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第四話 バトルofスクール

 フード付きのマントを羽織った真斗と母さんがコロシアムの中に入ると、すでにそこは熱気であふれていた。試合は決められた範囲のステージで行う1対1の勝負。トーナメント方式で行われる。二人は空いている席を見つけて座った。


「さすがに、すごい人ね」

「こんな人が多いところは初めてだ。なんか、緊張する」

「まあ、そのうち、慣れる…」

「おー!すげえ!あいつ刀から水の刃とか飛ばしてる!おー!あっちは、炎の弓だ!おー!あれは…」


 真斗は席から立ちあがって叫んでいた。


「落ち着きなさい」


 母さんは興奮した真斗を落ち着かせるように頭をコツンとたたいた。


「全然緊張なんてしてないじゃない」

「だって、みんな属使ってるし、ちゃんとした武器使ってるし、僕属使えないし、木の剣しか使ったことないし」


 真斗の声はだんだん小さくなっていき、どんどんトーンが下がっていった。


「はいはい。落ち込まない、落ち込まない。真斗はこれからなんだから」

「そだね!強くなってやる!」

「まあ、席に座ってゆっくり見ましょ」


 真斗の目線の先ではレベルの高い戦いが次から次へと繰り広げられていた。火や水、土、風、雷がぶつかり合い、バトルを盛り上げる。


「イレギュラーを使える人はいないのかな?」

「あんまりいないと思うわよ。普通はハイスクールに行ってから、目覚めていくものだから。まあ、例外もあるとは思うけど、この時点で完璧に使いこなせる人は、いないんじゃないかしら」

「ふーん。イレギュラーも見たかったなー。イレギュラーはもっと強くて、派手なんだろなー」


 真斗は母さんの目をじっと見る。

 母さんは特殊なイレギュラーを持っている。イレギュラーはみな特殊であるが、母さんのイレギュラーはその中でも特別だ。それは、イレギュラーを無効化するイレギュラー。しかし、そのイレギュラーは、とても派手といえるようなものではなかった。


「悪かったわね、地味で」

「母さんも苦労するねー」

「怒るわよ」

「ごめんなさい」


「属も使いようによっては、イレギュラーより強くなるのよ」

「そうなの?」

「努力すればね。それに、戦いで使えるのは、属やイレギュラーだけじゃない。見て学びなさい。わからないことがあったら、質問していいから」

「わかった」


 真斗はそういうと、黙って、真剣な眼差しでバトルを見始めた。その目は興奮を抑えきれていないが、純粋に戦いに見入っていた。


「母さん、なんであいつ、刀で体を切りつけられてるのに、全然体に傷がつかないの?」


 真斗は、不思議そうな顔をしてたずねた。


「人って、ある程度の傷には耐えられるようになってるの。でも、その精度は一人一人バラバラで、傷つきにくい人もいれば、傷つけられやすい人もいるの。それに、特訓次第で強くなれるし、体の場所によって、強弱をつけたりもできるの」

「傷つけられるところだけ、強くすることもできるってこと?」

「そう。そういうこと。力は使いようね」


 真斗は納得した様子で、すぐにまた、目線をバトルに戻した。

 しばらく、バトルを見ていると、真斗のお腹が音をもらした。


グルルルルー


「母さん、お腹すいた」

「そろそろ、昼ご飯にしよっか。ちょっと、母さん、食べ物とか飲み物買ってくるから、ここで待っといてね」


 母さんは席を立って、コロシアムの外に買い物をしに行った。

 真斗は飽きることなく、集中してバトルを見ていた。すると、


「なんか、テクニカルのほうで事故があったらしいぜ」


 周りがざわざわし始めた。

 そのころ、母さんは、昼食は何にしようかと店を見て回っていた。おいしいにおいがあちらこちらから漂ってくる。


「なにがいいかなー」


 母さんが悩んでいると、美香が走ってきた。美香は青い顔して言った。


聖夜さや。テクニカルの会場に向かう船が一隻、何者かに襲われたらしいの。偵察しに行った人が言うには、船は跡形もなくばらばらになってたって。しかも、その船の周りの海は凍っていたらしいの。もしかしたら、霜剣さんが…」

