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勇壮、天にたつ




「飛鳥? ねぇ、飛鳥! しっかりしてよっ!!」



南海覇王を放り捨て、地面に倒れたままピクリとも動こうとしない飛鳥の身体を抱えあげた。顔は真っ青で、呼吸は深く大きい。


後方より走ってきていた呉の面々も血相を抱えて、二人の元へと駆け寄る。見た目大きな怪我を負っている訳ではないが、誰がどう見ても生死を分けるような状態なのは分かった。



「う……そん、さく?」



うっすらと重たい目蓋をあけ、目の前に移る人物の名を呼ぶ。視界に映る孫策の姿は歪み、到底いつもと同じように見えるわけではなかったが、それでも一目見ただけで、彼女であると分かった。


自分にとって最愛の人物だ、見間違うはずがない。


自分は今最も愛する人物に抱きかかえられているのかと思うと、これほどに幸せに思えることは無い。今にも死に掛けだというにも関わらず、彼の頭の中によみがえってくるのは良い思い出ばかりだった。



(あぁ、これが走馬灯ってやつなのか)



生きている上で良い思い出もあれば、悪い思い出もある。彼にとって人生の大半が悪い思い出だったというのに、脳裏を過ぎ去るものは全てこちらの世界から来てから見たものばかり。



「息はあるのね! 誰か、早く医者を「よせ、孫策……」───どうしてよ!!」



息はまだある。


まだ助かると判断し近くにいる兵士に医者を呼ぶように手をあげて手配を掛ける孫策だったが、それを飛鳥が制止する。何故止めるのかと強く言い放つ孫策だったが、彼女も何となく悟ってはいた。


だが、彼女もそんな非情な現実をすぐに受け止められるほど冷静沈着な人間ではない。少しでも彼が助かる見込みがあるのであればと思えど、彼が無理矢理にでも止めたという事はつまり一番残酷な宣告がなされたも同然だった。



「どうして……どうしてなのよ。何で私の周りばっかり……あす、かまで……うぅ」



堪えていたものが大粒の涙として頬を伝う。


自分の母、孫堅が死んだ時、袁術の客将に甘んじ幾多もの理不尽な仕打ちを受けてきた時、幾多もの困難を耐えてきた彼女だったが、今回ばかりは耐え切れなかった。


何故飛鳥がこんなことになっているのかはすぐに分かった。自身を庇って矢を受けた時、矢尻に毒が塗ってあったのだろう。それも想像を絶するような痛みを伴う猛毒が。


本来なら、のたうち回るほどに痛かったに違いない。


泣きたくなるほどつらいものだったに違いない。


でも彼は頑なに人前で辛い一面を見せる事はなかった。



彼の優しさがより孫策の心を抉る。


何故あの時無理矢理にでも医者に見せようとしなかったのか、彼の言うことを素直に聞いてしまったのだろうか。もしかしたらその場で医者を呼んでたとしても助かる見込みはない、だが何もしなかった、何も出来なかった自分があまりにも情けなかった。


王として、自分の側にいる最愛の男を守ることが出来なかった。



頬を涙が伝い、滴となってぽたりぽたりと飛鳥の頬へと落ちる。飛鳥自身も彼女の泣き顔を見るのは初めてだろう。一度たりとも見たことのない一面に、罪悪感ばかりが募る。一方でほのかな満足感も得ていた。


自分の存在は、孫策が涙を流してくれるほどに大きくなっていたんだと。自分のことを強く想ってくれる姿が飛鳥にとっては最もうれしく、満足に思える瞬間だった。



「う……ゴホッ!」


「飛鳥!」



だが時は残酷だ。


こんな時でも容赦なく、彼の身体を襲う。


体内に入った毒は身体中を蝕み、自由を全て奪いきっていた。胃の奥からせり上がった真紅の液体が、飛鳥の口から吹き出る。とっさに口を押さえようと手を動かす飛鳥だったが間に合わず、目の前にあった孫策の顔を赤く染めてしまった。


