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第十九話 分岐 後編


空間が鳴っていた。

金属でも、大地でもない。

法則そのものが軋む音。


セルケトの雷が網のように展開される。

直線ではなく点でもない、面。

空間そのものを拘束するように雷が張り巡らされていく。


対するは鏡。

ミラの周囲に展開された無数の鏡面が雷を受ける。

反射。一度ではなく二度、三度。

角度を変え、密度を増し、速度を上げながら、雷が増殖していく。

セルケトの瞳が、わずかに細まった。


(……自己増幅)


だが想定内だった。

雷の位相が変わる。反射された雷が別の雷と干渉し、打ち消し合い、あるいはさらに増幅する。

反射すら予測して取り込む、完璧な制御。


ミラが不敵に笑う。


「いいわね。壊し甲斐がある」


鏡がさらに増え、空間そのものが割れるように広がっていく。

戦鎌が振るわれた。その軌道は直接には存在しない。

鏡の中を通り、別の場所から現れた斬撃がセルケトへ迫る。


だが届かない。

届くかと思われた直前で、空間がずれたのだ。


イシスの権能。

指先一つで距離が変質する。

近いはずの刃が遠ざかり、届くはずの攻撃が逸れる。


「そこは通さない」


静かで怜悧な声。

次の瞬間、空間が折り畳まれた。

ミラの周囲の鏡が歪み、位置がずれ、配置が崩れる。

だがそこでオースが前へ出る。


眩いばかりの光が放散していく。

それは祝福。だが同時に、指向性を持つ確定事象だった。

光が直線状に走るが、それは空間に依存しない。

歪もうと、折れようと、必ず到達する。


やがてイシスの空間が貫かれた。

防御を捻じ曲げる上書きの理法によって。

イシスの瞳が、わずかに揺れる。


(……干渉優先度が、上……)


だが空間の理は崩れない。

今一度空間を再構成し、光の通過した経路そのものを切断する。

その断面へ、雷撃が叩き込まれた。


セルケトの一撃がオースへ迫る。

だが直前で光が分裂し、それを複数の鏡が受ける。

反射からの更なる反射による増幅と収束。

そして雷と光が空間内で衝突した。


爆ぜる。


だが、それは単純な爆発ではなく。

本質は現象同士の衝突だった。


音が遅れて届く。続いて空気が押し潰され、地面が抉れる。

戦場の一角が、完全に別の領域へ変わっていた。


そこに立つ四人。

セルケト。

イシス。

ミラ。

オース。


誰も退かない。誰も焦らない。

だが全員が理解していた。この戦いは、誰かが崩れた瞬間に終わると。

ミラが、ゆっくりと首を傾げる。


「ねぇ。どこまで壊れるかしら、この世界」


セルケトは即座に答えた。


「お前たちが壊す前に、止めてみせる」


一歩、踏み出す。

雷が収束し、イシスの空間が固定され、光がさらに強まり、鏡が無限に増える。

四つの理が、完全にぶつかり合う。

戦場の中心で、世界が軋んだ。



戦場は、分かたれていた。


中心では、雷と鏡、空間と光が互いを侵食し合う。

セルケトとミラ。イシスとオース。

そこではもはや、斬撃も矢も意味を持たない。ただ“現象”が衝突している。


外縁では、氷と鉄、流動と剛撃がぶつかり合う。

バステトとベルティス。

流れる刃と、狂う刃。技と意志が拮抗し、どちらも一歩も引かない。

その周囲では盾が砕け、ナイフが舞い、血が散る。


それでも戦線は折れず、まだ保たれている。


別の一角では、雷が面を支配していた。雷陣司ラトラだ。

整然とした陣が戦場を覆う。踏み込めば撃たれ、止まれば囲まれる。逃げ場そのものを削る戦い。

対するは、散らばりながら繋がる者たち。


真理の瞳。冒険者。義勇兵。

統一はない。だが折れない。削られながらも、道をこじ開ける。


戦場のすべてが均衡していた。

崩れてはいない。だが安定でもない。

わずかな偏りで、すべてが傾く。


その均衡の上で、ダークエルフと魔族連合は創世教団から時間を奪い続け、人類はその時間を守り続けようとする。

それこそが、この戦いの本質だった。


そして、この戦場にはいない者たちがいる。

クロア。ラテア。

彼らはここではなく別の場所へ、別の戦いへ、すでに分岐している。


戦いは一つではないように、選択も一つではない。

それぞれが、それぞれの正しさで刃を振るっている。


そのすべては、まだ交わらない。

だが、いずれ交差する。

その時何が残るのか、まだ誰も知らない。


角笛が再び鳴る。低く、長く、戦いの継続を告げる音色。

誰も止まらない。誰も退かない。


分岐は続く。そして、もう戻らない。



今回は諸事情でいつもより短めです。次回もお楽しみに!

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