夜明け
―――side 蓮華
「ん……」
昇った朝日で目を覚ます。
眠れないとはいえ疲れはたまっていたようで、いつの間にか寝てしまっていたようだ。
これが私自身の初陣だったわけだ。疲れが出ないわけがなかったのかもしれない。
―――何だろう、右側に何か温かいものが当たっているような気がする。
目が覚めて、徐々に覚醒する頭が温もりというものを認識し始める。
確か眠れないから、外に出て……
飛鳥に今朝の事を謝罪しようと思って……
それから……
――――…
――…
……
飛鳥の横に寄り添って……
てことはこの隣にある温もりは……
そこまで考えたところで、寝ボケていた頭が覚醒する。
周りはもう完全に日が立ち昇っていて、青空が広がっていた。
私は視線を徐々に上へとずらしていく。
「よう、起きたか」
「あ、飛鳥!」
そこには彼の姿があった。
彼に謝ろうと考えていたら、たまたま飛鳥も起きていて……
私に自分を偽ろうとせず、自分の思い描く国を作ればいいと言ってくれた。
なぜだろうか、たった二日間一緒に過ごしていただけなのに、もう私は彼の事を信用してしまっている。
それどころか、私が初めにあれだけきつく当たったのにもかかわらず、飛鳥は文句一つ言わず、私を受け入れてくれた。
短期間だが、理解することが出来た。
彼こそが、雪蓮お姉様の隣に立つ人物であると。
―――でもそう考えると、胸が痛くなる。
彼が私を見てくれないのではないか、などと根拠のない不安に襲われる。
彼は私に自分らしさだけではなく、一人の女性としての在り方を教えてくれたのかもしれない。
……今はまだはっきり言えないけど、飛鳥によりかかっていても全く嫌な感じはしなかった。
むしろすごく、温かかった。心も体も……
男性なら誰でもいいというわけではない、飛鳥以外の男性に同じ事をしようとしていたと考えると、虫唾が走る。
――――彼にもっと
――――もっと私を女として見てほしい。
――――side 蓮華 end
―――…
「孫権、どうした?」
「ふぇっ!?」
先ほどからずっと惚けている孫権に声を掛ける。すると思っていた以上の可愛らしい返事がかえってきた。
……そんな返事を僥倖だと思いつつ、言葉を続ける。
流石にこんな状況を孫策に見つかった日には、一日中からかわれそうだ。
……言うな、みなまで言うな。
孫策だけじゃなくて、周瑜やら黄蓋やら陸遜あたりにもバレたら同じことだっていうのは知ってるさ。
「……よく眠れたか?」
「あう……え、ええ」
「そうかい、そりゃよかった」
「飛鳥はもしかしてずっと起きていたの?」
「ああ、目が完全に覚めちまってな。ま、寝れなくても、孫権の寝顔が見れたからな」
「うぅ……もう」
寝顔を見られてしまって恥ずかしいのか、俺から顔を背ける。
気持ちはわからんでもない、俺も寝顔はあまり見られて良いものだとは思わないし。
むしろ俺が聞きたい。ぜひ自分の寝顔を見てくださいなんていう奴がいるのかどうか。
……どんだけ自信過剰なんだよ。
「そ、それじゃ私は先に戻るから……飛鳥も集合時刻に遅れないように」
「分かったよ」
誤魔化したなと思いつつ、顔を赤らめた孫権の後姿を見送る。
天幕の中に孫権の姿が消えたのを確認すると、俺は今一度あたりを見渡す。
俺が今孫権といたところは割と緑が生い茂る場所で、木々も生えている。
……大人数となると隠れることは無理だが、一人や二人なら隠れる場所は充分にあるわけで
いつからか気になっていたけど、誰かがずっと俺達の事を監視していたんだが……まだ気配があるな。気配って言っても殺気とかじゃないけど。
とりあえず、その本人に登場してもらおうか。
「今なら孫権はいないぜ。出てきたらどうだ?」
「……いつから気づいていた?」
「途中からだな。敵意が無かったから放って置いたけど……見上げた忠誠心だな、甘寧」
「………」
見られると結構怖いな。
怒らせると刀抜きそうだし。
というか俺達の様子を見守っていたってことは、俺が孫権に好き放題言っていた時からずっと見られていたわけで……
それを悪い方に解釈されたらと考えると……
……あれ? 俺これ詰んだじゃないか?
「あれだ、別に俺はやましい事をしようとしていたわけじゃなくてだな……」
「知っている。……お前は何をうろたえているんだ? 私は別にお前に喧嘩を売りに来たわけではないぞ」
「え?」
「感謝する。蓮華様があれだけ柔らかい笑顔を浮かべたのは久しぶりだ。孫堅様が亡くなって散り散りになってから蓮華様は本心の笑顔を浮かべることは無かった……」
深く勘ぐった俺がバカだったか。
そもそも俺が孫権に何かしようと思っていたならば、もっと早い段階に甘寧が飛び出てきたはずである。
つまりは俺に対する敵意はありませんということ、でも俺が何かをしでかしたら飛び出してきただろうけど。
その為、普段時の甘寧と違って表情は比較的穏やかだ。
「俺は特に何もしてないよ。きっかけを与えたにすぎない」
「……そうか」
表情をあまり変えない甘寧の顔が少し微笑む。
甘寧はそれだけ言い残すと、孫権の後を同じように歩いて行った。流石は忠誠を誓っただけはあるか、その忠誠心は見上げたものだ。
さて、どーっすかな俺も。
……いいや俺も戻ろう。
どうせこの後すぐに本拠地の館まで戻るんだ。寝るのはそれからでもいいだろう。
……本人の前じゃ言えやしないよな
寄り掛かる孫権が気になって眠れなかっただなんて。




