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第21話 文房

 倉庫の方に戻る道すがら、前を歩くカーレイルには聞こえないくらいの声量で、うさみんに聞く。


「おい、結局何がどうなって残り4枠が埋まったんだ?」

 返事がない。

「おーい、うさみん?」


 まあ、ハナから期待はしてなかったんだけど。

 こいつは真面目だからな。一度「ダメです」って言われてしまったことを、やろうとはしない。

 俺が自分で考えるしかないわけだ。

 わざわざ考えて、真相を暴く必要もないといえばそれまでなんだけど、やっぱり気になるものは気になるんだよ。


 ふーむ。

 まず、カーレイルは、お金を使って何かを買ったわけだ。さっき「お金で解決できるなら」って言ってたから、それは確かなはず。

 とはいえ、初期の所持金は1000エン。仮に不要な初心者装備とかを売り払ったにしても、4枠分のアイテムが、NPCショップで買えるとは思えない。最初の街なだけあって、品揃えも少ないのだ。

 呪符を4属性分買えばいいのかもしれないけど、4000エンは用意できないだろう。そんなに簡単に金を用意する方法が荒れば、俺が使ってる。


 と、なれば。

 カーレイルの言う「お金」というのは、こっちの世界のお金でなく、現実世界でのお金のことなんじゃないか?

「また、課金か?」

 うさみんに囁くと、ビクッとして背筋を伸ばし、俺と目を合わせてくれなくなってしまった。

 これは、そういうことなんだろう。

 はー、と大きくため息をつくうさみん。

「カーレイル、すまんがこいつにバレたから言うぞ」

「やはり、わかってしまいますよね、仕方ありません」

「お察しの通り、課金アイテムだ。『美容院チケット』だの、『キャラネーム変更チケット』だの、バラ売りしてる奴」

 その辺のファッション周りって課金しないとダメなんだ。

 って、ちがうちがう。そんなことが問題なんじゃない。

「カーレイル、何もそこまでして枠を埋めようとしなくたって……」



「ナンコウさんが可愛らしかったから、じゃダメですか?」


 こちらに背中を向けたまま、不意に放たれた殺し文句に、思わず立ち止まってしまう。


「こんなバカップルほっといて、先に行きましょうか。リリーさん」

「お嬢様、倉庫の入り口でお待ちしておりますね」

 うさみんとリリーさんが何事かを言って歩き去っていく中、俺の体はぴくりとも動かなかった。いや、動けなかった。


 流れるような銀髪が風でなびいて、いっそ神々しいくらいのカーレイル。

 髪の横から飛び出ている彼女の耳もまた、真っ赤に染まっていたのを、見つけてしまったから。


 * * *


 しばらくして、やっと俺たちが倉庫にたどり着いた時には、うさみんはもう、倉庫から書道の道具一式を引き出し終わっていた。


「ほら、これだ」

「おお! ありがとう」


 渡されたのは、「初心者の硯」、「初心者の墨汁」、それに大量の「粗悪な紙」だった。

 これらと、ルーキーの筆を使えば、書道ができるはずだ。


 ところで、「粗悪な紙」って、どれくらい粗悪なんだ?

 「弘法筆を選ばず」って言葉があるけど、紙くらいは選んだと思うんだよな。


 メニューを操作して、紙を実体化してみる。

 なにこれ。

 ひどい。


 ささくれ立っているのだ。表面が。


 昔、遊びで、半紙の裏面(ざらざらしている方だ)に文字を書こうとしてみたことがある。その時には、筆につけた墨がすぐに吸い込まれていってしまい、かすれたり、滲んだり、散々だったことを思い出した。

 この紙のざらざら具合は、半紙の裏面の比じゃない。

 今まで筆も握ったことがない人が最初に書く紙が、こんなのだったら、確かに上手な文字は書けないだろう。


 墨、固形じゃなくて墨汁なんだな。俺は、墨は固形派なんだけど、とにかく大量に練習したくて、墨を()る時間すら惜しい時は墨汁を使うこともある。

 実体化すると、ポーションと同じくらいのサイズの瓶に入った、黒々とした液体が現れた。

 蓋を開けると、墨汁特有の匂いが立ち上って、なんだか気分が落ち着く。いつもの、部活の時の感じだ。


 というか、墨汁なら、何も必ずしも硯を用意する必要はなかったのでは?

 硯って、墨を磨るためのものだからな、本来。ごりごり削る必要がないなら、ごりごり削るための台もいらないんだ。絵の具を出すためのパレットみたいなやつで十分なはず。


 まあ、ともかく。

 北欧神話モチーフの世界観で、違和感この上ないのは確かだし、パーティのみんなにに迷惑かけたり援助をもらいまくったりしたけれど、ようやく、書道の道具が揃った。

 すなわち、俺が取得した<書道>および<符製作>スキルが、その真価を発揮する下地が、ようやく揃ったということに他ならない。


 さあ、書き始めよう。

 硯に墨汁を取り出し、ルーキーの筆を装備して、粗悪な紙と向かい合う。

 はじまりの街の片隅、屋外だけど、そんなのどうでもいい。とにかく俺は、今、書きたいんだ。


 正座して、深呼吸。

 右手で持った筆の穂先を、紙に触れさせようとして、はたと気付く。


「……なあ、うさみん?」

「どうした、急に書道道具引っ張り出して並べたと思ったら正座して」

「呪符って、どんな文言を書けばいいんだ?」

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