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第九話 無属

 属。それは火、水、土、雷、風を操ることのできる力。多くの人は五つの属の中の一つを得る。その年齢はおよそ6歳である。6歳の誕生日を迎えた時、誰かからの贈り物かはわからないが、属という力を得るのだ。6歳が一般的なのである。だからなのであろう、7歳からスクールが始まるのだ。6歳の誕生日で属を手に入れ、7歳でスクールに入る。これが世間一般の人の道である。しかし、稀に異なる道を行くものがいる。6歳より早くに属を手に入れる者。6歳より遅くに属を手に入れる者。一生属を手に入れることはない者。

 真斗は7歳になっても属に恵まれることはなかった。属無し。無属なのだ。属は人が生活する上で当たり前のものである。昔、電気があることが当たり前であるように、今は属があることが当たり前なのである。無属=弱者。弱者は争いが溢れるこの世界では忌み嫌われる。無属はスクールに通うべきではない。それが世間の考え方であった。


「今日は、属についての授業をします」


野田先生の授業が始まる。


「セーフ!」


真斗は今日も、いつものように教室へと滑り込む。


「今日はアウトね。私がいいというまで、立って授業を受けるように」


先生は優しそうな顔で真斗に微笑んだ。


「えー、足が死ぬ」

「死にません」

「はい」


 この時、いつもと何か違っていた。教室の雰囲気というか。何かが足りないというか。何か違和感があった。真斗はカバンから、ノートと鉛筆を取り出し授業の用意をする。そして、先生からの罰を素直に聞き入れ、しばらくの間立って授業を受けた。


「今日の午後は属を使った実践を行います。座学はそのための授業だからしっかり聞いてね」


「やっとか」


剛助がボソリとつぶやく。


「先生!属を使って何をするんですか?」


真斗が手をあげて、大きな声で尋ねた。


「お前には関係ねぇよ。無属が授業の邪魔すんな」


聡間が横から真斗に口を出した。


「は?」


真斗は抵抗しようと聡間に対抗しようとした。するとその時、他のクラスメイト達が真斗の方に目をやった。真斗はこの時、寒気を感じたような気がした。みんなが真斗を見る目は冷たく、怖い。違和感の正体はこれだった。


「無属はおとなしくしてろ」

「無属が属のこと知る必要あんの?」

「帰れ」

「消えろ」

「死ね」


 今までここまで否定されることはなかったのだが、しびれを切らしたのだろうか。クラスの生徒が口々に不満をこぼす。


「ごめん」


真斗はみんなの視線に怯え、反論できなかった。蛇に睨まれた蛙のように身がすくみ、身動きが取れない。抵抗しようもんなら殺してやると言われているようだった。真斗の口からはこれ以上何も出なかった。剛助は興味なさそうにしている。太一は眠そうだ。聡間はざまあというような顔をしていた。


「聡間、少し言い過ぎよ。真斗もこれからその話をするから、ちゃんと授業聞いといてね」


野田先生の一言で、教室の雰囲気は戻った。真斗はいつも授業で質問するのが当たり前だであったが、この日の授業では質問できなかった。


「無属の俺が属の質問をするのは間違っているのだろうか?」


いつもポジティブな真斗だが、この日はネガティブにならざるを得なかった。みんなの視線がそれほどきつかったのだ。だが、真斗の気持ちを気にすることなく、授業は進む。


「属は、このようにそのまま使うことができます」


先生は親指と人差し指を立てて、その間に雷を流した。チリチリッと音がして、ピカピカッと光る。その雷は小さくてかわいいもののように見えるが、雷から出る光は触ると火傷しそうだ。うとうとしていた太一は目を覚ます。


「太一、起きてる?寝てたら、この雷があなたの体を流れていたかもしれませんでしたよ」

「よかったー」


 太一はタレかけていたヨダレを吸い込み、そののろのろとした口調で言った。


「他にはこのような使い方があります」


野田先生はあらかじめ机の上に置いていた石ころを手に取り、力を込めた。すると、石ころに雷が流れ、表面には稲妻らしきものがまとわりついた。


「おー」


生徒から感心の声がもれる。


「このように、物に属を宿して使うこともできます。みなさんがよく知っているような物は、剣や刀、弓矢、拳のようなものですかね。このように属は物に宿して使うことによって、簡単に、また少しの力で属を扱うことができるのです。逆に言えば、属をそのままの形で使うことは、難しく、かなり力が必要になります。例えば、私のように雷属であれば、拳に雷をまとわせ戦うことは容易です。しかし、雷を手から放ち、相手に攻撃するのは難しいのです」


生徒は分かったような、分かっていないような顔をしていた。皆が知っての通りだが、太一は口を開けカーンとしていた。


「なぜ物に宿した方が簡単なのですか?」


剛助が質問する。ここで、いつもなら真斗が質問するところであるが、真斗は黙ったままであった。


「いい質問ね。それは属の性質によるものです。属は安定を求めます。空中などでぷかぷかさまよっているよりも、どこかに定着したいと望んでいます。だから、物に宿したり、まとわせたりした方が効率的で簡単なのです」



午前の座学の授業が終わり、休み時間に入った。真斗は授業はしっかり聞いていたものの、気分は相当落ちていた。そこに追い討ちをかけるように聡間が話しかけてきた。


「よー、落ちこぼれ。今日も遅刻か?落ちこぼれだから仕方ないか」


「うるせぇよ」


真斗は小さな声で元気なく答えた。


「ようやく、大人しくなったか。ちょっとは自分の立場を考えろな。お前は無属なんだよ。落ちこぼれなんだよ。せいぜい隅っこの方でちっちゃくなってろ」

「くっ」


真斗は言い返すことができなかった。みんなの視線が怖かった。


「言い返せば、あの視線がまた俺を。もう、嫌だ」


真斗は表には出していないが、心の中では泣いていた。みんなが楽しく、お弁当を食べている中、真斗の橋は止まっていた。


「無属ってなんだ?生きてちゃいけないのかよ。はー」


窓から ぼんやりと外を眺める真斗。悲しさからか、イラつきからか、もしくは恐怖からか、箸を持つ右の手が震えていた。


「ふっ。いよいよおかしくなっちゃったか」


真斗は左手で震える右手を抑え、軽く深呼吸をした。


「食べるか」


落ち着きを取り戻した真斗は重たい右手をを動かし、食べ物を口へと運ぶ。お腹が拒んでいても無理やり押し込む。クラスのみんなが楽しそうにお弁当を食べている中、真斗は一人虚しかった。

太一はそんな真斗を目の端で見ていた。優しい心を持っていた太一は真斗を放っておくことはできなかった。しかし、声をかける勇気もなく、ただ見ていることしかできなかった。


「真斗のことじろじろ見過ぎだって」


クラスメイトが太一に小声で言った。


「う、うん」

「あいつと仲良くなろうなんて思うなよ。太一、お前も弱くなっちゃうぞ。呪われるぞ」

「あ、そうなんだ」


太一は苦笑いをして答えた。

真斗はお弁当を食べ終えた後、学校の屋上へ上った。仰向けに寝転がり、空を眺める。


「俺はこの世界で生きていけるのか?なー、直斗」


真斗は直斗と無邪気に遊んだ時のことを思い出していた。


「直斗だったら、どうするかな?」


真っ青な空に直斗の顔を見て、真斗は思った。

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