第二話 バトルとテクニカル
この世界は大きく5つの国に分かれている。ヨーロッパから西アジア、南アジアまでを含む世界最大の国。オーダー。アフリカ全土を領地に治める、ヘリオポリス。北米を治める、アステカ。南米を治める、インカ。そして、東アジア、東南アジアを治める孫国。
この五つの国は、その圧倒的なイレギュラーの力で地方を治めている。どの国も、権力者が持つ力は絶大で、神の化身と言われるほどであった。
真斗と直斗は、かつて日本と呼ばれていたところに住んでいる。今は孫国によって支配され、和州と呼ばれていた。和州にはスクール、ハイスクールと呼ばれる学校がある。
伊吹一家はテーブルを囲んで、朝食を食べていた。すると、窓の外から子供の声が聞こえた。
「おーい!早くいくぞー。次遅刻したら、俺、先生に何されるかわからないよ」
「お前は遅刻しすぎなんだよ。ほらっ、いくぞ」
外から聞こえてきたのは、スクール生の子たちの声だった。
「そろそろ、こいつらもスクールに行き始めるのか」
「そうねぇ。早いもんねぇ」
母さんが少し寂しそうに答える。
真斗と直斗はもう六歳。来年からスクールに通い始めることになる。二人の今の姿からは、赤ちゃんのころに持っていたつぶらな瞳や、丸々とした可愛い体は、もう見る影もなかった。真斗は母さんに似て、整った顔で、かわいらしい大きな目をしているが、笑みを浮かべるその口元は何かを企んでいそうで、可愛げがない。直斗は父さんに似て、目つきは鋭く、きりっとした顔でクールな印象を受ける。二卵性で生まれた真斗と直斗は子供のころから似ていなかった。しかし、心は通じ合い、お互いを認め合っていた。
「バトルには出てほしくないわね。テクニカルならまだしも…。あっ」
母さんと真斗の目が合った。母さんは心の中で、しまったと、思った。
「バトルってなに?」
真斗が興味津々にたずねた。
「バトルはバトルofスクールのことだよ」
父さんが答える。
「なにそれ?」
「スクールの子たちの中で、誰が一番強いのか決めるんだよ。そこで、いい成績をとると、いいハイスクールにいけたり、いろいろと、いいことがいっぱいあるんだよー」
「面白そう!」
母さんは心配そうに真斗を見つめた。
「怪我するし、最悪死ぬこともあるのよ。ほんとに危ないんだから。」
「大丈夫だよ。最近は死ぬ子なんて、ほとんどいないし」
父さんは答える。
「昔はすごかったんだぞー。一回の大会で二人くらいは死んでたな。」
「もう、なんか戦場みたいだね」
真斗は少し楽しそうだった。
「僕、バトルでいろんなやつと戦ってみたい」
真斗は、目をキラキラ輝かせて言った。
「この前、山賊に襲われたばかりじゃない。今度はあんな怪我だけじゃ済まないのかもしれないのよ?」
「大丈夫。戦いって怪我するもんだし、母さんが心配するのは分かってるけど、いろんなやつと戦って強くなりたいんだ。」
真斗は無邪気な顔で答えた。
「ねえねえ、テクニカルってなに?」
直斗がバトルの話を割って、たずねた。
「テクニカルはテクニカルofスクールのこと。技の美しさとか威力、あとスピードなんかを競うの。それで、一番得点の高い子が優勝。テクニカルでも、いい成績をとれば、いいハイスクールにいけるわ。他の人と戦うわけじゃないから、怪我することなんてないし、こっちのほうがいいと思うけど」
「マサト。こっちのほうが面白そうじゃない?学べることも多そうだし」
「いや、バトルのほうが燃えるし、見ててワクワクするに決まってるじゃん」
「そういや、そろそろ始まるなー。バトルもテクニカルも。見に行くか?」
「父さん、大丈夫なの?」
母さんが不安そうに言った。
「心配ないさ」
和州は、孫国を敵の侵略から守る重要な場所にあり、海から来る異国の敵を追い返すという重要な役割を担っていた。父さんと母さんは、昔、最前線でその役割を果たしていた。しかし、子供が生まれるということになり、一度最前線から身を引き、孫国の監視役である役人から姿をくらましていた。
「最近、役人の目も厳しくなってるっていうし、危ないと思うけど」
母さんは、バトルofスクールやテクニカルofスクールを見に行くのにあまり乗り気ではなかった。
