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第155話 作戦その2

 用意していた服に手早く着替えると、私は急いで両親の寝室へ向かった。もう今日中にこの屋敷を出るのだ。着替えも荷物も何もかも、昨夜の内に脱出用の馬車には詰め込んである。


 現在はヴォルフガング様が屋外で、リリアンナ嬢とシルヴィア嬢が屋内でそれぞれ騒ぎを起こし目を引いている。階の違う両親の寝室や書斎には、恐らく誰も来ないだろう。その予想通り、廊下はがらんとしていて物音ひとつしない。


「まずは、手紙……」


 私はリリアンナ嬢のトランクと自分のトランクを両手で持ち、まずは両親の寝室へ向かった。


 寝室には誰もいない。鍵がかかってはいたが、さすがに鍵の場所など把握しているのでちゃんと持って来てある。寝室に入ると、さっそく私は母のドレッサーを漁った。従順な私相手で油断していたのだろう。母がドレッサーの二重底をどう操作していたかはよく分かっている。

 記憶を頼りにドレッサーをまさぐると、目的通りの手紙を見つけた。他にも何枚かメモ書きなどが入っている。それらを全て、私は手当たり次第にトランクに詰め込んだ。


『手紙や書類の内容を改める時間は無いでしょう』


 そう言ってたくさん荷物を詰められるよう指示してくれたシルヴィア嬢には心底感謝する。

 他にも寝室には本棚の下とベッドの下に隠し棚があったはずだ。それらも全てトランクに詰め込むと、今度は執務室に向かった。トランクは重いが、私の力でもなんとか持ち上がる。これが火事場の馬鹿力と言う奴だろうか。

 執務室にも隠し扉や二重底がある。思いつく限りのそれらを開け、怪しい書類や手紙の束をトランクへ入れた。リリアンナのトランクはパンパンだ。本の間に挟んでいる手紙や書類も、全て自分のトランクへ入れる。本は片っ端からチェックした。戻す時間が無いので部屋が荒れ放題になるが構わない。


『騎士を手配しておきますので、窓からトランクを投げて下さい』


 一通り荷物を詰め終えたところで、私は執務室の窓から顔を出した。執務室は表玄関に面しており、広い庭がよく見える。

 リリアンナ嬢が騒いでいるのは階下の別室。ヴォルフガング様は裏庭の方で騒いでいるので、表玄関側には誰もいない。

 下を見ると、予定通り三人の騎士が立っていた。アレクサンド様が用意してくれた護衛の方達だ。

 軽く手を振ると私に気付いたのか、彼らは布を広げた。その上に私は重いトランクを放り投げる。無事受け取ってもらったのを確認して、もう一つのトランクも投げた。トランクを確認すると、騎士の一人が手で大きく丸を作り私に合図をする。


『トランクが騎士の手に渡ったら、表玄関から脱出を。屋敷が騒ぎに集中している間は、いっそ堂々としていた方が警戒されないでしょう』


 合図を確認して、私は小走りで玄関ホールへ向かった。そういえば鍵を戻していないが、まあこれくらい大丈夫だろう。


 もう二度と帰ることの無い場所だ。

 もう二度と、会うことの無い人達なのだから。


「お嬢様?」


 不意に、声が掛かった。振り返れば一人のメイドが立っている。バケツを持っているところを見るに、掃除の水を替えに来たに違いない。ここはもう騒ぎが起こっている部屋の階の階段。人に会ってもおかしくないが、逃げるのに夢中で気付かなかった。


「どこに行かれるのですか?」






***






 その頃、ヴォルフガングは少し拗ねたような表情をしながらしゃがみ込んでいた。手伝うと言ったのに、辺境伯は頑なにヴォルフガングが馬車に触るのを許さなかったのだ。馬車を元に戻す作業は遅々として進んでいない。


(このまま時間を潰せば、ロミーナ嬢もゆっくり荷物を漁り脱出できる。まあ順調だな)


 手伝わせてくれればいいのにと、わざとらしく拗ねているのは演技だ。それくらいして辺境伯を怒らせ、判断力を失わせた方が効率が良い。

 そうしてなんとか時間潰しをしていると、とある騎士がある事実に気付いてしまった。




「そういえば、お客様の護衛騎士達に手伝ってもらうのはいかがですか?」




 騎士の言葉に、辺境伯はぱっと表情を明るくする。疲れ切った自身の騎士よりも、モンリーズ公爵家の元気な騎士の方が良いに決まっている。


「なんでそのことに気付かなかったんだ? 今すぐ呼んでこい!」


(マズい……! 今騎士達はロミーナ嬢の方にいるはず)


 事態に焦ったヴォルフガングは、慌てて立ち上がった。


「ワシが呼んでこよう。この通り暇を持て余していますからなぁ。それに、彼らを動かすならばモンリーズ令嬢の許可も必要でしょう」


 にこにこと笑いながら提案する。そんな彼を辺境伯は憎々し気に睨みつけていた。

 少しの沈黙が続く。早く返事が欲しいとヴォルフガングが内心焦っていると、辺境伯は大きくため息をついた。


「確かに、人を呼ぶのに人手を割かれるよりも、貴方に行ってもらった方が良さそうだ」


「では、行って参りましょう」


「今度は余計なことをしないで下さいね」


 睨みつけながら釘をさすことも忘れない。辺境伯の迫力に戸惑いつつ、ヴォルフガングは笑顔を保ちながらその場を後にした。

 これでも貴族だった人間だ。決して慣れてはいないが、ポーカーフェイスくらいは作れるのが功を奏した。内心安堵しながら、辺境伯達が見ている間は小走りで行き、角まで来るとゆっくりと歩く。少しでも時間稼ぎをするために。


「とりあえず、まずはモンリーズ令嬢のところだな」


 外でバタバタしていたから、彼女の方がどうなったかは分からない。それを確認するためにも、ヴォルフガングはリリアンナとシヴァのいるはずの部屋へ向かった。

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