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飛鳥の想い




長く、何の意味すら持たない戦禍から数日が経つ。


英雄同士の天下分け目の戦いになるはずだった一戦は、一人の刺客が放った脅威により無意味な互いの殺し合いへと変貌した。



飛び交う怒号。


飛び散る鮮血。


幾多もの兵士たちが地に伏した。



戦いの後に残ったものは本土侵略を食い止めた事実だけが残るのみだった。多くの犠牲と引き換えに得た対価としてはあまりにも寂しいものであり、同時に数多くの有能な兵士たちをも失うことを考えると、結果としてはマイナスになる。


それだけではなく、残された人々にはとても修復が出来ないほどの大きな傷が残った。



誰がこの結果を望んだのか。



否、誰も望んでなどいない。望んでいない結果は現実として、容赦なく立ちはだかる。












「……」



一人の亡骸が眠る暮石の前に佇むのは皆の中心に立つ呉の王、雪蓮だった。口を真一文字に結んだまま言葉を発することはない。


いつもはキラキラと宝石のように光り輝いている彼女の瞳も、悲壮感が漂い光を失っていた。同時に目は真っ赤に腫れ上がっていて、つい今しがたまで涙を流していたことが見て取れる。


視線の先には二つの暮石が並んでいた。片方は先代の王である孫堅のもの、そしてもう一つの暮石は……。



「飛鳥……何でこんなことになっちゃったのかな」



呉に舞い降りし御遣い、時雨飛鳥のものだった。今回の戦禍を起こした直接的な要因、それは何を隠そう飛鳥に手傷を負わせたことに始まる。


それでもまさかこのようなことになるとは、誰一人想像などしなかった。彼を射抜いた矢尻には即効性の猛毒が塗られており、傷口から瞬く間に彼の身体を侵食していった。


飛鳥は傷を負った時点ですでに手遅れだと悟ったが、自分だけが戦いを静観している訳には行かないと、普通であればのたうち回るほどの痛みや苦しみを隠して参戦。


問題ないという彼の言葉を誰一人として疑うものは居なかった。


当時の医療技術で飛鳥を助けることは不可能。仮に撃ち抜かれて直ぐに解毒を試みたところで多少の延命処置が関の山であり、結局は長い間彼を苦しませることになっていたに違いない。



「……」



声を掛けたところで返事が返ってくることはない。ポツリと呟いたところで再び口を結ぶ。


当然この戦国の世の中、いつ自分の身に命の危機が迫るかなど分からない。仮に今日が何事もない平穏な一日を送れたとしても、もしかしたら明日の陽は拝むことが出来ないかもしれない。


だからこそ飛鳥が命を落とす可能性も十分に想定出来た。



「どうして私の周りの人たちはどんどん逝っちゃうのかな……」



しかし、簡単に彼の死を受け入れられることが出来るほど、強靭な精神力を持ち合わせていない。吐き捨てるように呟く雪蓮のまぶたには再び涙が溢れていた。堪えようと思う気持ちに反して、抑えきれない彼への想いが滴となって頬を伝う。


彼が亡くなってから何度涙を流しただろうか。事の発端から本日に至るまで、泣いている時間の方が圧倒的に多い。ましてや亡くなったのが、自分が最も大切に想っていた人物だとすれば、思い入れもより大きなものとなる。


自分は命を助けてもらった、だが自身の命と引き換えに飛鳥を救うことは出来なかった。


目の前で自分の大切な人は息を引き取った。


いくら嘆いたところで飛鳥は戻ってこない。目の前にある彼の墓と、土中に埋められた亡骸が何よりの証拠だ。



「ねぇ、教えてよ飛鳥」



墓石に向かって言葉を投げ掛けるが、当然言葉など返って来るわけがない。答えが返ってこないことなど分かっているのに、聞かずにはいられなかった。


もしかしたら声が返って来るのではないか。ありえない可能性にしがみつかなければならないほど、彼女の心は摩耗し、同時に憔悴しきっていた。


今にも消えそうな背中。


その面影は到底一国の王である姿とはあまりにもかけ離れすぎている。



「うっ……飛鳥ぁ、会いたいよ……あすかぁ」



ボロボロと子供のように涙を流す。


一度決壊した涙腺は止まることなく断続的に頬を伝う。身体中の水分が枯れるのではないかと思うほど、もう泣き疲れたはずなのに。


それでも涙が止まることはない。


会いたい。


飛鳥にもう一度会いたい。


首からぶら下げられたネックレスを両手で強く握りしめ、強くそう願う。決して叶うことのない願いだとしても、願わずにはいられなかった。


雪蓮の首からぶら下がっているネックレスは形見であり、飛鳥が事切れる前に、彼の手で直接結えつけられたものだ。自分の生き様を引き継いで欲しいという強い意志の元彼女に引き継がれた。


