表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

優秀だったはずの俺へ

この物語は、「できる側」にいた人のためのものです。


任されることが増えた人。

評価されてきた人。

周囲から「優秀だ」と言われてきた人。


きっとあなたは、努力してきたはずです。


誰よりも考えて、

誰よりも責任を背負って、

誰よりも結果を出そうとしてきた。


だからこそ、ある日突然——

たったひとつのミスで、すべてが崩れたとき。


人は、こう思います。


「なんで俺ばっかり」


けれど本当は、

その言葉の奥にあるものこそが、

あなたを次の場所へ連れていく鍵なのかもしれません。

俺の名前は石守成皇いしもり・なりき

株式会社プランというマーケティング会社で働いている。

入社して、もうすぐ五年目になる。


周囲からは「期待のエース」「次期社長」と持ち上げられている。

正直、その評価は嫌いじゃない。

むしろ、誇りに思っている。


「社長、今回、先方に提出する書類です。目を通していただけると幸いです」


「おお、石守。お前は本当に優秀だな。

お前だからこそ任せられる仕事だ。この調子で頼むぞ」


社長は上機嫌だった。

俺の実力を、きちんと見てくれている。


軽やかな足取りで自分の席に戻る。

今日はこのあと、先方とのイメージ打ち合わせ、デザインの進捗報告。

正直、かなり忙しい。


最近ではマネジメントも任されるようになった。

部下の山田と田中は、営業成績が思わしくない。


自分と同じ品質でお客様に向き合ってほしい。

そのレベルに達するまでは、デザインも構築も任せられない。

だから今日も、二人にはテレアポのみをお願いしている。


――それが、俺の正義だった。


あるとき、山田と田中がひそひそと話しているのが耳に入った。


「マーケティング会社ならさ、

俺たちを先に“戦略的に”育てるべきじゃね?」


胸の奥が、ひくりと痛んだ。


成皇は、何も言えなかった。

彼らがお客様にどう向き合うのか、まだ分からない。

だから任せていないだけなのに。


足取りは、さっきまでとは違って重い。

黙って席に戻り、また資料作成とミーティングをこなした。


しばらくして、社長に呼ばれた。

会議室へ向かう。


「どうだ? 新人の田中と山田は。

聞くところによると、あまり成績が上がっていないようだが」


「山田は肝心なところでミスが多くて。

田中はデザインのセンスはありますが、

お客様対応はまだ難しいと判断しています」


「そうか。石守には期待しているからな」


「はい」


自席に戻り、また作業を再開する。

そのとき、一本の電話が鳴った。


「石守さん、取引先のS株式会社からお電話です」


「お電話代わりました。石守です」


『おたくのシステム、どうなってるんですか?

今日、顧客流出が起きて、クレーム対応に追われているんですよ』


なりきは、慌てて画面を確認した。


「確認いたします」


――あった。

コードの表記が、間違っている。


(……全公開、になってる)


背中に冷たい汗が流れた。


(やらかした。終わった)


「大変申し訳ありません。

こちらの不手際です。深くお詫び申し上げます」


『石守くんには世話になったが、

これは会社の損失に関わる。

今後の取引は、なかったものと思ってくれ』


「……承知しました」


受話器が、やけに重い。

胸の奥がざわついて、呼吸が浅くなる。


(社長に、なんて言えばいい?

……クビ、か)


頭の中が、白くなった。

次のことを考えようとしても、何も浮かばない。


立っているはずなのに、床が遠い。

足に力が入っていないことに、あとから気づいた。


――優秀だと思っていたのは、誰だったんだ。



そのとき、もう一本、電話が鳴った。


「お電話ありがとうございます。株式会社プランの石守です」


受話器の向こうから、穏やかな男の声がした。


『……お声が暗いですね。

何かあったのですか?

よければ、僕に話してみませんか』


「お気遣いありがとうございます。大丈夫です」


そう答えると、男は少し間を置いて言った。


『失礼しました。

私、経験買取屋をしております。

黒岩遥生くろいわ・はるきと申します』


『助けを求める声がしたので、お電話しました。

よければ、僕のお店に来てみませんか。

きっと、あなたの心が楽になりますよ』


その言葉を、成皇はなぜか――

“救い”のように感じていた。


気づけば立ち上がり、

無心で、その店の扉を開けていた。


カラン、カラン。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


石守成皇は、特別な人ではありません。


むしろ、どこにでもいる

「ちゃんとやってきた人」です。


評価されること。

任されること。

期待に応え続けること。


それらは決して、間違いではありません。


けれど——

それだけでは、届かない場所があるのも事実です。


人は、壊れたときにしか見えない景色があります。


それは、失ったものではなく、

今まで見ようとしてこなかったものかもしれません。


もしあなたが今、

うまくいかない現実の中で立ち止まっているのなら。


それは終わりではなく、

「持ち方を変えるタイミング」なのだと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