ不合格になっても良い気分だね。


 「ふんこれか……まぁまぁだな。でもまぁ仕方ないから特別に認めてやる、特別にだ」

 「チッ………」

 「何か言ったか?」

 「気のせいです」


 私、偉そうな先輩って大っ嫌いー。


 「なら次は素材集めに行ってこい」

 「素材集め?」

 「そうだ。鉄鉱石、石炭、魔土、そして純油だ。鉄鉱石と石炭は採掘で、魔土は採取で、純油は魔物から手に入れろ」

 「わかりました」

 「ちなみにギルドの売店でも買える。見るからに金のなさそうなお前に買えるかは知らんがな」



【クエスト受注:練合を学ぼう

クリア条件:(はがね)を作る

報酬:<練合>を取得する】



 ふぅーーーーーーガマン、ガマン。でもこれで一応クエストの趣旨が分かった。恐らくこれは金属の合成―――――合金の作成を覚えるためのイベントなんだね。場合によってはバックレることも考えていたけど、これはやるしかないよねぇ。プレイヤーの皆はこれを乗り越えてるの?凄いね。

 そんなわけで私はギルドの売店に向かう。NPCショップにあるものは基本的な素材だけだけど、その分だけ安い。全部で数千ゴールド程度なら、費用対効果的に惜しむ必要も無いよね。

 そしてさっさと素材を揃えてNPCの男の元へと戻ってきた。はぁ………。


 「なんだ売店で揃えたのか?はぁー横着しやがって情けねぇ。俺が若い頃はなぁ――――」

 「…………」


 チクチク、チクチク………心を殺せ私……。


 「ふん、まぁいい。これで鋼を作る準備は整ったな。だが、これからが本番だ。お前みたいな半人前がちゃんとできるかどうか、見ものだな」

 「はい」

 「いいか?お前みたいな半人前が鍛冶師を名乗るなんて、笑わせるな。俺が若い頃は、素材集めから鍛冶まで全部自分でやったもんだ。お前みたいに売店で揃えるなんて、甘えだ」

 「そうですね」

 「よし、今から鍛冶師の必須技能を教えてやる。ちゃんと見てろよ、時間がない中、特別に作ってやってるんだ」

 「わかりました」

 

 NPCの男の嫌味が耳に刺さる。炉に場所を移した私は無言で素材を差し出すと、男はひったくるように奪い取った。


 「とろとろしてんじゃねぇよ」

 「…………」


 …………ところで鍛冶の最中に槌の振り下ろされる先が、必ずしも金属であるとは限らないよね?例えば手を滑らせて事故が起こったりもするわけじゃん?ぐーぜん、ぐーぜんね?―――――あー滑らないかなぁ私の手。


******

【質問】Fantasy Tale Online総合スレ 23【歓迎】


1.通りすがりの冒険者

ここは初心者や熟練者、誰でも質問できるスレです!

どんな質問でもOK!育成、攻略、素材等

マナーと公序良俗を守り、楽しく利用しましょう。

前スレ:http://**********

次スレは>>950が立ててください。無理な場合は報告をお願いします。



411. 通りすがりの冒険者

今、鍛冶ギルドでNPCのレンツと話しているやつがいるんだが。多分練合クエストだと思う。


412. 通りすがりの冒険者

でたレンツwww


413. 通りすがりの冒険者

すげよーやるwww


414. 通りすがりの冒険者

また半人前だとかなんとか言ってるわ


415. 通りすがりの冒険者

レンツの嫌味は相変わらずだなwww


416. 通りすがりの冒険者

あのNPC、本当に性格悪いよな。俺もあいつに散々嫌味言われたわ。


417. 通りすがりの冒険者

でも、あいつのクエストクリアせな<練合>が使えんしな。頑張るしかないんよな。


418. 通りすがりの冒険者

あの嫌味に耐えられるかどうかが、もはやクリア条件だよなwww


419. 通りすがりの冒険者

俺は無理やったわ。まぁ仮にあのクエストを断っても別のNPCからまた受けれるんだよなー


420. 通りすがりの冒険者

>>419 それな俺もリタイアして知ったわ


421. 通りすがりの冒険者

>>419 ウソやろ……知らんかった……


422. 通りすがりの冒険者

鍛冶師じゃないから知らんけど、そんな酷いの?


423. 通りすがりの冒険者

>>421 気になるなら話しかけにいけばいいよ


424. 通りすがりの冒険者

【速報】クエストをやっている少女が槌を握りしめている模様


425. 通りすがりの冒険者

やっちまえっ!


426. 通りすがりの冒険者


427. 通りすがりの冒険者


428. 通りすがりの冒険者



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