でも彼はこの世にはもういない。


頭では分かっていても、認めたくなかった、受け入れたくなかった。


受け入れたら彼の存在が永遠に消えてしまうような気がして。








どれくらい泣き続けていただろうか、背後の草むらがガサガサと音を立てる。


自分の家臣だろうか、それとも異国の敵兵だろうか。仮に敵兵だったとしたら、奪い損ねた自分の命を奪いに来たのかもしれない。


ただどちらにしても、今の雪蓮にとってはどうでもいいことだった。


いつもの彼女なら颯爽と南海覇王を構えて万が一の戦闘に備えていたかもしれない、だが今日の雪蓮にそんな気持ちには到底なれなかった。近付いている物音にも全く反応せず、光の失われた瞳で墓石をじっと眺め続ける。


いっそのことこのまま敵に襲われることで彼と再会することが出来るのであればと、負の感情ばかりが先行するが、この現状で前向きな気持ちになれという方が無理な話でもあった。


やがて近くの茂みから一人の人物が姿を現す。




「策殿、ここにおられたか」



家臣の一人、祭だった。


口ぶりからしてそこまで雪蓮を探すのには時間が掛かってないのだろう、まるで居場所を既に悟っていたかのような口振りだ。


雪蓮に話す姿はあくまで淡々を貫いており、昨日の出来事を感じさせないものがある。しかし彼女もまた心中は決して穏やかなものではなく、飛鳥の死を悲観していないわけではない。



「いつまでもこのような場所におられては何があるか分かりませぬ。早く館に戻りますぞ」


「……」


「策殿、聞いておられるのか?」



長い時間雪蓮がここにいたことは既に分かっていた。


呉の王として、いつまでもここにいるわけにはいかない。周囲は草木に覆われ、誰もが姿を隠せる状態になっている。はたから見ればいつでも襲って下さいと言っているようなものであり、普通に考えて付き添いもいないなんてことはあり得ない。


最悪の事態を想定しつつも、比較的柔らかい言葉を選んで雪蓮に問いかけるも、彼女は祭の言葉が聞こえていないかのように、一切の反応を示さなかった。



「策殿!」



痺れを切らしたように語気を強めて雪蓮の名を呼ぶ。流石に感情の変化に気が付いたのか、俯いた顔をゆっくりと上げて答える。



「……聞こえているわ。私のことなら放っておいて」



しかしながら返事は素っ気ないものだった。


いつもの明るく笑顔を絶やさない雪蓮の姿はどこにもない。幼き時代から見てきた祭から見ても、今の雪蓮の姿には驚きを隠せなかった。


顔はやつれ、悲壮感に溢れた彼女の姿を数日前に想像出来る者など誰も居ない。



「大切な側近が亡くなって悲しむのは当然……じゃが塞ぎ込んでいてもどうにもならぬことも分かっておるだろう?」


「……」



分かっている。


そんなこと言われなくても分かっている。


何をしたって取り返しが付かないことくらい分かっている。


でも飛鳥を失った喪失感から立ち直ることは容易ではなかった。雪蓮の中で飛鳥の存在がかけがえのないものとなっていたからだ。


祭の言葉に対して弱々しい言葉で反応をする。



「……飛鳥は真っ直ぐな瞳でずっと私と居たいって、隣にいたいって言ってくれたわ。彼が嘘を付くはずがない、そう思っていた」



信じて疑わなかった。


彼のことだから嘘はつかない。これからもずっと雪蓮の隣に並び立ち、天下統一に向けて歩んでくれると思っていた。


でも、彼は死んだ。



「私があの時……あの時気を抜かなければ!! 飛鳥は、飛鳥は死ななかった!!」



私のせいで彼は死んだんだと叫ぶ。


墓に向かって背を向けなければ刺客は矢を放つなどしなかっただろう。そもそもの話、もしあの時彼を母の墓に連れて行かなければ、毒矢を食らうなんてこともなかったはず。


本来なら自分だけで行く墓に飛鳥を連れて行ったことで雪蓮自身を庇い、彼は二度と還らぬ人となってしまった。



「人の死とは想定出来ぬもの。どれだけ万全の準備を整えていたとしても、天命に逆らうことは出来ぬ。時雨とて志半ばで散るのは無念だったろう……だが策殿、奴は策殿が塞ぎ込むことを本当に望んでいると思いか?」


