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任命と酒盛り









――――…







「で、俺を呼んだのは昨日の話の続きか?」




「あぁ、そうだ」




 黄巾党との戦いから一日あけて次の日。俺は周瑜に呼び出されて、周瑜の自室に来ていた。黄巾党との戦いを見て、俺が部隊を率いることが出来る武を持っている、と判断したらしい。


つまりは、それに関する話ということだ。





「俺がね……柄じゃないと思うんだがな」




「戦闘中は自分の前の敵に集中してくれればいい。お前は自分の力で周りを率いてくれ。私と共に文官として立ってももらうがな」




「二刀流ってことか……」




「お前は天の御遣いという立場だ。死なれては困る……が、お前の存在自体が周りに影響を与えることが出来る」





「分かった。前向きに考えさせてもらう」




断ったところで、別にどうにかなるというわけでもないしな。自分の力を過信するわけではないが、一人でも犠牲者を減らしたい。


孫策や周瑜の前では絶対に言わないけどな。青臭いとかって笑われそうだし。




「話は変わるが、雪蓮を見なかったか?」




「孫策を?」




「あぁ。私が目を離したすきに政務を投げて逃げ出してな。他にも祭殿の酒と夕食用の食料を持ち出したらしい……」




 落ち着いた口調で言うが、その眼は全くと言っていいほど笑っていない。


一般人なら雰囲気だけで倒れそうな勢いだ。


仕方ない主だな、孫策も……




「もう少し孫家の主としての仕事をやってくれないとな……」




「あぁ全くだ。考えていると頭が痛くなってくる……時雨は書簡整理は終わったのか?」




「今日の分はな。ためといてもいいことないし、朝のうちに終わらせた」




「雪蓮にも見習ってほしいものだ……」





今日何度目か分からない溜息を吐く周瑜。孫策直属の軍師であるため、彼女が孫策をサポートする立場にあるのだが……


見ての通り、孫策自身が自由奔放な性格のため、周瑜の苦労は絶えない。苦労をかけられても、サポートをしているというのは二人の繋がりが強いという事なんだろう。



とはいえ、今日に関してはこのままだと孫策は地獄を見ることになりそうだな。




「分かった周瑜。俺が探してこよう……」





「そうしてくれると助かる。頼んだぞ」












――――…












「っとに……一体どこへ消えたんだか」




庭に出て、孫策の姿を探す。


どこで何油を売ってるんだか……油とは言っても夕飯の食材をつまみに酒を飲んでいるだけだろうけど。


目的の人物を探すがなかなか見つからない。時間がそんなにたっているわけじゃないし、晩酌するんなら近くでやると思ったんだが……



俺自身も庭を探すのをあきらめて、戻ろうとしたときだった。













「あーすーか! こっちよこっち!」




「……孫策?」




どこからともなくかけられた声。


その声の張本人を見つけるために、俺は周りを今一度きょろきょろ見渡す……が見つからない。





「どこにいる?」




「こっちよこっち。上よ上!」




「あ……?」









俺が見上げたのは木の上、その木の太い枝のところにその目的の人物はいた。


周瑜の言ったとおり、酒とつまみを持って。










「飛鳥は何してんの? こんなとこで」




「お前を探しに来たんだよ。周瑜の命令でな」





 周瑜の名前を出したとたんに若干顔をこわばらせる。自分のしたことが周瑜にばれていることを知り、あせっているのか。







「良いじゃない~たまにはお酒飲んでも~」




「お前はただの飲んだくれだろう。こんな昼間から政務までほっぽり出して」




「だって~! 政務なんてやってたら自由がなくなっちゃうじゃない! 心身すり減らしたら体が潰れちゃうわ」





「すり減るようなこと……ねぇ?」





「あ、傷ついた。今のはふかーく傷ついた」









 傷ついたといいつつも、笑顔を崩さない孫策。


