戦場を駆ける獣
―――side 冥琳
「うわあああああああぁ!」
ザシュ!
「た、助け………」
グシュ!
―――――戦が始まり、どれくらいが経っただろうか。
その者の周りは死屍累々……血の海が広がっていた。
天の御遣い、時雨飛鳥。
敵を圧倒する戦闘力、私たちと話している時とはまるで別人の雰囲気は背筋を震え上がらせるものがあった。
相手は黄巾党、確かに鍛えた武官と比べたら造作もない相手だ。
だが今起きていることはそういう問題ではない。
あそこにいるのはまるで別人だ。時雨の姿をしたまた別の何か。
雪蓮にしても殺気や闘気は出るいるものの、感情というものははっきりと出ている。
ところが時雨は感情一つ持たない、まるで人を殺すためだけに生み出された獣というに相応しかった。
「凄まじいな……これが時雨の本当の実力かのぉ。儂の出番がほとんど無いわ」
「ええ、しかもちゃんと敵味方を区別しているあたり、しっかりと思考の制御は出来ている。そしてあの武……雪蓮はまたとんでもない人物を連れてきたものだ……」
私は時雨に対して悪い印象を抱いているわけではない。
むしろ今、奴には凄まじい可能性を感じていた。
――――奴なら呉の国を救ってくれる。呉の国に平穏を取り戻してくれると……
雪蓮と時雨の軍勢に押され、徐々に黄巾党は瀬戸際まで追いつめられていくのが分かる。
容赦しない二人の先陣を切った戦い方は、他の一般兵の士気を高めている。
―――雪蓮がはじめに策など必要ないと言ってたことを思い出す。
(確かにそうだったかもな、全く、お前の直感は見事なものだよ)
徐々に瀬戸際に追い詰められていた黄巾党が敗走していく。
(今が頃合いか……)
それを確認すると、私は素早く穏に指示を告げた。
「穏! 今だ!」
――――side 冥琳 END