彼女の端正な顔立ちが赤く染まる。


だが自分の顔に血を吐かれたことなどどうでもよく、飛鳥のことしか既に見えていなかった。



「うっぐ……はぁ、はぁ……ごめん」


「分かった! 分かったから、もう喋らないで!」



話す度に体力は消耗されていく。


少し話せば身体中に激痛が走り、都度飛鳥を襲っていた。痛みを堪える飛鳥の顔など見ていられない。自分の前で衰弱していく姿を眺めていられるほど、彼女の精神力は強くはなかった。



「……俺のことを心配してくれるのか?」


「当たり前じゃない! こんな時に何言ってるのよ!」



涙が止まらない。


彼に対する涙だけではなく、今までため込んでいた涙腺が崩壊し、全てが滝のように溢れてきているのだろう。周囲を囲む皆も同じように涙を流す、もしくは涙を堪えている者がほとんどであり、誰一人この惨状に悲しみを覚えない兵士は居なかった。


かつては家柄のために人を殺し、法で裁けないような罪悪人たちを葬り去ってきた。だが人を殺すことで、少なくとも多方面から恨みを買うことだってあったはず。


精神が崩壊してもおかしくはないし、人と同じような生活など送れる訳がない。誰とも関わりを持つことの無かった彼が初めて関わりを持った人たちが周りにいる。


そして最愛の人を守ることが出来た、ようやく拾ってもらった恩を返すことが出来た。


口を開くだけでも苦しいというのに、努めて出来る限りの笑みを浮かべる。



「やっと、やっとだ……」


「え?」


「君にやっと、恩を返すことが出来た……」



こんな状態になってまで何を言っているのか。


恩なんて既に当の昔に返し終わっている。もう返しきれない恩義を貰った。彼にとって死ぬことが孫策に恩義を返すこととイコールになった訳ではない。


あのまま放置されていれば、明日の朝陽を拝めるかどうかも分からなかった自分を助けてくれた孫策。だからこそ彼女を命懸けで守れた時、それが果たされると彼の中で認識していた。


今回、飛鳥は自らの身体を張って命懸けで暗殺を防いだ。結果論、孫策は命を落とすこと無く、こうして無事に生きている。史実ではいずれにしても死ぬ運命にあった孫策を、命懸けで守って見せた。例え助けることが歴史の根底を覆す行為になったとしても。









ようやく、彼女の側に胸を張って居れる。


ようやく、彼女の本当の名前を受け取れる。


口を開き、か細い声だが、確実に聞こえるようにその名を呼ぶ。
























「───雪蓮(しぇれん)


「ッ!!?」



生き様が詰まった最も大切な名前を呼ぶ。


真名を交換していない人間がその名前を呼べば、首をはね飛ばされても文句は何一つ言えない神聖な名前。飛鳥は真名を授かった当初から、返せるものがないからと断固として真名で呼ぶことはなかった。


最愛の人に真名を呼ばれて嬉しくないはずがない。一瞬の驚きの後、笑みと涙が混ざった何とも言えない表情を浮かべながら飛鳥の髪を撫でた。



「やっと……やっと呼んでくれたね」


「あぁ、お前の名前、しかと心に刻んだ」



本来苦しくて笑みなど浮かべている余裕はないのだろう。心配を掛けまいと、気丈に振る舞って見せる。自由の利く右手を動かし、自身の首についているネックレスの歯止めを外す。


既に左手は毒で麻痺して動かない。


上半身を腹筋の要領で起こすと、歯止め付近を口で咥えたまま右手を()()の首へと回す。一周回すと歯止めに先端を引っ掛けてロックさせた。


首から幾つもの派手な首飾りをぶら下げている彼女だが、その中でも特に目立つ銀色のネックレスが日の光を反射させる。飛鳥が肌身離さず持っていたネックレス。


彼の今までの生き様が最も詰まった大切なものであり、本来人に渡すようなものではない。だが先が長くないと悟った飛鳥は、自身の生き様を彼女に託すことにした。



「俺の生き様が詰まったネックレスだ、受け取ってくれ……」


「あす、か……」


「俺の肉体は無くなっても……俺は君のそばにいる」


「うっ……ぐすっ」



例え身が滅びたとしても、自分がここにいた事実は変わらない。


志半ばで倒れるのは後悔以外のなにものでもないが、まだ彼女が、雪蓮が生きている以上、夢への道のりは続く。そして夢を叶えるためのピースは彼女が生きているだけでは実現できない。彼女をサポートできるだけの人物、部隊が必要だ。