「え?どういうこと?」


 母さんの頭の中は混乱していた。


「父さんと直斗が乗っていた船が襲われた?ものを凍らす能力を持っている人は、そういるもんじゃない。となれば、父さんと直斗の船が襲われたの?二人は無事なの?」


 母さんは必死に考えた。そんなことはあってはならない。あっちゃいけないと自分に言い聞かせた。


「霜剣さんは必死に船を守ろうとしたと思う。でも、船の原型がなくなるくらいバラバラになっていたらしいの。その場の状況から判断するに、おそらく二人はもうこの世には…」

「そんな…。父さんと直斗が…」


 母さんは絶望した表情で地面に崩れ落ちた。


ドーーーーン


 その時、コロシアムのほうから轟音が響いた。中から悲鳴が聞こえる。コロシアムの中から大勢の人が逃げるように出てきた。多くの人が傷を負い、怪我をしている。


「マサト。マサトが!」


 流れてくる人ごみの中に真斗の姿が見つからない。まだ中に、何か動けない状況になっているのかもしれない。母さんは、無我夢中で真斗を探していた。真斗までも失うわけにはいかない。

 コロシアムの中に入ると、そこはがれきの山になって、黒い炎が辺り一面を覆いつくしていた。ゆういつコロシアムの外観だけが形を保っていた。


「どういうこと?」


 美香が母さんに追いついて、コロシアムの中に入ってきた。

 母さんは真斗が座っていた席に向った。しかし、真斗の姿はそこにはなかった。代わりに、そこの席だけがきれいに残り、その席を中心に何か起きたようだった。


「真斗が見つからない」


 母さんは美香に泣きついた。


「マサト…、マサトーーーー!」


 母さんは静まり返ったコロシアムの中で大声を上げて泣き叫んだ。その瞬間、


グゥォン


 急に鈍い音がした。すると、目の前に、右半身が黒い炎で包まれ、左半身が目が開けていられないほどのまぶしい白い光を放つ、人の姿をした何かがいた。


「か・あさ・ん?」


グゥォン


 そう言うと、その何かはすぐに目の前から姿を消した。

 その何かがまとっていた黒い炎はコロシアム中に広がる黒い炎と同じものだった。


「まさか。真斗?」

「え?あれが真斗君なの?どう見ても、あれは化け物よ」

「でも、いま、かあさんって」

「聞き間違えだって。今頃、真斗君は外であなたのことを探しているわ」

「いや、あれは絶対真斗よ。もしかしたら、イレギュラーの暴走?」


 母さんは確信していた。女の勘がそう言っていたのだ。


「イレギュラーの暴走!?それって、死ぬまで暴れ続けるっていうやつ?」

「そう。たぶん真斗も、直斗と父さんのことを聞いたのね。深い絶望は人をのみこむ。イレギュラーの暴走に間違いないわね」

「じゃあ、真斗君も死ぬってこと?」

「普通ならね。でも、ここには私がいるわ」


 母さんは、五属であるほかにもう一つ特別な能力を持っていた。それは、イレギュラーを無効化するイレギュラー。イレギュラーによって引き出された力を、無きものにすることができるのだ。


「なるほど。だから、さっきから少しも動じてないのね」

「イレギュラーの暴走なら、この力でなんとかできるはず。役人に気付かれる前に何とかしなくちゃ。美香、手伝ってくれる?」

「当り前よ。さっさと、真斗君を助けてあげましょ」


 母さんは目から流れ出た涙を服の袖で拭った。

 母さんの顔からは、怯えていた表情は消え去り、冷静さを取り戻していた。その顔は戦場にいた頃の聖夜の顔そのものだった。


「さあ、やるわよ」

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