制圧
「ぷはぁ~、蜂蜜はやっぱり至福なのじゃぁ~♪」
「うふふ、お嬢様の満足そうな笑顔も、素敵ですぅ~♪」
「うははは! もっと褒めてたも~♪」
ところ変わって袁術の館。
孫策達がこの館に総力を上げて向かってきているとは知らずに、のん気にも蜂蜜水を飲みながら満足そうにくつろいでる袁術一向。もちろん彼女たちは孫策達が歯向かうなど、思ってもみないことだろう。
むしろ自分達が良い様に使っている、そんなことを考えているのかもしれない。
そんな彼女達の元に一人の武官がノックもせずに扉を開けて飛び込んできた。
「も、申し上げまーーーーーーす!」
「あや? どうかしましたかー?」
……仮にも、この武官にとって彼女達は目上の人間。それこそ自分が一生かけても上り詰めることが出来ない、雲の上にいるような存在。
その二人がいる部屋に失礼にも許可なく乱暴に扉を開けて入ってきたのだ。
普通なら無礼として、処断されても文句は言えない。と同時にそれだけの状態で入って来たのだからもっと深刻な事態が起こっていると察することくらいは出来るはずなのだが……
いや、ここは言わずに置いておこう。
「そ、そ、そ、孫策殿が……孫策殿がっ!」
「なんじゃ。孫策がどうかしよったのか?」
「まさか孫策さん死んじゃってたりして~」
「目の上のたんこぶが居なくなるのは、素晴らしいことなのじゃ」
当然この二人は事の重大さを知らないため、冗談半分に……いや本気で軽口を叩いている。しかし駆け込んできた物からすれば、この反応はたまったものではない。ふつふつと湧き上がる怒り感情を抑えながらも冷静に、そして大慌てでことの次第を伝える。
「そ、そんなことではありません! 孫策殿が、は、反乱を起こしました!」
「な……なんじゃとーーーーーーーーーーー!?」
「孫策殿は江東に潜んでいた孫家の旧臣を呼び寄せるとともに、江東で一揆を起こした農民達を吸収して勢力を拡大! 現在、国境線にある我らが城を次々と攻め落とし、こちらに向かってきております!」
「ぐぬぬぬーーーー! 孫策のやつめ、妾をだましておったのじゃ!」
正直いまさら感が否めない。
もう少し警戒していればこの程度の策などすぐに見破ることは出来たはず、出来なくとも事が起きた瞬間に体制を立て直すことくらいは出来たはずだ。
その油断がこの様な状況を引き起こしている。
数多くの袁術の城は次々と攻め落とされ、孫策たちは勢いそのままにこの本状付近にまでやって来ている。一度付いた突進力をとめることは難しい。あくまで突進されることを想定した迎撃をするならまだしも、まったくの無策。
これでは数で押し切ろうにも、逆に押し返されてしまう。
そして多くの武将達を率いる孫呉の兵達は統率力、戦闘力ともに高く、雑兵などではまったく相手にはならない。
「この状況、七乃が何とかせい!」
「な、何とかですか?」
「そうじゃ! 七乃の力で孫策を懲らしめるのじゃ! そして二度と妾に逆らえないように、たくさんお仕置きするのじゃ!」
(孫策さんを懲らしめるなんてこと、出来るのかなぁ……?)
それが張勲の本音だった。いくら口では悪く言おうとも、彼女自身は孫策の王としての力量、そして戦闘力は知っている。
だからこそ無意識にでも認識してしまう、止めることは出来ないと。
複数ある選択肢の中から生き延びる可能性のある選択肢を探し出す。せめて袁術さえ生き延びてくれればと。
「何かいったか?」
「い、いえ。なにもー♪ あはは……じゃあすぐに迎撃準備を開始しちゃいまーす!」
「うむ! 頑張れ七乃! 負けるな七乃! 妾をしっかり守るのじゃ!」
「はーい♪」
そう言い残し、張勲は迎撃体制を整えるべく部屋を後にした。
そして外に出ると伝令を届けにきた武官と、作戦を立てようとする。
……のだが
「はぁ~……英雄って呼ばれている孫策さんに、私達が勝てるわけないのになぁ~……」
もはや半分……ほぼ諦めモードだ。
「ど、どうしましょう、大将軍様?」
「んー……戦うしかないけど、お嬢様をつれて逃げる準備、しとかなくちゃだね」
何やかんや言いつつも、まず第一に自分の主のことを考えることができる。
もう少し自分ことを律することが出来ていたら、彼女はもっといい将軍になっていただろう。そして袁術ももっと変わることが出来たかもしれない。
だが今言ってももうどうしようもないこと。
敵はもう目の前に迫っているわけだ。今出来ることをするしかない。
袁術の安全を確保するということを念頭に置き、作戦を立てていった。
――――――…
「前方に寿春城が見えました! 敵影なし!」
「ええっ!? 敵影無しって……」
「……呆れて物も言えませんね」
どうやらどこまでも、期待を裏切らないというのか。本音を言うとするのならば裏切ってほしかったところではある。
俺達は袁術の領土へと踏み込み、数ある袁術の城を次々と撃破。残るは本城である、この寿春城だけとなっていた。
対策が遅れたのも、孫策が反乱を起こしたことで慌てふためいていると考えれば辻褄はあう、と思う。
「敵城に動きあり! 城壁に兵が出てきています! あ、旗も揚がったようです!」
「おっそ! ……袁術ってもしかしてバカ?」
尚香よ……さすがにそれは言いすぎじゃないか?
