第17話 大穴
自ら作り出した火球を、あろうことか自分にぶち当てて、「はじまりの草原」で命を落としてしまった俺。
前にやってたソロプレイ専用のゲームだと、HPがなくなった瞬間に気を失って、目が覚めた時には教会の壮麗な天井を眺めていたんだけど、この「エインヘリヤル・オンライン」は違うようだ。
まだ、意識は残っている。
火球が当たって、熱い飲み物をこぼした時くらいのちょっとした火属性の演出を感じたと思ったら、体のコントロールが利かなくなって、そのまま仰向けに倒れてしまったのだ。
地面に体をぶつけて息が詰まるとか、そういうことは全然無く、草むらのふわふわ感だったりチクチク感を感じることも無く、俺は「はじまりの草原」の大地に倒れ伏した。
おそらく、HPがなくなると、一旦触覚だの痛覚だのは消える設定になっているのだろう。痛みを感じられるのもVRゲームの魅力ではあるんだけど、あんまり残ってもらっても、しつこいだけだし。
視界の中央には半透明のウィンドウがポップアップしていて、それを透かして、青い空を白い雲が少しずつ流れていく様子が見える。人がやわらかい地面を走っていく足音や、金属同士がかちゃかちゃとぶつかる音も聞こえてくる。
ゲームが進んでいくと、きっとHPを全損しても復活ができるようになったりするから、すぐに街に戻されたりはしないんだろう。
と、白い雲の中から、肌色の雲が姿を見せた。
いや、雲じゃねえや。うさみんの顔だ。
「はじまりの草原で死んだやつなんて、初めて見たわ。まさに草が生えるな」
後ろに「w」の字が付きそうな口調で、うさみんがからかってくる。
言い返そうとしたが、口が動かない。どうやら、生きているのは目と耳だけらしい。
「ああ、話せないのはわかってるから。ウィンドウ出てるだろ? 視線操作で『諦める』を選んだら噴水に戻されるから、また倉庫前に居てくれ」
そしてこの、実務的な内容への切り替えの速さが、うさみんの、賢斗の、すごいところである。
「あいつら回収したらすぐ戻るから、な」
雲を眺めていたから、ウィンドウは読んでいなかった。というか、一枚絵じゃなくて、ちゃんと雲がテクスチャとして動いてるんだね。結構すごくない?
改めて、出ているメッセージに目を向ける。なになに。
アイテムや魔法による復活を一定時間待つことができます。救出の見込みが無い場合は、復活を諦めて、最後に立ち寄った街に戻ります、だとさ。
デスペナルティとか、あるのかな?
まあ、今更どうしようもないか。落とす系のやつだったら、うさみんが回収してくれるだろうし。
諦める、っと。
視線を向けて、まばたき2回で「選択」すると、意識がふっと途切れた。
* * *
ゲームスタートの時と同じような感覚がして、目が覚めた。
前のゲームと違って、自分で「諦める」を選択している分、目覚めも若干すっきりしているような気がする。たぶん気のせいだろうけど。
こうして俺はめでたく、エットの街の噴水に戻ってきた。相変わらず、周囲は人でごった返している。
噴水からは、散発的にプレイヤーが出てくる。まあ、ほとんどはこれからゲームを始める人だろう。
とりあえず、また、煉瓦造りの倉庫を目指す。
うーん。カーレイルたちは徒歩で帰ってくるだろうから、最低でも10分は暇だ。
あ、そうか。デスペナのチェックしとこう。
メニューを呼び出して、アイテムとか、装備とか、ステータスとかを順番にチェックしていく。
所持金は、呪符を買うために使い切ってもともと0エンだから、これ以上減りようがない。
アイテム欄はどうだろう。見ると、ポーションと木の枝は入っている。
あれ?
ATKアップの薬がない。
使った記憶もないので(そもそも、使ったところで効果がない)、落としてきたのだろう。回収可能なタイプだといいんだけどな。
ドロップ系は、所持金については不明、アイテムはランダムで落とすって感じだな。
俺のプレイスタイルでは結構死ぬことも多いので、デスペナルティの重さは割と死活問題だったりするのだ。
ステータスも、変化なし。虎の子の呪符を消費して上昇した<陰陽道>スキルのレベルも、ちゃんと2のままになっている。よかった。
最後に、装備欄を見る。
なにこれ。
【胴装備】 初心者のシャツ(大穴)
競馬じゃないんだからさ、もうちょっとマシな表現方法あったでしょうに。
説明文を読んでみた。どうやら、敵の攻撃などによって、装備そのものにダメージが入ってしまうと、こんな状態になるらしい。
自分の腹を覗き込むような姿勢になって、服をチェックする。
ほんとだ。先ほど、火球が当たって熱さを感じたあたりの革が、きれいさっぱりなくなって、円形の穴ができている。ダメージジーンズってあるじゃん? あれの膝小僧とかにある穴みたいなやつの、更に大きいやつが、一番下の肋骨の高さにできている。おへそが丸見えだ。
さっきから、なんかお腹が冷たいなあと思っていたら、こんなことになってるなんて。
女性アバターならマニアが喜びそうだけど、男性アバターのこんな姿は需要ないでしょう。
修繕とか、できるのかな?
あ、もしかして、それも<裁縫>みたいなスキルが必要だったりするのか?
というか、お金かかりそうだな。貯まるまで半裸で歩けというのか、運営は?
まあ、そういう話はうさみんに聞けばいいか。
ひとまず、倉庫にぴったりくっついて、通りに背を向けて、パーティのみんなの到着を待つことにした。
いくらアバターとはいえ、お腹を晒しっぱなしなのは、さすがにちょっと恥ずかしいのだ。