彼が今まで率いてきた時雨隊。


孫呉の隊において最も屈強な兵士たちが揃っていると言われ、飛鳥の臣下にいる三人だけで、小国を滅亡させられるほどの力を持ち合わせている。


その内の一人の名を呼ぶ。



「……愛莉(あいり)、居るか?」


「は、はいっ!」



まさか自分が真名で呼ばれると思っていなかったのだろう。周囲を取り囲む人混みの中から慌てて飛鳥の元へと歩み寄り、臣下の礼をとる。彼女の目にもまた涙が浮かんでおり、飛鳥の状況悲しんでいることが伺えた。


そんな涙を流す彼女に向かって、うっすらと微笑みながら言葉を続ける。



「俺の下に着任したばかりの時も、俺に叩きのめされてお前は泣いていたな……」


「い、今とその時は別物です! なんで飛鳥さまだけがこんな目に……」



堪えきれない涙が頬を伝い、地面にシミを作っていく。


目の前に映る事実が飲み込めず、上手く言葉を繋ごうとするも言葉にならない。別段秀でた何かを持っている訳でもない自分を登用してくれた飛鳥には感謝の思いしかなかった。


年が近い人間とは思えないほど大人びていて、頼りがいがあって……ただどこか危なっかしいところもあった飛鳥の姿と共に戦場を駆け巡れた毎日は、彼女にとって他の何にも変えられないほどの日々だった。


そんな彼に対し、自分は何も出来ない。


二人で出掛けると言ったタイミングで何故付き添いますと一言声を掛けることが出来なかったのか。後悔したところで過去が戻ってくる訳ではない。



「それが今となっては……時の流れは本当に早い」 


「何を言ってるのですか、もう少しご自身の心配を!」


「……愛莉、お前に頼みたいことがある」


「私、に?」



彼女にしか頼めないこと。


先ほど言ったように、強い孫呉としてあれたのは個々の力だけではなく、土台を支える優秀な部隊があったからこそ。土台ががたつけば、積み上げられたものまで崩れてしまう。


これからの孫呉支えていく上で必要な一つのピースとして支えていかなければならないもの。それは何も武力のある者だけが出来るようなポジションではない。


個々の力を知り、分析し、かつそれらを纏められる者。


それをこなすことが出来るのは他でもない、彼女だけだった。















「お前が、時雨隊を纏めるんだ」



側に落ちていた自身の刀を拾い上げ、その取っ手部分を愛莉の前へと差し出す。


一瞬何を言われているのか理解できずにただ呆然とするしかない愛莉だが、やがて我に返ると血相を変えて強い口調で言葉を続けた。



「死ぬみたいなこと言わないでください! 私にはまだ飛鳥様が必要なんです!!」



自分の後を愛莉に託そう。


だが飛鳥の意志に反して、彼女の口から零れるのは死んでほしくないと強く願う偽りのない言葉だった。


立場こそ飛鳥の副官を務めているが、実年齢だけでいえば飛鳥よりも幼く経験も浅い。そんな彼女が自身の最も尊敬する隊長の命が長くないことを悟り、冷静でいれるはずがない。ましてや隊を任せたなどと言われ、飛鳥の死が近い事実を受け入れられるはずもなかった。


右手に縋り付き、必死に死なないで欲しいと懇願する姿は見る者全員の心を痛めつけた。同時にもう飛鳥の命が風前の灯火である事実を突きつけることとなり、時雨隊に所属している事実を受け止めきれなかった兵士の何人かはその場に泣き崩れる。