実際あってみればストレスがたまるような我侭な言い方をする子だとは思ったけど。実際甘やかされて育てられたのが原因であのようになってしまったと考えることが出来る。
側近の将軍である張勲があんな感じだし。あれはあれで袁術を愛でてるって感じだったけど。
……あーいうの見てると、どこか憎めないんだよな。
だがあくまでこれは俺だけの見解、われらが主の意見は果たしてどうなのか。
「もしかせんでもバカじゃな」
いや、本当に容赦の無い罵倒ぶりなことで。
まぁ単純に孫策自身に裏切るなんて微塵も思っていなかった。それだけで事足りるだろう。
憶測なんていくらでも出来る。実際これが間違っていたとしてもこの反乱を見抜けなかった時点で、大きな失態には変わりない。
いかほど城門で待機していただろうか。
ゆっくりと、だが確実にその門が開き始める。
音を立て、そして砂埃を上げ、城門の置くには騎兵をはじめ多くの兵達がいた。
高々と掲げられた旗、そこに書いてある文字は……
「張! 大将軍張勲のようです」
「大将軍ねぇ。……どの辺りが大なのかしら?」
「馬鹿の頭につく言葉が大なのだろう」
「違いないわね。じゃ、袁術ちゃんを倒す前の準備運動と行きましょうか」
「準備運動になるかは疑問ではあるがな」
「全くです」
「敵軍突出! こちらに向かってきます!」
「了解。……蓮華。この戦い、あなたが指揮をとって見せなさい」
「え、私がですか?」
「大丈夫。張勲なんてかるーく捻っちゃいなさい♪」
唐突に投げかけられた言葉に思わず目を丸くする孫権。いきなり言われれば無理も無い。とはいえここで戦の指揮を任せるってことは孫策には孫策なりの意図があるんだろう。
言うならば後任育成。自分が王の位を退いた後、その地位につくのは妹の孫権だ。今のうちにこのような戦で戦場指揮の体験をし、交代したときに問題が起きないようにするため。遅かれ早かれ、孫権が王になる時は来る。
ただあくまで指揮を執らせるといっても間違ったことや手詰まりがあれば孫策もサポートするだろう。むしろ自分達がいるからそういうことを任せられる。むしろ孫策にはこれくらいの戦いが出来なければ困るという期待の念も込められているのか。
その意図をなんとなく読み取ったのか、孫権は大きく頷くと再び城門のほうを見る。
「はい! ……では孫仲謀、これより全軍の指揮を執る! 各部隊迎撃体制をとれ! 突出する敵を半包囲し、一気に粉砕するぞ!」
「応っ!」
孫権の掛け声と共に攻め入る。
―――――各地で袁術の城を占領し、勢いに乗った孫呉の軍を食い止めることは難しい。相手は無策にも突撃をしてくるだけだった。
その突撃に対して突撃を返すわけではなく、相手部隊を迎撃して圧倒していく。
決して張勲の兵士達が弱いわけではない。それ以上に孫呉の兵の質が上がっているのだ。
猪突猛進、そんな言葉で真っ先に浮かび上がってくる武将がうちにはいる。元董卓の将である華雄だ。
反董卓連合、そして以前の模擬戦で精神的な脆さを露呈した華雄。だが俺が散々指摘した自分自身をコントロールすること、その弱点はほぼ消えかけていた。相手の挑発にも乗らず、常に平常心で戦えている。
その為、一つ一つの攻撃は鋭く重い。挑発にも乗らないのだからこれだけ厄介な敵はいない。もちろんまだ荒削りな部分は多々ある。格下の相手にもなると手を抜いてしまうこともあるし、自身のコントロールもほぼコントロールが出来るだけで完全にコントロールできているわけではない。
ただここ最近での目覚しい成長は一目置かざるおえなかった。
そして俺の隊のことについてだが……
特に言うことが見当たらない。張楊と趙雲が先陣を切り、その後ろで呂布がフォローに回る。張楊と趙雲だけでも十分なくらいの戦力にもかかわらず、その二人をたとえ看破したとしてもその後ろには呂布がいる。二人が危険に会ったときには呂布がそれを守る。
この三人に注目しがちだが、それだけではない。連携を意識した訓練を毎日つませているんだ。一人一人の戦闘力も高いし、チームワークも悪くない。だから一箇所が崩れかかってもそれを即座にカバーすることが出来る力は十分に持ち合わせている。
いずれにせよこの隊を相手に対して、少々名の知れている部隊が相手では全くといって良いほど相手にはならない。
