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ノルド・ドラゴン  作者: 本藤侑
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9.アルシング1

 季節は夏。全島集会アルシングの季節がやってきた。この日ノルドの各地からヴァイキングが集結する。


 村長はリコネル達の部族、ラウトの族長として、そして会場となる城の城主として全島集会アルシングに参加し、他の部族長たちとヴァイキング世界の行政を行う。


 全島集会アルシングのような大規模な集会は四年に一度しか行われなく、開催されればおよそ2週間は終わることはない。


 他の部族は食料、武器、特産品を持ってやってくる。


 そして、今年も予定通りやってきた。



 最初に神々しい朝日を受けてフィヨルドに姿を見せたのはノルド西南部のライディア族、続いて北部のウィンデラ族、ニーラ族、他にも続々とノルドの各地からヴァイキングたちはやって来た。


 少女の住まう村のフィヨルドには各部族の代表を乗せた50隻以上の船が集結した。



 城の広間に男たちは集まった。


「おお!イヴァンゴール!元気だったか?」


「おうよ、リンデス。お前こそ元気にしてたか?」


「まぁな。」


 ライディア族族長のイヴァンゴールと村長は互いに陽気に挨拶をし、肩を叩き合う。伝統ではないが習慣だ。


「ところでよ。今年の試練でリリク坊も成人だろ?今回の大会には参加するのか?」


「いやぁ、今回は参加しない。だが、私の姪が参加する。」


「姪!?女だと!?」


「意外か?」


 冗談だろと片方の眉を上げ、両手を広げるイヴァンゴール。


「意外も何も、女だぞ!?フハハハハ、笑わせないでくれ」


 イヴァンゴールのその返事に村長はしかめ面になる。


「冗談や戯事ではない!馬鹿にしないでくれ。我が姪は正当な参加者だ!そして、彼女は強い」


「そーかい。うちもツワモノ連れてしたんだ。楽しみにしとくよ。」


 イヴァンゴールの言いたいことは分かる。女が大会に出るのはこれが初めてだし、多くの男たちが女が男に勝るなんてことはありえない、そう思っている。


 だがリコネルなら。あの子は試練後から志し高く大会のために特訓した。今では手合わせでは息子のリリクに引けを取らない。この大会、リコネルはきっと勝てる。


 村長はそう心に刻み、ひとり熱意に燃えていた。


 ところでリコネルは何処だ?



 リコネルだってその深い眠りから目覚めようとしていた。


 訓練小屋のハンモックで四肢を放り出して寝ていた。


 周りには木製の短剣から金属製の斧まで色々なものが無造作に散らばっていた。


 そんな訓練小屋の開け放たれた小窓から小型のドラゴンが忍び寄る。


 ドラゴンは小さな翼でゆっくり滑空するとその無防備な少女向かって強烈なテールアタックを敢行した。


ビシィッ


「あいたっ!」


鞭のような音と共に少女は叫び起きた。


『これで16回目だな!』


嬉しそうに少女の周りを飛び回るドラゴン。


「今月はまだ3回目だもん」


少女はそう言い返し、痛む鼻の頭をさするのだった。


「他の部族はもう来たの?」


『朝日と一緒にやって来た。とっくに準備してるさ』


「やっばいじゃん。早くしないと!」


 少女は汗を染み込んだ寄れたタンクトップ型の下着を脱ぎ、新しいものに着替え、皮の服、その上から胸当て、肘当てなどの防具を装備する。


 自身の長髪を後ろで縛り、ラヴァンに身だしなみを確認してもらう。

 腰に剣を差し、大急ぎで小屋を飛び出す。城まではすぐだ。裏口からこっそり忍び込む。


 城の広間では各部族の部族長と戦士たちが数人ずつ並び、村長と互いに挨拶し合っていた。


 間に合った。少女はそう思い、ラウトの列に紛れ込む。前後の顔見知りがクスクスと笑い、少女を小突く。


「遅かったな。寝坊でもしたか?」


「まあ、そんなところ。ところで会は今どの辺?」


「とっくに会は終わってんよ。今はその後の談話時間みたいなもんだ。お前もこぼれ話の話題になってたよ。村長がお前は強いぞって珍しくムキになってたぞ」


 マジか。きっと大会の話が話題になったんだろう。ヴァイキングなら誰もが熱狂する催しだ。族長同士ならなおさら互いの出場者を知りたいことだろうし、そうに違いない。


 村長にそんな風に評価してもらえているなんて名誉なことだ。あんなに偉大な戦士に認めてもらえるなんて。だからこそさらに負けられない。無様な戦いは見せられない。夢を叶える為、負けるつもりは初めから無いが。


 今日の寝坊も失敗だなと感じた。


 ふと遠くの小窓から広間を覗くラヴァンの姿が見えた。寝坊に関して彼は何も悪く無い。むしろ起こしてくれたんだから感謝するべき相手だ。しかし、あんなケラケラした顔でこっちを見るなんて。ついつい彼を責めたくなる。


 それでもリコネルは村長の期待に応えたいと思い、胸に燻る怒りを抑え、ラウト族の列の中、綺麗な姿勢で表情ひとつ動かさないようにした。



 話をしていた族長たちもそれを終え部族の者たちの方に向き直る。

村長が一歩前に出てこれからについて説明を始める。


「これから村の南部に位置する草原に全島集会アルシングの準備をしてもらう。例年通りテント設営など個々に仕事をこなしてくれ。以上だ」


 複数の喚起の後、各部族はぞろぞろと城から出て、草原に向かう。


 赤と白、青と白、黄色と白、ヴァイキングたちは協力して縞柄のカラフルなテントを張り、四年に一度の祭典を成功させようと躍起になっていた。


 草原の中央を運動場に見立て、それを囲むようにテントを張ってゆく。各部族ごとに場所が指定されており、部族カラーを基調としたテントが張られるのだ。


 こうして午後には今年の全島集会アルシングが完了した。 

 明日から2週間もの間、様々な競技が行われ、各部族が競い合う。揉め事やトラブルは毎年恒例ではあるが、基本平和の祭典だ。


 そんな全島集会アルシングの競技の中で異彩を放つものがある。冒険者なる職業を選択する為に必要な大会である。


 リコネルはその"冒険者"になる為にその大会に参加するのだった。

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