「お願いだから……お願いだから死なないで、飛鳥様が元に戻ってくれるのなら何でもしますから……」



何を言ったところで願いが叶うわけではない。


自身のわがままだということは重々に承知していた、それでも彼女には飛鳥の存在が必要だった。自身の出生からの歴史を辿れば彼と関わった期間はほんの一部にしか過ぎない。しかし彼女にとって飛鳥の存在は上司と部下の垣根を飛び越えた特別な関係となっていた。


性格上、愛莉は自身のわがままを人に押し付けたり態度に出すことは無い。それが自身の隊長であるならば猶更である。決して表に出すことのなかった()()()()()()()()が、今回の一件で爆発してしまい、自身としても歯止めをかけることが出来ず、心の奥底に溜めたいた感情を全て飛鳥にぶつけていく。


何でもするから飛鳥だけは助けてくれ。



「飛鳥様、私は……」



そう言いかけたところで、愛莉の頭に手が伸びてくる。


痛いだろう、辛いだろう。


言葉を発するごとに全身に痛みが走っているにも関わらず、手を伸ばした飛鳥の表情は精一杯の微笑みを浮かべていた。











「―――ありがとう」



はっきりと聞こえる声で一言呟く。


何気ない感謝の一言であるにもかかわらず、それ以上愛莉は何も言えなくなる。


辛いのは自分だけではない、今誰よりもつらい思いをしているのは他でもない飛鳥なのだから。本当なら大声を出して絶叫したくなるほどの痛みがあるにも関わらず、心配をかけまいと落ち着いた口調で諭すように話している。


志半ばで果てなければならないのは無念だろう。齢十七歳にして最後まで主の行く先を見届けることが出来ず、自分の後を託さざるを得ないのは彼とて悔しいに決まっている。残された時間の中で、彼の思いを伝えるためには、多少強引な方法を取るしか無かった。


自分の後を継ぐことが出来るのは愛莉だけだと確信し、託してくれたにも関わらず自分はなんて失礼な態度を取ってしまったのか。



「そこまで想ってくれていたなんてな……本当に、俺は幸せものだ」


「あすか、さま……」


「……部下にも恵まれ、こうして最後までお前たちの顔を見れる。これ以上の幸せなんてない……」



飛鳥にとっても愛莉や部下たちと送った生活は幸せだった。


行動の多くを雪蓮と共にしていた飛鳥だったが、合間合間で隊の皆と訓練すること、交流すること。その全てが彼にって宝物だった。 


決して口にすることのない()()()()()()()飛鳥の本心。隊長として部隊を纏める以上、時には厳しく接しなければならない時もあり、立場上私情を挟むことはしなかった。


そんな飛鳥が愛莉や部隊の兵士の居る前で初めて、幸せだったと呟く。立場から忘れられることも多いが、隊長である以前に一人の年相応な青年である。自分たちよりも年の若い青年が、一国の中枢を担う立場を任されていた。


時には相当な重圧が襲いかかっていたはず。それも含めて彼は愚痴一つこぼさずに最後まで遂行してみせた。


わしゃわしゃと頭を優しく撫でながら、飛鳥は愛莉へと言葉を続ける。



「時雨隊は俺の誇りであり、生き様だ。だからこそ、俺が最も信頼できる人間に任せたい。それが出来るのは愛莉、お前だけだ」


「信頼……私が……」


「あぁ……だから、お前にしか任せられない。俺の生き様……引き継いでくれるか?」



改めて、言葉を選んで愛莉へと自身の刀を差し出す。


現世を含めて、生涯のほとんどを飛鳥と共にした日本刀。光り輝く刀身は片時も手入れを忘れなかったことが伺える。加えて雪蓮に渡したネックレスの次に、生き様が込められていた。