「……どういうことよ」


「時雨が事切れる時に申していたじゃろう。後は任せた、と」



彼が天に旅立つ前に言っていたことを忘れるわけがない。自分の分身とも言える首飾りを雪蓮に預けだ後にハッキリと『後は任せた』と伝えた。


決して遠回しな意味ではなく、これからの呉の発展と平穏を心から願っているから、飛鳥自身の想いをどうか叶えて欲しいというものである。



「今の策殿はまるで魂の抜かれた抜け殻のようなもの。そんな状態で時雨との約束を守ることが出来るのか?」


「そんなこと……」


「一国の王である人間が、こんな状態であることを民が知ったらどうなるか、考えたことは「そんなこと分かってるわよ!!!」……」



祭が最後まで言い切る前に雪蓮が言葉を遮る。キッと睨みつけたまま祭の肩を掴むと、己の中に溜まっていた鬱憤を爆発させていく。



「分かってるわよ! 飛鳥がこんなことを望んだわけじゃないって!! 私だって何度も切り替えようとしたわよ! 飛鳥のためにも頑張らないとって! でも……でも何回気持ちを切り替えようと思っても……この心の悲しみが消えないの!!! 勝手に涙が出て来るの!」



雪蓮だってやりたくて塞ぎ込んでいる訳では無い。何度も何度も彼の死から立ち直ろうとした。それでもずっと彼の死に際の光景がフラッシュバックし続ける。



「切り替えられればどれだけ楽か! ずっと、ずうっと……飛鳥が死んだ時の風景が浮かんでくるのよ!」



どうすれば良いのか分からない。もう数え切れないほどに涙を流して悲しんだ。涙が枯れたのではないかと想うほどに。でも少しでも彼の姿がチラつくと自然と涙が止まらなくなる、止めようと思っても自分自身の力で止めることが出来なかった。


今の自分がやるべきことは悲しみに暮れることではなく、国を今後どうやって発展させていくかを考えて動くことだ。そんなことは今も昔も変わらない、変わらないのに自分の中に渦巻くのは過去の自分に対する失望と怒り、飛鳥に対する果てしない罪悪感だけだった。



「私は……ッ!」



何かを言い掛けようとした所で祭の肩から手を離すとその場を駆け出す。今の自分の姿を民はもちろんのこと、家臣の誰にも見られたくはない。


一人でいたかった、一人にしてほしかった。近くに止めていた馬に飛び乗ると、雪蓮は自身の館に向かって馬を走らせるのだった。





















「……飛鳥」



館に戻って来た雪蓮は再び彼の名前を呟く。呼んだところで返事をしてくれる訳では無い。重たい足取りのまま、館の廊下をひたすら歩く。


今は誰かと話そうと思ったり、構っているような気力も無かった。何処に行けば一人になれるだろう、いっそのこと自分も死ねば飛鳥に会えるのでは無いだろうかと、そんなマイナス思考ばかりが働く。