……自分でも、とんでもない部隊が出来上がったものだと思う。
その勢いのまま張勲の部隊を圧倒、成す術も無くなった張勲の部隊は一目散に城内へと交代していく。
「敵、城内に後退しました!」
「よし! ならばすぐに城門へ接近――――――!」
「はい失格。この状況での城門接近はダメよ」
「えっ?」
後退している今が好機。そう判断した孫権は兵士達に城門への突撃命令を出そうとするが、それを孫策に止められる。
確かに一般的には敗走して後退していく兵士を追い討ちするのはセオリー。だが罠だというケースも存在する。もしその罠にまんまと乗せられてしまったら敵の思うつぼ。最悪のケースだと形勢を逆転されてしまう場合もある。
孫策は城壁を指差しながら、孫権に言葉を続ける。
「敵が城に退くときは確かに好機だけど、逆の場合も多々ある。……城壁を見てみなさい。多くの兵が弓を構えているのが見えるでしょ?」
「はい……」
「前の戦いで戦場に出ていたのは張勲のみ。……ということは、袁術は未だ城内で部隊を指揮していると考えるのが妥当でしょう」
簡潔にまとめるとするのなら大将は周りを見て戦況をきちんと把握し、それを的確に判断して自軍を勝利へと導く。それが仕事だ。
孫策が孫権に伝えたいことは追い討ちをかけるのも良いが、状況判断を誤ると痛い目にあうかもしれないという危機管理を持つようにということだ。
……城壁の敵を見る限り、まだ諦めて降参するという雰囲気は見て取れない。ただ単に一体後退して、体勢を整えてひたたび仕掛ける。
つまりもう一回は確実に来る。
「……どうやら、もう一回あたり来そうな雰囲気だな」
「ええ。今のうちに部隊を再編しましょ。後方に待機している予備隊を合流させて」
能ある鷹は爪を隠す。こういう時のために後方にも予備隊を用意しておく。
抜かりは無い、戦場ではいつ何が起こるかわからない。
「次も蓮華が総大将として部隊を指揮しなさい。……飛鳥はその補佐をお願い」
「分かった」
「分かりました。総大将の任、立派に果たして見せます!」
「ん、でもあまり気負う必要は無いわよ。……歯ごたえ無さすぎなんだもん」
「まぁ分からんでもないな」
「でしょ?」
「……こんな勢力にいいように使われていたとは」
「涙が出そうだよ」
……まぁ、言われて見れば手ごたえは無かった。というよりもあっさり終わりすぎた。いくら奇襲をかけられたとはいえそれでも退却するのが早すぎだろというくらいに。
そう考えれば考えるほど、袁術の下で言いなりになっていた自分に嫌気が差すのか。
どちらにせよ孫策からすれば面白くは無いはずだ。
張勲が城へ引っ込んでからいくらか経つが特に変わりは無い。思った以上に損害が大きく立て直しに時間がかかっているのか、異様な静寂があたりを包み込む。相変わらず城壁の上には幾人もの弓兵が矢を構えている。
当然この静寂を嫌がる人間もいる。現に近くに何人か候補がいるわけだが……
「それより策殿。さっさと城攻めの下知をくれい!」
「いやだから。蓮華に説明したでしょ? もう一波、袁術の攻勢が来るってば」
「ならば早く来い袁術! この儂が地平の彼方までぶっ飛ばしてやろう!」
ま、言われてみればこの日のために偽装の一揆を起こしたり工作活動を黄蓋はやってくれたわけだから相当な鬱憤もたまっているはずだ。
それに黄蓋は孫堅の時代から呉に遣える宿将だからいろんな思いもあるんだろう。……大体はらしくないことをしたから大暴れしたいって言うのが本音か。
ここぞとばかりに袁術に向かって挑発を続ける黄蓋。
いや、いくら袁術があれとはいってもそんな挑発で出てくるわけが……
「敵城開門! 袁と張の旗が見えます!」
「うほっ! 本当に来よったぞ!」
「……」
「どうしたの飛鳥?」
「……いや、何でもない」
もう何も言わん。
よほど嬉しいのか、嬉々とした表情で孫権に詰め寄る。
「権殿! 先鋒は儂じゃぞ? 儂に任せてくれるんじゃろ?」
……うちの国には戦闘狂しかいないのか、もう最近ではなれたけど苦笑いしか出てこない。
「ふふっ、分かったわ。先鋒は黄蓋に命じる。……たくさん暴れてきなさいな」
「当然じゃ! では権殿! 号令を!」
「ええ!」
剣を引き抜き、城門へ剣先を向ける孫権。声を高らかに号令を発す。
「聞け! 呉の将兵よ!