今世にそれぞれただ一つしかない彼の生きた証、共に歩んだ勲章。


二つを最も愛する主と、最も信頼出来る部下へ。



「はい……はいっ」



涙が止まらない。


涙でくしゃくしゃになる顔を隠そうともせずに、飛鳥から差し出された刀をしっかりと握った。握りしめると同時に、飛鳥はどことなく満足そうな表情を浮かべた。








視界が霞む。


目の前に映る人間が誰なのかも分からない。



「……雪蓮」



愛しい人の名を呼ぶ。


目の前に居るはずなのに、その顔を判別することが出来ない。



「約束、守れなくてゴメン……後は任せた……」


「飛鳥っ!」











必死に雪蓮が声を掛けるも、飛鳥の目の焦点は合っていなかった。だが、優しい手つきで彼女の顔に手を触れる。














「───新たな種が芽吹く時、また朝陽は昇る」


「飛鳥、あすかっ! ダメッ! 行っちゃダメ!!!」













何度も何度も強く呼び掛ける。


呼び掛けに応じる素振りもなく、言葉を連ねる。




























「呉に、永久、の……平和が、在らんこと……」



言葉を言い終えた刹那、触れていた手が頬からだらりと力なく地面へと落ちた。目蓋が閉じ、満足そうな笑みを浮かべているにもかかわらず、一切の反応を示さない。



「あ、す……か?」


「ううっ……あすか、さまぁ……」



声を掛けても反応はない。


小刻みに揺さぶるもダラダラと慣性の法則に従うだけであり、飛鳥が自ら身体を動かしている様子は何一つ見受けられない。



「何寝てるのよ……こんな時に冗談なんて、笑えないわよ……」



受け入れられない。


目の前に映る現実が。



「……ははっ、どうせまたいつもみたいに驚かそうとしているんでしょ? 騙されないわよ……」



受け入れられない現実から目を背け、身体を揺すり続ける雪蓮。受け入れたくなくとも、受け入れざるを得ない現実に涙を流し続ける愛莉。冥林を初めとした背後の臣下たちは、沈痛な面持ちのまま目の前の状況を見つめ、言葉一つ発しようとはしなかった。周囲を取り囲む兵士の反応は様々、とても平静など保てられなかったと言い表すのが正しいかもしれない。


雪蓮は()()()()()()()()、そんなふざけた現実を受け入れられる訳もなく。事切れた飛鳥の身体を揺らし続ける。


だがこれが現実であり、これが飛鳥自身の人生だ。


何をしたところで、現実が覆る訳がない。



「どんなに演技したって、心臓の音を聞けば一発で……」



と、とっさに飛鳥の心臓に耳を当てる。


そして彼女は認識する。










心臓の音などとうに止まっていることを。


何をしても再び彼の両目が日の光を見ることがないことを。


大好きだった彼はもう戻ってこないことを。



「あ……あぁ……」



飛鳥はもう居ない。


あの生意気な表情はもう見られない。


誰よりも頼りになると思った彼の背中はもうない。



「ああぁ、ああああぁぁぁあああああああああああ!!!!!」



現実は無情だった。



「なんでよ!!! どうしてよっ!!!」



物言わぬ肉体となった飛鳥に向かって涙を流しながら訴える。



「ずっと側に居てくれるって言ったじゃない! 私の側にいたいって! なのに何で先に逝くのよっ!!!」



側にいる。


そう言った矢先の出来事だった。


明日の自分の命が保証されていない以上、この運命は必然的なものだったのかもしれない。



「あすか!! あすかぁっ!!!!」



人目も憚らず泣き続ける。


戻ってこない。


あの楽しかった日々はもう二度と。


曇りかけていた空から大粒の水滴がこぼれ落ちる。それはまるで雪蓮の涙に呼応するかのように、断続的かつ激しく降り注ぐ。


最愛の人物の死を受け入れる。


それがどれだけ苦痛なことかは想像に容易かった。


雨水で身体がびしょ濡れになろうとも、跳ねた土で身体が汚れようとも。


彼女は飛鳥の身体を抱きかかえながら、一日中泣き続けるのだった。























































































 

「これで良かったのかしらん?」


「あぁ……」


「あのままにしたら、本当に皆壊れちゃうわよ?」


「壊れるほどあいつらは弱くないさ、必ず自分たちで立ち上がれる。それに、一度死んだ人間は生き返らない。そうだろ?」


「……そうね」


「なら、さっさと行くぞ」


「……えぇ」

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