「?」



廊下を歩いていると一つの部屋の扉が僅かに空いていることに気付く。だが雪蓮にはその部屋が誰の部屋なのか直ぐに見当が付いた。


忘れる訳が無い、自分の最愛の人物である時雨飛鳥の部屋だ。館の部屋は基本どの部屋も誰かに覗かれないように部屋を扉は閉めている。


飛鳥の部屋は不用心にも開けっ放しの状態となっていた。


だがここで一つ疑念が湧く。扉が開けっ放しということは誰かが開けたのだろうか。飛鳥の性格上部屋の扉を開けっ放しにして出て行くことは考えづらい。


最後に彼が部屋にいたのはいつなのだろう、考えられるのはあの日の朝が最後になるのか。


となると、その後は部屋に戻ってきて居ないはず。では誰かが部屋に入ったのかもしれない。


彼の部屋に行けばもしかしたら多少気が紛れるかもしれない。扉の前まで移動すると、意を決して部屋の扉に手を掛けようとするが。



「何、これ……」



取手の部分を見ると赤く染まっていることに気付く。既に乾燥しきっているところを見ると、付着してから数日以上は経過しているようだ。


雪蓮は赤い液体に鼻を近づけるとほのかに鉄のような匂いが香ってくる、これが血液であることを証明していた。


血液が付いているということは考えられる可能性は一つ、あの日負傷した飛鳥が何らかの目的で自分の部屋に入ったということ。


命を奪うほどの大怪我ともなれば、部屋の扉を閉じたかどうかなど気にしている余裕はない。


中を見てみよう、そう思い取手に手を掛けて扉を開いた。



「ん、孫策か? 悪いまだ今日の仕事が終わっていないんだ」


「!!? 飛鳥!!!」



ふと聞こえる声に目の前に映る彼の姿。一瞬彼が生き返ったのでは無いかと、驚きの声を上げるが。



「あ……」



それは蜃気楼のように消えていく。


扉の先に広がるのは殺風景な室内と、卓上に置かれた筆と墨だけだった。



「幻覚か……アハハ、そうよね。飛鳥はもう死んだんだもん。生きているわけが無いか」



既に飛鳥は死んでいる。死んだ人間が生き返る訳が無い。一度気持ちを切り替えると、改めて飛鳥の部屋に足を踏み入れる。


部屋の間取りは他の部屋と大きくは変わらない。他の人間の部屋と比べると私物が少なく、無駄なものが一切置かれてはいない。


備え付けのベッドもしっかりと整えられており、床には汚れらしい汚れも残っておらずゴミも落ちていない。



「ホント、私の部屋とは正反対の部屋よね……」



悲しいというのに思わず苦笑いが出て来る。


もし彼が生きていたとしたら、自分の部屋くらいちゃんと整理しろなんて怒られていたに違いない。


彼の部屋をぐるりと一望するもやはり特に変わった点は無かった。最後にと普段執務を行っている机の引き出しに手を掛けて中身を確認する。



「あっ……」



中に入っていたものを見て思わず雪蓮は目を見開いた。


入っていたのは飛鳥が普段着として着用していた聖フランチェスカ学園の制服、を真似て作った服だった。見た目は制服そっくりであるものの、素材は本物の制服に比べると質素であり、完璧な再現までは出来ていない。


屋敷に来た時に服のスペアが無いことに気付き、家臣に頼んで作って貰った服がこの服であり、飛鳥も状況に応じて使い分けていたことを思い出す。


数少ない飛鳥の遺品になる。これは何処か別のところに保管しておいた方が良いかもしれないと、制服を引き出しから取り出すと、折りたたんである服の隙間から手紙のようなものが抜け落ちた。


ひらひらと宙に舞うと、ちょうど宛名が見えるような向きで床に落ちる。宛名には何も書かれていない。誰に宛てた手紙だろうか。


勝手に開くのはいけないと思いつつも、気付いた時には手紙を開いていた。



『孫策へ』



「これって……!」



手紙を開くと冒頭部分に自身の名前が書かれていた。

よく見ると紙は一枚ではなく、折りたたまれる形で複数枚纏められている事が分かる。

そして書き連ねられた文章の至る所に赤い血痕があった。


つまり飛鳥が負傷した身体で書いたであろう手紙、ということになる。宛名が自分宛てなのであれば遠慮はする必要はない。


紙に書かれている内容を順を追って目を通していく。




『この手紙が読まれているということは、既に俺は君の隣にいないだろうと思っている。


本当はこんな手紙じゃなくて、自分の口で直接伝えるのが筋だと思うけど許して欲しい』



「飛鳥……」



『この土地に降り立って右も左も分かっていない自分を受け入れてくれたのは孫呉だった。


そこからの毎日はこれまでに感じたことがないほどに充実していた。俺がいた場所と違って毎日血生臭い戦いは絶えなかったけど、それでも楽しいと思えたのは、君のおかげだと思っている。本当にありがとう』