「そうだなー。いつ見つかってもおかしくはない状況にあるのは間違いない。けど、バトルや、テクニカルは子供たちにとって、絶対いい刺激になるとは思わないか?国と国との争いが続く世の中、平和なんてないんだ。いずれ、どこかで戦う日は来る。そのために、一度は戦いというものは、どういうものか知っておくことは必要だと思う」
父さんは真剣な顔をして言った。真斗と直斗は、口を挟む時ではないと察し、黙っていた。
「まあ、そうね。年の近い子の戦いはいい影響になるかもしれないわね。あなたがそこまで考えているとは思わなかったわ。たまには父親らしいところもあるのね」
母さんは少し安心したようだった。
「俺もいちよう、父親だからな」
「いちようね」
真斗は、父さんが誇らしい顔をしているのを、けなすように言った。
「お前もいうようになったなー」
父さんは笑いながら、逃げようとする真斗を捕まえて、グーした拳で頭をぐりぐりした。
「いたいっ、いたい!」
真斗が叫びながら暴れた。
「ごはん中!」
母さんは呆れた顔で、父さんと真斗を叱った。
朝ご飯を片付けた後、再びテーブルを囲み椅子に座った。
「で、どっち行くか?」
「僕、バトル行きたい!」真斗が叫んだ。
「僕、テクニカル!」直斗が負けじと叫んだ。
「バトル!」
「テクニカル!」
「バトル!」
「テクニカル!」
「バトルだろ!」
「テクニカルだって!」
二人は取っ組み合いになって、喧嘩し始めた。
「二人ともやめなさいよ。父さん、ボーッと見てないでなんとかしてよ」
「わかった、わかった。今回は別行動だな」
「いっつも、一緒にるのに、なんでこうなるかしら」
父さんと母さんは呆れた顔をして言った。
「別行動?」
直斗が不思議そうに言った。
「ナオトがテクニカルとかいうからだろ」
「マサトがバトルとかいうからじゃん」
二人はお互いを睨みつけた。
「二人とも、別行動したことないもんな。いやか?」父さんがたずねた。
「べつに、そういうわけじゃないけど。なあ、ナオト」
「うん」
二人は、少し心配そうに目を合わせ、すぐにそらした。
「いっつも喧嘩するくせに、いっつも一緒にいるもんな。今回もどっちかにして、一緒に行くか?」と、父さんが言った。
「え。僕、バトルがいいけど」
「いや。テクニカルがいい」
「んー、やっぱり別行動にするか。もう、これに関しては無理に一緒にすることもないだろ。別々で得ることもあるだろうし」
父さんはそういって、二人を説得した。
「じゃあ、俺は真斗とバトル行くわ」
「ダメです。二人で、はしゃいで迷子になるのが目に見えてるじゃないの」
「父さんは方向音痴だもんね」
真斗は笑いながら言った。
「お前もだろ」
父さんが真斗に突っ込む。
「まあ、そうだな。じゃ、ナオト、テクニカルいくか!」
「うん!」
「ナオト、父さんを頼むわね」
「任して!母さんはマサトをよろしく」
「おい、マサト。言われてるぞ」
「父さんもだろ」
真斗がつっこむと、さっきまでぎくしゃくしていた雰囲気が、和やかな雰囲気に変わった。
「なんか燃えてきたー!ナオト!公園いこうぜ!」
「よっしゃ!今日は特訓だ!」
喧嘩していた真斗と直斗はすっかり仲直りして、とても楽しそうにしていた。
「今日は早く帰ってきなさいよー」
「はーい」
こうして、真斗は母さんとバトルofスクールに、直斗は父さんとテクニカルofスクールに行くことになった。
バトルofスクールは、日本の最南端に位置する島で行われる大会。テクニカルofスクールは、最北端に位置する島で行われる大会。真斗と直斗はその日、初めて別行動をすることになる。この別行動が真斗と直斗の運命を大きく変えることになろうとは、誰も予想しなかったことである。
伊吹一家は港で別々の船に乗ろうとしていた。
「じゃあな。テクニカルはどうだったか、また聞かせろよ」
「マサト。やっぱり、テクニカル、一緒にこない?」
直斗が少し寂しそうにたずねた。
「いや、それはやめとくよ。ナオトがバトルにくれば?」
「それはない」
「だろ?」
「だな」
二人は少し寂しそうに笑った。
「じゃあ」
「また」
こうして、真斗は南に、直斗は北に出発した。