この戦いこそ呉の未来を占う一戦! 皆の力を今一度、孫家の私に貸してくれ!
そして皆で掴もうではないか! 輝ける未来を。誇るべき郷土を。
そして我らの子孫が笑って過ごせる平和な刻を!」
「おおおおぉぉぉぉぉぉおぉーーーーーーーーーーっ!」
「皆の命を燃やし尽くせ! 剣で切り裂け! 矢で貫け! 孫呉の牙で袁術の喉笛を食いちぎれ!」
「応っ!」
「城門を突破して城を落とす! 振り向くな! 戦って死ね!
駆けよ! 我らの栄光ある未来のために! 全軍……突撃ぃーーーーーーーーーーーーーーっ!」
突撃命令と共に一斉に城門へと押し寄せる孫呉の兵。
一人一人がそれぞれの信念を持ち敵へと向かっていく。
家族、仲間、恋人……未来ある子供達を守るため、自分の信念を突き通すために。
互いに理想は違うかもしれない。だが今は共通の目的、袁術を倒すという目的に向かって突き進んでいた。
孫呉の第一の理想、独立して民に平穏を……
その為に目の前にいる敵をなぎ倒していく。
"天下分け目の戦い"
かつての戦乱の世を終わらせる戦いである関ヶ原の戦い。天下を狙う徳川家康とそれを阻止しようとする豊臣家の官僚、石田光成の戦いのことを指差す。
それに比べれば、この戦いは戦乱の世を終わらせることが出来るものではない。
だが今、俺達にとっての天下分け目の戦いはこれだ。
孫呉の夢が終わるのか、これから先につなげるのか。
今一度、踏ん張る時だ。
――――――…
ぶつかり合った互いの軍勢、これを孫呉が圧倒。
孫呉の兵士達の信念は強かった。
こちら側の消耗はほとんど無いが、袁術の軍勢はほぼ壊滅。
まさに圧倒と呼ぶに相応しかった。
残るは城内に潜む敵兵士と袁術と張勲。
油断は禁物、後締めはまだ終わっていない。
城内へと侵入した孫策達は一目散にその行方を散策、だがこれだけ広い屋敷ともなるとそう簡単に見つかるものではない。
「はぁ、はぁ……美羽様、大丈夫ですか?」
「妾はもう疲れたのじゃぁ~……七乃、おぶってたも」
「さ、さっすがにそれは無理ですよぉ」
無理というのも仕方なかった。
袁術を守るために、城内に入り込んでくる孫策の兵を相手にしているわけだ。
それも一人や二人ではない。
何とか一人で袁術のことを守ってはいるが、彼女の目には疲労というものが目に見えて積み重なっていた。
「うう……惨めなのじゃぁ……」
「戦に負けちゃいましたからねぇ……」
「うー、七乃七乃! 蜂蜜水が飲みたい! 妾は蜂蜜水が飲みたいのじゃ!」
「もぉー。我侭言っている間に足を動かしてくださいよぉ」
「やじゃやじゃ! 妾はもう動けないのじゃ!」
駄々をこね始める袁術、時と場合にもよるが今はそんなことを言っている場合ではない。
ただ幼い彼女にとってはそういうことしか出来ないのかもしれない。
「そんなこと言ってると孫策さんがやってきますよ。悪い子はいねがーって」
「それはいやなのじゃ。……でも蜂蜜水はもっと飲みたいのじゃー!」
こんな状況下だからこそなおさら、まともな状況判断が出来ないのか。
ただそんな二人に歩み寄る影が。
「なら好きなだけ飲ませてあげようか?」
二人にとっては今最も聞きたくない声であり、もっとも会いたくない人物。
それに二人の顔は見る見るうちに青ざめていく。
二人は声のする方に恐る恐る振り向いた。
「「―――っ!?」」
「ただし……あの世でだけどね」
「きゃーっ! でたーっ!」
「きゃーっ! でたのじゃーっ!」