手紙に書かれているのは雪蓮に宛てた感謝の気持ちだった。彼は口数が決して多いわけではない。


あまり面と向かって本心を伝えられたことはないが、手紙にはこれまでの生活から飛鳥が本心から思っていたことがただひたすらに連ねられている。



『孫策にも話したことは無かったが、俺は向こうの世界で、人を暗殺することを生業とする一家に生まれて育った。金さえ貰えば平気で人の命を奪うような仕事だから人並みの幸せなんて感じる資格もない、人として当たり前の死に方を出来るはずもない。人と同じ恵まれた生活なんか出来るはずもない、ずっとそう思っていた。でもこの世界に来てそれとは真逆の生活が送れた。


元の世界に戻りたい、そう思うことが無くなったのはいつからだろう。いつの間にか孫策の隣りにいて、何をするにも必ず孫策、君が俺の隣にいてくれた。沢山の仲間に囲まれたけど、誰よりも孫策に隣にいて欲しいと強く思うようになった。俺が呉に入る時に言ったよな? 口説いてまぐわれって。何言ってるんだなんてあの時は思ったけど……それでも身体での繋がりを求めるとしたら今俺は一人しかいない、君だけだ孫策』



不器用な彼なりの本心。


配下に加えた時は口説いてまぐわれと雪蓮は伝えたが、それでも尚彼の想いは雪蓮にだけ向いていた。



『俺は随分と酷いことをしていると思う。君から真名を授けられたというのに一度もその真名を呼んだことが無いのだから。それでいて俺のこの一方的な想いを君に伝えるようとしている。何て無責任な男だろうと自分で自分が嫌になってくる。


俺が居なくなれば君はきっと自分を責めるだろう。気持ちは分かる、もし俺が同じ立場だったら同じように自分を責めるからだ』



飛鳥の読みは当たっている。現に雪蓮は自分を責めた。自分がしっかりしていれば飛鳥が


死ぬことは無かったと。



『でも自分を責めないで欲しい。俺は君を守れたことを何よりの誇りだと思っている。俺はこんな素晴らしい女性を救うことが出来たんだと、死後の世界に胸を張って行ける。


俺なんかがこんなこと言える立場じゃないのは分かっているけど、孫策にはこれからも胸を張って国を率いて欲しい。呉の皆が本当に安心して生活出来る国家を、笑顔あふれる呉という素晴らしい国を作っていって欲しい。俺の最後の願いだ』



「……」



『孫策、いや雪蓮。俺はこれからも御霊となって君の側に寄り添い続ける。悲しい思いをさせてごめん、本当にごめん。君のことを心から愛していました。


先に逝きます。


どうか、これからも呉の皆に平穏があらんことを。


そして俺がもし生まれ変わったら……また雪蓮の横に並び立てますように』



そこで手紙は終わっていた。


手紙を持つ雪蓮の手が震える。


彼はどんな想いでこの手紙を書いたのだろう。手紙の至る場所の血痕は拭い去られた様子はない。息も絶え絶えの状態で飛鳥はこの手紙を残した。自身の叶えられなかった想いを雪蓮に託すために。



「あす……か……」



彼の名前を呟く雪蓮の瞳から止めどなく零れた涙は頬を伝い、ポタリポタリと手紙に零れ落ちる。


どれだけ塞ぎ込んだところで彼はいない、戻って来ない。飛鳥自身も最愛の人を残したまま志半ばで倒れさぞかし無念だったはずだ。


だからこそ、彼の無念を晴らすべく自分が前を向かなければならない。いつか飛鳥に素晴しい国になったと、胸を張って報告できるように。



「うぅぅ、うぁっ、うあああああああああああ……!!!」



声を押し殺して雪蓮は泣く。


彼の気持ちを決して無駄にしないためにも、今はただひたすらに舞えを向いて自分の足で進んで行くしかなかった。


「私も、私も大好きだよ飛鳥。だからこれからは天の世界で、これからの私たちをしっかりと見守っていてね」



救ってもらったこの命。


必ず飛鳥のために悲願を叶えてみせる。改めてそう誓うのだった。

約6年ぶりの更新。

本当に御無沙汰です。

何を言っても言い訳になりますが、マイペースに進めていければと思います。

執筆自体が久しぶりで拙い文章でしたら申し訳ございません。


残りのパートはそんなに長くはない予定ですが、引き続きお付き合いいただければ幸いです。

これからもよろしくお願いいたします。


P.S.やっぱり雪蓮は可愛い(確信)

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