第22話 新たな一歩
「さて、弟子入りしたことだし」
オーグリの投影が、ふいに口を開いた。
「まずやることがある」
「何だ?」
レオンは警戒の目を向けた。
「ワシをこの法器からお前のペンダントに移すんだ」
オーグリはニヤリと笑った。
「この検出用の法器は仮の器でな。居心地が悪くてかなわん」
「それに、こんな円盤をいつも持ち歩くわけにもいかんだろう? 目立ちすぎる」
レオンは眉をひそめた。
「ペンダントに移る? それじゃあ……」
「落ち着け、最後まで聞け」
オーグリは手を振った。
「別にペンダントをそのまま着けろとは言っとらん。お前の魔力を吸い続けたいわけでもない」
「なら、どうするんだ?」
「ペンダントを改造して、携帯用の容器にする」
オーグリは説明した。
「例えば小瓶のようなものにして、腰に下げる。そしてワシが特製のカバーの作り方を教える」
「カバー? 何のために」
「吸収の方向を変えるためだ」
オーグリは得意げに言った。
「元々このペンダントは、着用者の魔力を吸収する。だがこのカバーを被せれば、代わりに周囲の環境に漂う遊離魔力を吸収するようになる」
「つまり——お前の魔力を削ることなく、魔力精華を集め続けられる。一石二鳥だ!」
レオンの目が輝いた。
「そんなことができるのか?」
「当たり前だ! ワシを誰だと思っている?」
オーグリはカラカラと笑った。
「これはワシの独自技術だ!」
「ただし——」
老人は言葉を切った。
「そのカバーを作るには材料が要る。薬剤の調合に必要な材料と一緒に買えばいい」
レオンは頷いた。
「何が必要だ?」
「大したものじゃない。魔力導向符文用の銀粉と、低級の魔力水晶の欠片をいくつか」
オーグリは言った。
「合わせて五十金貨くらいだな」
「……」
レオンの口元が引きつった。
また金か。
「まあいい、無駄話はこのくらいにして、まず転移を済ませよう」
オーグリが促した。
「ペンダントを法器の上に置いて、血を一滴垂らせ」
レオンは言われた通りにした。
胸元の星導石ペンダントを外し、銀色の円盤の隣に慎重に置く。そして短剣で再び指を切り、一滴の血を法器の中央に垂らした。
ブゥン——
法器が激しく振動し始めた。
銀色の符文が狂ったように明滅し、無数の光線が円盤から星導石ペンダントへと伸びていく。
オーグリの投影が歪み、引き伸ばされ、やがて銀色の光の流れとなって、光線に沿ってペンダントへと流れ込んでいった。
全過程は約十秒。
そして、全ての光が消えた。
法器は静まり返り、表面の符文は完全に暗くなっていた。
一方、星導石ペンダントは微かに青い光を放っている。
『ふぅ——やっと出られた!』
突然、声がレオンの脳裏に響いた。
レオンはビクッとした。
「お前——」
『ヒッヒッヒ、落ち着け、ワシだ』
オーグリの声には、どこか嬉しそうな響きがあった。
『これでワシの魂の刻印は完全にペンダントに移った』
『これからはお前の頭の中で直接話せる。他人には聞こえんし、ワシの姿も見えん』
レオンは眉をひそめた。
「俺の精神に影響はないのか?」
『ない、安心しろ』
オーグリは笑った。
『ワシはペンダントに宿っているだけで、お前の思考に干渉することはない。それに、お前が意識を向けた時だけ、ワシはお前の考えを「聞く」ことができる』
『だが、覚えておけ——』
オーグリの声が真剣になった。
『誰にもワシの存在を知らせるな。最も親しい者にもだ。ワシの身元は……複雑でな。お前に面倒をかけることになる』
レオンは頷いた。
「分かった」
『よし』
オーグリは満足げに言った。
『では、錬金材料をどうやって手に入れるか考えよう』
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翌朝。
レオンは瞑想から目覚めた。
一晩の修練を経て、体内の魔力が昨日より僅かに充実しているのを感じる。
微かな向上に過ぎない。
だが、七年間ずっと衰退し続けていた彼にとって、これは大きな進歩だった。
『やはりペンダントを外してから、魔力が回復し始めているな』
オーグリの声が脳裏に響いた。
『だが遅すぎる。このプロセスを加速するには薬剤が必要だ』
「分かっている」
レオンは着替えながら答えた。
「だから今日、金を借りに行く」
服を整え、星導石ペンダントを慎重にポケットにしまう。
材料が手に入れば、これを腰に下げる小瓶に改造できる。
部屋を出たところで、廊下で大きな影とすれ違った。
「レオン」
落ち着いた、穏やかな若い男の声。
レオンは顔を上げ、見慣れた顔を見た。
ティモシー・セレストーム。
従兄にあたる、二十歳の青年。家族の若い世代の中で最も優秀な一人だ。元素系の魔法師で、既に正式な魔法師のレベルに達しており、祖父からも深く信頼されている。
「ティモシー兄さん」
レオンは呼びかけた。
「昨日、叔母上の庭園に行ったと聞いたが」
ティモシーが近づき、気遣わしげに尋ねた。
レオンは頷いた。
「いくつか……手がかりを見つけた」
ティモシーはしばらく彼を見つめ、肩を叩いた。
「どうあれ、あまり落ち込むな。お前はまだ若い。機会はいくらでもある」
レオンは深く息を吸い、思い切って口を開いた。
「ティモシー兄さん、実はお願いがあって」
「ん? 何だ?」
レオンは少し躊躇し、それでも言った。
「金を……貸してほしいんだ」
ティモシーは一瞬驚き、それから笑った。
「金を借りる? いくらだ?」
「四百金貨」
レオンの顔が少し赤くなった。
「修練用の材料を買いたいんだ」
「修練用の材料?」
ティモシーの目に驚きの色が浮かんだ。
「魔力を回復する方法を見つけたのか?」
「いくつか……方向性が見えてきた」
レオンは曖昧に答えた。
「試してみたいんだ」
ティモシーは少し考え込み、やがて頷いた。
「分かった。待っていろ、取ってくる」
そう言って、彼は踵を返した。
『お前の従兄、いい奴だな』
オーグリが脳裏で笑った。
『二つ返事で金を貸すとは』
「ティモシー兄さんはずっと俺によくしてくれた」
レオンは小声で言った。
「この七年間、魔力が衰退している間も、一度も俺を見下したことがない」
しばらくして、ティモシーが金袋を持って戻ってきた。
「四百金貨だ」
彼は金袋をレオンに渡し、表情が真剣になった。
「レオン、修練は無理するな。もしこの材料が効かなくても、落胆するなよ」
「ああ、ありがとう、兄さん」
レオンは重々しく金袋を受け取った。
「この金は、必ず返す」
「急ぐな」
ティモシーは笑った。
「お前はまだ若いんだ。ゆっくりやれ」
彼はレオンの肩を叩き、去っていった。
レオンはずっしりと重い金袋を握りしめた。
胸に温かいものが込み上げてくる。
『よし、金は手に入った』
オーグリが言った。
『さあ、出かける準備をしろ。材料は今日中に揃えた方がいい』
レオンは頷き、部屋に戻って支度を整えると、屋敷の玄関広間へと向かった。




