第三話 船の上
南を行く船の上。真斗と母さんはデッキの上にいた。船から見える景色は右は海、左も海、前も後ろも海しか見えない。もうすでに陸から十分に離れ、辺り一面の海景色。真斗は初めての海に興奮していた。デッキにはものすごい勢いで風が流れていく。真斗は手を大きく横に広げ、体全体で風を受け止める。体を包み込むように流れる風は、温かく、どこか人を安心させるものがあった。
「母さん。きもちーねー。なんか、僕、鳥になっちゃったようだよ」
「そうねー。潮の香りもいいし、雰囲気さいこうねー」
「え?!それはないよ。なんか、お魚臭くて、気持ち悪くなっちゃいそう」
「えー。まだまだ真斗は、子供ね」
「子供だしー」
真斗は目を細くして言った。
「そういや、なんでこの船ってずっと帆に風を受けてられるの?さっきから一度も、たるまないよ」
「風属の人が操ってるの。あと、水の属を持った人が船を揺れないようにしたり、進路をとったりしているの」
「すげー。母さんもできるんじゃない?」
「人のお仕事は取っちゃいけないのよ。それに、私がやったら、帆が破けちゃうわ」
「母さん!なんか、あっち、すごい人が集まってる」
デッキの中心のほうに人がたくさん集まっていた。
「なにかしら?」
「行ってみよう!」
真斗が駆け足で向かうと、そこには、 △ の模様が彫られた腕輪をしている人がいた。腕輪は軍に所属している証であり、孫国の防衛に努めている証でもある。
「こんにちはー。みなさん、そろそろ退屈してきたところだと思うんで、ちょっとしたショーを始めたいと思いますー」
その人は自己紹介をしていた。髪が短く、胸の大きいその女性はすごくアグレッシブな雰囲気だった。男性にも劣らないほどのオーラがあり、とてもカッコいい女性であった。これから、ショーが始まるようだ。
「今日は子供さんが多いですね。そこの君、これから何をしに行くのかな?」
その女性は一人の子供にやさしくたずねた。
「バトルを見に行く!」
その子供は大きな声で答えた。
「そうだね。ここにいる人は、これからバトルofスクールを見に行くんだよね。私はそこで、みなさんの安全を守る仕事をしに行くんだ。よろしく。さて、前置きはこれくらいにして、さっそく、ショーを始めたいと思います」
そういうと、その女性の足が地面から少しずつ離れいった。体が浮いている。そして、急にスピードを上げて、まっすぐ、上に飛んでいく。そして、船から見えるその姿はどんどん、どんどん、小さくなっていき、ついに見えなくなってしまった。
「あれ。いなくなっちゃた」
真斗は目を丸くして言った。すると、急にデッキに吹いていた風が、目を開けていられないほど強くなった。少しして風がやみ、前を見ると、そこにはその女性の姿があった。
「すげー!テレポート!?」
真斗は興奮して叫んだ。
「まあ、そのようなもんだ」
「もう一回!もう一回!」
真斗の興奮はすでに最高点にあった。
「じゃあ、次は君の番だ!」
その女性はそう言うと、真斗の周りの風を操り、真斗を天高く飛ばしあげた。
「うおーおーうおー!フオー!」
真斗の体は宙に浮き、鳥のように空を飛んでいた。船の周りをぐるぐる回り、デッキを抜け、飛び上がる。
「うあーあーあーあー!え、え、えーーー!」
真斗の体が徐々に船から離れていく。
「あ、ちょっとやばいかも…。集中、集中。ほっ!」
真斗の体は徐々に船に近づいてきて、デッキに着地した。
「もう、満足です」
真斗は少し疲れた表情で言った。それから、もう二つか三つか見せ物をしてショーは終わった。
「どうも、ありがとうございました」
すると、母さんはその女性に近づき、声をかけた。
「相変わらず、派手なことが好きなようね。美香」
「聖夜も、相変わらずきれいね」
