第131話 学院への入口
翌朝。
珍しく、タケルは机に向かっていた。
机の上には、通信課題のプリントが山積みになっている。
「……」
ペラ。
ペラ。
ペラ。
数秒後。
「多くない?」
思わず呟いた。
その瞬間。
腕のモンマスが光る。
――ピッ。
【未提出課題:17件】
【至急提出してください】
【担任コメント】
『大和タケル君へ
神谷君、桃坂さん、天城君は、
すでに課題を提出済みです。
現時点で未提出が残っているのは、
君だけです。
このままでは学院へ送り出す許可を出せません。
……先生も胃が痛いので、
早めに提出してください。
担任より』
「追撃まで来た!?」
タケルは頭を抱えた。
台所から母の声が飛ぶ。
「でしょうね」
「母ちゃん、他人事じゃないんだけど」
「私は何回も言ったわよ」
ぐうの音も出ない。
タケルは咳払いした。
「見ててくれ」
「はいはい」
「今までの俺じゃないからな」
母が顔を出した。
「昨日も聞いた」
「世界一になるなら課題も必要だろ」
「昨日と言ってること違わない?」
「違わない」
「昨日まで課題を見ないふりしてた人が?」
「違わない」
母は吹き出した。
「まあ、頑張りなさい」
「おう!」
言った直後。
プリントの束を見て少し後悔した。
「……やっぱ多い」
ふと腕のモンマスを見る。
画面の中には、
ルーとモチのアイコンが並んでいた。
「お前らは気楽でいいよな……」
もちろん返事はない。
けれど。
なんとなく、
二匹に見られている気がした。
それでも。
昨日までなら投げ出していたかもしれない。
けれど今日は違った。
世界決勝。
エルシア。
シルバ。
あの舞台を見たあとでは、
課題くらいで逃げる気にはなれなかった。
◇
昼過ぎ。
三人は通話を繋いでいた。
画面の向こうでは、アキラが何やら大量の資料を広げている。
「エルシアの同期制御」
「シルバのカード運用」
「決勝戦でのフィールド支配」
「あと準決勝二十四分三十七秒時点の――」
「まだやってるのかよ」
タケルが呆れる。
アキラは真顔だった。
「当然だ」
サクラが苦笑する。
「昨日からずっとだよ」
「世界トップの試合だぞ」
アキラは即答した。
少しも迷いがない。
「俺なんか途中から何やってるのか分からなかったぞ」
タケルが言う。
するとアキラは静かに頷いた。
「安心しろ」
「え?」
「俺も途中から分からなかった」
沈黙。
そして。
「じゃあ何を分析してるんだよ!」
サクラが吹き出した。
「はははは!」
アキラも少しだけ笑う。
「分からない部分があるから調べてるんだ」
「真面目か」
「真面目だ」
三人はしばらく笑った。
けれど。
ふと会話が途切れる。
誰もが同じことを考えていた。
世界は広い。
本当に広い。
レベル5になって喜んでいた自分たちが、
どれほど入口にいたのか。
昨日、嫌というほど思い知らされた。
その時だった。
――ピッ。
三人のモンマスが同時に光る。
「ん?」
「通知?」
「学院からだ」
画面が開く。
【グランディア中央学院】
【新入生入学式のお知らせ】
タケルが息を呑む。
「来た……」
さらに通知が続く。
【入学式後の予定】
【新入生歓迎祭】
【入寮選定の儀】
【全新入生参加必須】
アキラが小さく頷いた。
「いよいよか」
サクラも笑う。
「歓迎祭だって」
「数ヶ月後には、私たちも学院生なんだね」
「入寮選定……?」
タケルが首をかしげる。
「寮って、自分で選ぶんじゃないのか?」
アキラが通知を確認する。
「詳しい説明は、入学後に行うって書いてある」
「なんだよ、気になるな……」
タケルは通知を見つめた。
ついこの前まで、
合格発表で喜んでいた気がする。
けれど。
時間は、もう学院へ向かって動き始めていた。
◇
少し静かな時間。
三人とも画面越しに黙る。
タケルは窓の外を見た。
世界決勝。
エルシア。
シルバ。
そして――ガイアス。
全部が頭に浮かぶ。
「俺」
ぽつりと呟く。
「レベル5になっただけで浮かれてた」
サクラが即答した。
「浮かれてたね」
「うるさい」
少し笑いが起きる。
けれど。
タケルは続けた。
「でも」
アキラが聞く。
「学院か?」
タケルは首を振った。
「違う」
二人が見る。
タケルはまっすぐ前を向く。
「その先だ」
静かな沈黙。
「ガイアスが立った場所」
世界決勝の舞台。
世界王者たちが集う場所。
あの頂点。
サクラが目を丸くした。
「大きく出たね」
「最初から言ってるだろ」
タケルは笑う。
「俺はバトルマスターになるんだから」
アキラが小さく笑った。
「なら行くしかないな」
「おう」
迷いはなかった。
世界との差は知った。
遠いことも知った。
でも。
諦める理由にはならなかった。
むしろ逆だった。
もっと行きたくなった。
◇
夜。
通話が終わる。
静かな部屋。
タケルはモンマスを見つめた。
画面の中には、
ルーとモチのアイコンが並んでいる。
「待ってろよ」
タケルは静かに拳を握る。
「ガイアス」
世界は広かった。
エルシア。
シルバ。
あの舞台に立つ者たち。
昨日まで遠いと思っていた場所は、
思っていたより、
ずっと遠かった。
けれど。
それを知れたことが、
少し嬉しかった。
タケルはモンマスを見下ろした。
「絶対、行く」
世界の頂へ。
その言葉だけは、
もう迷わなかった。
窓の外では、
星が静かに瞬いている。
少年の夢は、
まだ始まったばかりだった。
――第一部 完
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
これにて『モンマス』第一部、完結です!
そして次回からは――
いよいよ《グランディア中央学院編》が始まります。
学院編をより楽しんでいただける形でお届けするため、ここで一度、準備期間をいただきます。
再開時には、ある程度お話を準備したうえで、今までとは違った形でまとまって更新していく予定です。
次回更新をお待ちいただける方は、
ブックマークや作者フォローをしていただけると嬉しいです。
なお、準備期間中は作品ステータスを一度「完結」に変更します。
物語そのものが終わるわけではありませんので、ご安心ください。
ここまでタケルたちと一緒に冒険してくださって、本当にありがとうございました。
次は、学院でお会いしましょう!




