落ちこぼれ
これから午後の授業が始まる。属の実践である。
「じゃあ、まずは座禅ね」
いつものように座禅が始まる。実践前の一時間、真斗は動揺した心を落ち着かせようとしていた。
「集中、集中」
真斗はすぐに自分の世界に入った。周りには多くのクラスメイトがいたが、集中を途切れさせることはなかった。心を無にし、呼吸を整える。
「はーい。みんな集合」
真斗は素早く立ち上がり、先生のもとへと集まる。そんな真斗を、クラスメイトのみんなは驚いた表情で眺めていた。
「あら、真斗。今日は集合するの早いわね」
いつもならここで、先生が集合してこない真斗を警策でたたきに行くのだ。
「あー、なんか今日は体が勝手に動きました」
「そう。真斗大丈夫?気分でも悪いの?」
「いや、大丈夫です。授業しましょ」
真斗は先生に精一杯の笑顔を見せ、授業が滞ってしまわないように答えた。滞ってしまえば、またあの冷たい目で見られることになるかもしれないからだ。
「そうね、授業進めましょうか。ではみなさん、まずは手で握れるくらいの小石を拾ってきてください」
「はーい」
生徒は各自散らばって、小石を探しに行った。そんな中、真斗はその場に残った。そして、先生に尋ねた。
「先生、俺はどうしたらいいですか。俺、属使えないんで授業に参加できないと思うんですけど」
「あ、そうねー。みんなの実践を見学しておこっか。できなくても見ることはできるでしょ?見て学びましょ。」
「あ、はい」
真斗は暗い顔をして答えた。
「俺は先生にも嫌われているのかな。それも仕方がないことなのかな。無属は嫌われる。いくら先生でも無属の生徒とは関わりたくないかもしれないな」
真斗はネガティブになっていた。心には負の感情しかわいてこなかった。
「胸がいたい」
真斗は胸を押さえる。
「はーい。みんな集合」
クラスのみんなが先生のもとへと集合する。みんな笑っていて、楽しそうだ。属が使えることがうれしいのであろう。しかし、真斗はクラスのみんながそのように思っているとは考えられなかった。
「周りのクラスメイトが笑っている。不気味な笑い声で笑っている。俺を見て笑っている。笑うな。見るな。俺は、俺は」
真斗にはみんなの楽し気な笑いを自分をののしって笑っているようにしか思えなかった。真斗はこの場から逃げ出したかった。しかし、授業をサボることはしたくなかった。真斗はどうしたらいいのか分からなかった。頭の中でせめぎ合う。
バチッ
野田先生が小石に雷を流した。そのまぶしい光と音のおかげで真斗は我に返った。
「とりあえず授業だな」
真斗は気を取り直して、ぼんやりとする頭で授業を理解しようとした。
「まずは小石に属を宿してみましょう。小石を握って力をこめる。はい、やってみて」
クラスのみんなはそれぞれ拾ってきた小石に力をこめる。一人一人質としての差はあるものの多くの生徒が成功していた。剛助は風を、聡間は雷を、太一は水を。
「こんなの簡単じゃねえか。誰でもできるよ先生。なあ、真斗」
聡間が先生の少し後ろで見学している真斗にちょっかいをかけた。
「やってみろよ」
聡間は雷を宿した小石を真斗に向って思いっきり投げつけた。雷を宿した小石は普通の小石より速度を増して飛んでいく。
「いてっ」
小石は真斗の頭に直撃した。いつもなら、特に座禅をした後の真斗なら、なんなくキャッチできるはずであったが、ボーッとしていたからであろうか小石を避けることができなかった。そして、真斗は後ろに飛ばされた。
「おいおい、ちゃんと取れるようにまっすぐ投げたんだから、しっかり取ってくれよ落ちこぼれ。これだから落ちこぼれは困るよなー」
聡間が笑いながらそう言うと、クラスの多くの生徒が一緒になって笑った。真斗は軽く頭を押さえて、起き上がる。
「ごめん、ちょっと考え事してて」
真斗はじんじんする痛みをこらえて、笑みを浮かべた。
「真斗大丈夫?」
「いいんです、先生。授業進めて下さい。俺、授業受けたいんです」
「でも、」
「いいんです。さあ」
野田先生は真斗を心配しながらも渋々授業を進めた。先生の心配する気持ちは真斗に届いていなかった。真斗は先生が授業を滞らすなと脅しているように聞こえたのだ。
「なんだよ、真斗の奴。言い返して来いよ」
聡間は心の中では真斗が対抗してくるのを期待していたのだ。
「みんなが俺を見て笑っている。くそっ。はー」
真斗は自分が怒っているのか、落ち込んでいるのか、悲しんでいるのか、もう何を考えているのか分からなくんっていた。頭の中はぐちゃぐちゃだった。
授業が終わり、真斗は家に帰った。家では母さんが食事を用意して待っていた。
「だだいまー」
「おかえり、真斗。今日は遅かったわね」
いつもは日が落ちる夕暮れ時には家についているはずであり、母さんが夕食の準備をしているときに真斗は帰ってくるのである。しかし、今日はすっかり日が暮れ、辺りは真っ暗である。
「うん。今日は歩いて帰ってきた」
「え!?そ、そう。まあ、ご飯食べましょ。手洗ってきなさい。母さんお腹すいちゃった」
母さんは真斗がいつもと違うことに気付いた。
「うん」
食卓には母さんが腕を振るって作った料理が並ぶ。今はまだお米をつくる準備の段階で収入はなく、今までの貯金でなんとかやっている。幸い、父さんのおかげで貯金は結構あったのだ。
「さあ、食べましょ。いただきます」
「いただきます」
二人は箸を手に取り、ご飯を食べ始めた。
「今日は学校どうだった?」
母さんはいつものように真斗に尋ねた。
「今日は属のこと教えてもらった」
「属ねー。属って難しいでしょ?」
「母さん」
真斗は茶碗の上に箸をおいて、言った。
「なんで俺って無属なの?」
「え?」
母さんは突然の真斗の言葉に驚いて言葉が出なかった。
「俺、属を使えるようになりたい。でも、使えない。俺は落ちこぼれなんだ」
「急にどうしたの?学校でなんかあったの?」
「無属はスクールに来るべきじゃないって。無属は死んだほうがましだって。なんで、俺だけ」
母さんは知っていた。真斗がなぜ属が使えないのかを。おそらく、イレギュラーの暴走のせいだろう。イレギュラーの暴走をしたものは普通、力を使い切って死んでしまう。真斗の場合は、母さんのイレギュラーを無効化する力でなんとか死を免れることはできた。が、その分力の発達に他の人より遅れがあるのだ。
「そのうち、使えるようになるわよ」
「そのうちっていつだよ!無属は死んだほうがいいんだ」
「真斗」
母さんは声を低くして、怒った。
「死んだほうがいいなんて簡単に言っちゃだめ。父さんと直斗のこと忘れたわけじゃないでしょうね。真斗。あなたは何のためにスクールに行ってるの?強くなりたいからじゃないの?他の人にどう見られたっていいじゃない」
「うるさい!母さんは俺の気持ちなんてわからないんだ!俺が無属なのは母さんが悪いんだ。母さんがこんな俺を産んだから。もう、いい!」
「真斗!」
真斗は立ち上がり、走って自分の部屋にこもってしまった。
「母さんは俺のことなんてどうでもいいんだ。俺が傷ついたってどうでもいいんだ」
真斗は布団の中で泣いた。大声で泣いた。田んぼが広がる静かな場所で真斗の泣く声が響き渡る。それは真斗が孤独であることを強調しているようだった。