予想はしていたが、全く悪びれてる様子はない。

こっちとしては怒る要素は皆無だからいいけど、周瑜に見つかった時の展開がはっきりとイメージ出来てしまい、俺は若干苦笑いを浮かべることしか出来ない。








「怒られても知らないぞ?」




「大丈夫よ、その時は飛鳥が助けてくれるんでしょ?」




「さぁ、どうだかな」





 孫策の登っている木に寄り掛かり、俺は話し始める。木の上にいる孫策の顔は、若干赤くなっていた。


 偶にはこんな軽口をたたきあうことも悪くない。






「周瑜の苦労が目に浮かぶな」




「私のために誠心誠意働いてくれてるんじゃないかしら? それより飛鳥も飲む?」









 持っている盃の中を俺に見せつつ、飲まないかどうかを進めてくる。


未成年なんだけどなとか思いつつも、ついつい孫策に乗ってしまい、俺も木の上へと昇る。


これもたまにだからいいだろう。そんなにがっつり飲むわけじゃないだろうから、ダメージは少なそうだ。





「頂かせてもらおう」




「これで飛鳥も共犯ね♪」




 孫策の後半の言葉を無視しつつ、注がれた酒を一気に飲み干す。


言われてみれば、俺酒って飲んだことなかったっけ。









「思った以上にきつくないのな。それに味も癖になりそうだ」




「でしょ♪ こくっこくっ……ぷはぁ! あーおいし」




 こうしてみると、本当にお酒の好きな一人の女性なんだけどな。


江東の小覇王と呼ばれる面影は、どこにもない。










「ねぇねぇ! 飛鳥の世界にはお酒ってなかったの?」




「ん? あぁ……色々あったよ」




 カクテルやウイスキーやワイン、そして焼酎にチューハイにビールなど。俺のいた現世に存在したアルコール飲料の話を聞かせる。


お酒が好きって言う孫策のことだ、たぶん食いついてくるだろう。







「へー! たくさんあるのね。ね、どうやってつくるの?」




「さぁな」




「さぁなって……ってどういうこと?」





―――案の定というか、やはり食いついてきた。



じゅるりと舌を滴らせそうな勢いで、嬉々として尋ねてくる孫策に、俺は全く知りませんとばかりに返事を返す。


俺も説明した手前、ほんの少しの罪悪感はあったが、知らないものは知らない。


酒の説明があったから作り方の説明もあると思っていたのか、孫策は狐に化けられたような顔をしながら顔を傾げる。







「年齢制度があって俺は飲めなかったし、作っているのはその道の職人。だから俺は飲んでたとしても、作ることは出来ないよ」




「うぅ……それって城で作れないの?」





「無理だな。作り方が分からないから作れないよ。それに作れるなら誰かしらがとっくに作ってるだろ?」




「えー、つまんなーい!」





 駄々をこねる子供のようにバタバタと足を動かして、孫策は頬を膨らませながら俺を非難する。


ていうか足をバタバタって俺が小さな時でもほとんどしなかったぞ……ってそれは俺の家系が家系だったからか。


下にパラパラと葉っぱが落ちていく。



ある人物を探している者にとっては、絶好の目印になるわけだが……もはやそんなことはお構いなしとばかりに孫策は拗ねる。




「仕方ないだろう……あんまバタバタしてると居場所ばれるぞ」




「ぶー、ぶー」




聞く耳はなしだからどうしようもない。


俺はバレても……


―――いや、俺も飲んだから共犯になるのか。


………困ったなこれは。







どうしたものかと考えていると、下から何かが飛んでくる。


その飛んできたものは拗ねている孫策の額にクリーンヒットした。





「きゃんっ!?」




「あー……まぁ、何だ……」











バランスを崩して地面に落ちていく孫策を見ながら、俺はご愁傷様というしかなかった。


俺の目には、はっきりと薄べ笑いを浮かべながらもこめかみに血管が浮き出た周瑜の存在を確認することが出来たのだから。

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