「失礼ね。人をバケモノみたいに言って」
後ろにいる孫策から逃げようと後ずさる二人、幸い進行方向に誰かがいるわけではない。
何とか袁術だけでも……
ただそんな希望も打ち砕かれる。
「……ここまでお前の勘も的中すると人間には思えくなりそうだな」
「!!?」
二人の前に仁王立ちするのは飛鳥、その手にはしっかりと刀が握られている。
このまま強行突破をしようにも出来なくなってしまった。
二人の耳にも飛鳥の武の高さは届いている。
これで完全な四面楚歌、もはや逃れる術は無い。
「な、ななな何のようじゃ孫策! 妾はおまえなどに用は無いのじゃ!」
「そうそう! そうですよ! 用は無いんで、私達は先に行かせてもらいますね。孫策さんたちはごゆっくり~♪」
「つれないこと言うわねぇ。……でも残念。私にはとても大切な用があるの」
「ほ、ほう。なんじゃ? 用があるならさっさと言って、さっさとどっかに行けばいいのじゃ」
「そうですよ、こう見えて私も美羽様も、とーっても忙しい身なんですから♪」
「ふーん。……ならさっさと用事を済ませちゃいましょうか」
すらりと持っていた剣を抜く。
その目は獲物を狩る目そのもの。その目に二人はガタガタとおびえ始める。
「な、な、なぜ剣を抜くのじゃ!」
「え? だって剣が無いとあなたを殺すこと、出来ないでしょ?」
「ひーっ! 妾を殺すというのか!?」
「当然。……今まであなたにこき使われてきたんだから。意趣返しするくらい良いじゃない」
もはや意趣返しという程度のものではないが、そこは物の例えということで良いだろう。
「な、七乃! 七乃七乃! 妾を助けるのじゃ!」
「ムリ!」
あっけなく白旗を出される。
「な、なんじゃとぉ! 七乃は妾の傅役では無いのかぁ~!」
「だってぜぇーーったいかないませんもん!」
「それでも妾を守るのが七乃の仕事じゃろ!」
「守ってますよ! 後ろから見守っています!」
「なんなのじゃそれはぁぁ~っ!」
挙句の果てには漫才まで始まる始末。
もはや極限にまで追い詰められているためにやることが支離滅裂。どう考えてもこの場でやるようなことではない。
「……はいはい。漫才はそこらへんでおしまいよ。……ついでに袁術ちゃんの命もそろそろお終いにしましょうね」
一歩ずつ、二人に近寄っていく孫策。
ガクガクとおびえる二人は足の力が抜けてしまい、その場で手を取り合いながら泣きわめく。
「あぅあぅあぅ~……」
「うううー、美羽さまぁ……」
「あらら、泣いちゃった」
「……むしろ泣かせたほうだろ」
「………」
「薮蛇だったな」
孫策にジロリと睨まれて黙る飛鳥。
飛鳥が黙ったのを確認すると、再び二人に目をみいやる。
「やだやだやだ。死にたくないのじゃ~!」
「私もですぅぅ~!!」
「残念……そろそろ死ぬ時間よ。覚悟はいいかしら?」
ニヤリと微笑む孫策。
いざとなれば笑顔で敵の首を刎ね飛ばすことなど孫策には容易い。
冷たい笑みが二人を射抜く。
「そ、孫策さん! お嬢様の命は助けてあげてくださいいぃ! 私の命ならいくらでも差し上げますからぁ!」
「うわぁぁん! 七乃ぉぉぉぉ!」
「お嬢様ぁぁぁ~!!!」
「麗しき主従愛って? でも泣き喚いても許してあげない。うふふっ、二人仲良く殺してあげる」
「七乃ぉぉぉ!!!」
「地獄に落ちてもずっと一緒ですよ、お嬢様ぁぁぁぁ!」
ひしりと抱き合う二人。
後は振り上げられた刀が……
「……な~んてね」
そんな声が響き渡った。




