勝利と慰め
「……?」
相手の敵陣に火矢が飛んでいく。あっという間に火は燃え広がり、敵陣内を炎の海と化していく。
今が全軍総攻撃のチャンスか……
と……
「今だ!全軍突撃!!」
――――孫策の掛け声で、呉の兵士たちは一斉に攻撃を仕掛ける。
……突撃しろという伝令は届いていない、ということはだ。
(孫策の独断先行か……)
だがこの状況を見れば今こそ勝機、孫策の判断は適切だ。
恐るべき戦闘勘と勝負強さ
戦闘勘に関して言えば、軍師よりも上だろう。
……まぁ勝手に突っ込んだのは、あとで周瑜にこってりと絞られそうだけど。
再突撃の合図とともに俺に充満していた血の気も徐々に薄くなっていく。つまり殺しの気が引いてきたということだ。
……この気は今に始まったことではない。
俺が仕事をする時、俺自身が精神的なダメージを受けないように守るための、もう一人の俺の人格と考えてもらえばいい。
報酬さえ貰えば何だってする。テレビとかで見る仕事人のことだ。
俺もしたくて人を殺していたわけじゃない。だからこそ、一般人を殺すことは仕事でもなかった。
仕事内容は見えない犯罪、つまり表世界では裁けないような犯罪の検挙。それに対して死をもって償ってもらう。
それが俺の仕事だ。
話を戻そう。だから俺が少しでも『人を殺める』ということを思い描いてしまうとこうなってしまう。自我はあるものの、行動はしばらく止まらない。
………俺が孫策に仕えることが決まった時からわかってた事なんだけどな、実際衝動として起きてしまうと後ろめたい気持ちが湧き上がってきてしまう。
素直になれない……いや、捨てたのかもしれない。
俺が宿命を背負ってきた時からずっと……
――――こっちにきて初めての戦は、自軍の圧倒的勝利で幕を閉じた。
―――――…
「あぁ~もう、腹立つなぁ~」
戦に勝利したというのにも関わらず、孫策の機嫌は最高に悪かった。
孫策を除いた全員は先に撤収し、孫策だけ袁術のところへ報告に行ったのだが……原因は十中八九それだろう。
「お疲れ様、その様子だとうまくいかなかったみたいね。雪蓮」
「また、約束をはぐらかされたわ。もうムカつくったりゃありゃしない」
「だが、雪蓮今はまだたてつく時期ではないわ。もう少し期が熟すのを待ちましょう」
「分かってるって! でも、ムカつくのはとめられないのよ」
「そういうな、孫策。呉の独立の為には、今は耐える時だ」
「むぅ……飛鳥まで」
周瑜だけではなく俺にまでなだめられて、頬を膨らませる孫策。気持ちは分からんでもないが、今は耐える時だ。
「そうだ時雨、お前には次から小隊を率いてもらうことにする。私と祭殿、穏で出した結論だ」
「俺が? 俺なんかで大丈夫なのか?」
「お前と雪蓮の二人の武は我が軍の士気を上げることが出来る。何よりお前を文官としてだけ使うには惜しい」
「………善処はしよう」
「決まりだな。近いうちに詳しい事は話そう」
やっぱり見られていたか。見るなって方が無理かもしれないけど、複雑な気分だ。
というか、さっきから孫策がものすごい笑顔だ。主に俺の話題になった時からだけど。
何だろう、俺はここから逃げ出さないといけないと勘が告げているんだが……
「ねぇ~飛鳥? 今度私と「断る」何よ~まだ言ってないじゃないの~!」
「模擬戦しようとでも言うんだろう? 断る。俺の身が持たない」
「いいじゃない~、か弱い大人の女性が言ってるのよ~?」
「か弱い女性は模擬戦やろうなんて言わないだろう」
「ぶー、ぶー!」
「……んで? 怒りは取れたか? 孫策?」
「え? あ……!」
そういえば! という感じの表情を浮かべる孫策。ったく、いくら些細なこととはいえ後に引きずられちゃ困るからな。
多少俺が相手をしてやることで、孫策のたまっているわだかまりが取れるなら安いものだろう。
「俺は先に戻る。じゃあな……」
「あ、ちょっと飛鳥!」
―――止めようとする孫策をよそに、俺は自室へと戻った。