「はいはい。いつもありがと」
母さんとその女性は親しげに話し始めた。美香は昔、同じ戦場で戦っていた戦友である。この二人はそのころから気が合い、とても仲が良かった。
「この、聖夜みたいなきれいな顔立ちの子供は、もしかして…」
「そう、私の子よ。真斗っていうの」
「こんにちは、マサト君。私は美香ね。よろしく」
真斗と美香は改めて挨拶をした。
「さっきはごめんね。ちょっと調子に乗りすぎちゃった。大丈夫だった?」
「はい!もう、なんか、すごかったです!最後のほうは頭クラクラしてましたけど」
「あはー。まあ大丈夫そうでよかったー」
美香と真斗はすっかり仲良くなった。
「ちょっと中で話さない?」
「そうね。ジュース買ってあげるけど、マサトはどうする?」
「いくっ!」
三人は船の中にあるカフェに行く。美香と聖夜は思い出話に花を咲かせていた。聖夜と美香は昔同じ班でともに戦っていた時期があったのだ。真斗は少し退屈そうで、落ち着きがなかった。それを見かねた美香は真斗に
「マサトくん知ってる?聖夜って、五属なのよ」
と、耳元で囁くように言った。
「五属ってなに?」
「属の火、水、土、風、雷を全て扱える人のこと。この世界にほんのわずかしかいないの」
「へー。母さんって、やっぱすごかったんだ」
「その話はしないでっていったでしょ?他の人に聞かれたら、私、命を狙われることになるのよ」
「だから、ちっちゃな声で話してるんじゃないの。それに、いずれ、マサト君にも話しとかないといけなかったしょ?スクールに行く前でよかったじゃない」
「まあ、それは一理あるわね」
「なんで母さんが命を狙われなきゃいけないの?」
「いーい?これはここだけの話よ」
三人は小さな声で話し続けた。
「五属は少ないがゆえに、その場にいたら強力な戦力になるの。強い味方は誰でも欲しいもんでしょ?だから、五属のことが役人に知られれば、聖夜は戦いに駆り出されて、マサト君と一緒に過ごすことができなくなるかもしれないの」
「えっ。それはやだ」
「そうね。だから、これはここだけの秘密、ね?」
「直斗にも話しちゃいけない?」
真斗は母さんにたずねた。
「直斗には私から話すわ。帰ったら、話すことがいっぱいあるわね」
「バトルのこともいっぱい話すしね」
それから少しすると、空を飛んだことや、母さんが五属であったことなどを聞いて、疲れたのか、真斗は眠ってしまった。聖夜と美香は父さんの霜剣のことや、直斗のことについて話したり、今の役人の動きについて話したりしていた。
それから、まる二日が経った。すると、水平線の彼方から島が姿を現した。近づいてくると、そこには、島の中心にどっしりと構える大きな建物が姿を見せる。その建物とは、バトルofスクールの会場、バトルコロシアム。一年に一度の大会というだけあって、多くの人で島が溢れていた。和州中にある学校から、予選を勝ち抜いてきた強者が集まる。観客はスクールの生徒やその親、ハイスクールの関係者まで、いろいろな人がこの日を待ちに待っていた。会場の周りにはいろいろな店が立ち並び、賑わっている。食べ物が売られ、飲み物が売られ、剣や刀、弓などの武器を扱っている店もある。
船が港に着き、真斗と聖夜、美香は船から降りた。
「はー。これから忙しくなるなー」
美香がため息をもらす。
「何事もなければいいけど」
「おそらく、役人も何人か来ているはずだわ。くれぐれも見つからないようにね。フード付きのマントなんか、羽織っておくといいかもね」
「心配してくれてありがとう。そうね。買っておくわ。また、会いましょ」
「じゃあ」
真斗と聖夜は美香と別れ、街の中に入って行った。
真斗は目を輝かせ、心の中で思う。
「バトルofスクールって、すげーな」




