第67話 ミラモン販売所 ― 振られ続けるタケルと奇妙な管理人 ―
ギルド本部の裏手、中央都市の喧騒から少し離れた一角に――
巨大な透明ドームの建物がそびえていた。
「ここが……ミラモン販売所か」
タケルが息をのむ。
中に入ると、光が反射してキラキラと眩しい。
ガラスのような壁の向こうでは、ミラモンたちが穏やかに眠り、世話係に見守られていた。
それは“檻”ではなく、“保護区”と呼ぶほうがふさわしい場所だった。
「……なんだか、静かね」サクラが呟く。
「保護と販売が一体になってる。倫理管理が厳しいらしい」アキラが説明する。
「すげぇ……本物の“出会いの場”って感じだな」タケルが目を輝かせた。
白衣の受付係が笑顔で出迎える。
「ようこそ。こちらでは、モンマスの適合値で相性診断もできますよ」
タケルが差し出したモンマスが自動スキャンされ、画面に文字が浮かぶ。
《適合値:低め》
「うぐっ、低め!?」
「そりゃ、土下座じゃ測れないでしょ」サクラが苦笑した。
受付係は優しく微笑む。
「でも、“低い”からこそ、思いがけない出会いが起きるものです」
その言葉に、タケルはどこかで聞いた“あの言葉”を思い出していた。
――『一期一ミラ』。
⸻
「ようこそ! ようこそ!」
明るい声が奥から響いた。
現れたのは、やけにテンションの高い中年の男性。
胸には“販売管理主任 ロイド・バリマ”の名札。目が異様にキラキラしている。
「期待に胸を含まらせているそこの眼鏡の少年、お待ちしてました!」
「え、僕じゃないです」アキラが引きつる。
「おっと失礼。では、そこの可愛いお嬢ちゃん!」
「お世辞が上手ね。でも残念、私でもないわ」サクラが肩をすくめた。
「分かってましたよ、最初から! 本命は――君だ、そこのわんぱく少年!」
「……大丈夫かこの人」タケルがぼそり。
「シー、聞こえるって」サクラが小声で突っ込む。
ロイドは満面の笑みで手をこすり合わせた。
「さてさて、どんな子をお探しで? ご案内いたしましょう♪ ちなみに、ご予算は?」
「七百ミラしかない」
「ふむ、七百ミラではEクラスが限界ですね。ですが! 育て方次第で化けますよ!」
ロイドは慣れた手つきで案内を始める。
「こちらは小さな葉っぱ頭のミラモン《ポヨリーフ》。
草原にも出ますが、見た目が人気でして」
サクラが思い出したように笑う。
「タケルが土下座して、振られた種類のミラモンね」
「これは……運命のリベンジだ!」
タケルは姿勢を正し、再び地面に正座。
「お願いしますっ! 僕と仲間になってください!」
ロイドはニヤリと笑い、耳打ちした。
「これは新しい手法ですね……ビューティーフルですよ」
モンマスが反応し、淡い文字が浮かぶ。
《目の前のポヨリーフは笑っています。土下座はやめましょう》
「またかよーーーッ!」
アキラとサクラは吹き出した。
ロイドは咳払いをして、営業スマイルを崩さない。
「コホン。いやぁ、なかなか手強いですねぇ。では、次いきましょう!」
⸻
展示区を歩くうち、タケルの目が一点に止まった。
輝くケースの中に、卵のような体を持つ鳥型ミラモンがいた。
内部がほんのりと金色に光っている。
説明プレートにはこう記されていた。
【ミラモン名:サンライトエッグ】
分類:光属性鳥型ミラモン
特徴:卵型の体を持ち、太陽光を浴びると内部が温まり、
周囲を癒やす“陽気”を放つ。
卵は希少な滋養食材としても人気。
ロイドが誇らしげに言う。
「中央都市で人気の卵料理に使われてる《サンライトエッグ》ですよ。
サクラがハッとしたように目を丸くする。
「さっきギルド本部の酒場で食べた黄金のオムライスね」
ロイドが嬉しそうに指を鳴らす。
「すでにお召し上がりでしたか。
あれの卵がまさにこれです。
料理人たちに大人気で、今や一体五万ミラ。Bランクですね」
「五万!?」サクラが目を見開いた。
「た、高ぇぇぇ!」タケルがのけぞる。
「……でも、あのオムライスの味、忘れられねぇ……!」
「タケル、七百ミラしかないでしょ」サクラが即ツッコミを入れる。
「ぐっ……夢を見るのはタダだろ!?」
ロイドは肩をすくめて笑った。
「夢を見られる者ほど、いい縁を掴むんですよ。――さて、次へどうぞ!」
⸻
その後もタケルはEクラスのミラモンたちに次々と挑戦するが――全滅。
「……俺にはモチしかいないんだ……」
肩を落とすタケル。
サクラが眉を下げる。
「ねえ、ロイドさん。何とかならないの? タケルが可哀想よ」
「そうだな、せめて希望の光くらいは見せてやってくれ」アキラも頼む。
ロイドは顎に手を当て、少し考えた。
「そうですね……おすすめはできませんが、訳ありの子たちを見てみますか?
人間嫌い、病弱、臆病……販売に出せない子たちです。
もしあなたを気に入ったら、特例で五百ミラでお譲りします」
「タダじゃないのね」サクラが突っ込む。
「タダほど高いものはありませんよ、お嬢ちゃん。
苦労して手に入れたほうが、後で大事にできるもんです」
ロイドはウインクをして、ゆっくりと奥の扉を押し開いた。
⸻
通路の先は薄暗く、壁の結晶灯がぽつぽつと灯っていた。
どこか静かで、まるで息を潜めるような気配。
「ここは……販売所の、裏?」
「正確には“引き取られなかった子たち”の区画です」
ロイドの声が、先ほどまでの明るさを失っていた。
「――さて、どんな“出会い”が待っているか、楽しみですね」
タケルは唾をのみ、歩みを進めた。
その奥で、自分を見つめ返す“何か”の視線に、まだ気づいていなかった。
⸻
――こうして、タケルたちは販売所の“裏”へ足を踏み入れる。
その奥で待つ“運命の出会い”を、誰もまだ知らなかった。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
少しでも先が気になった方は、ブックマークや評価をいただけると嬉しいです。




