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第137話 楽しい学園祭

 ヤコブとの担当を終え、入れ違いでやって来たのはマルグリータとレオナルドだった。二人は手にいくつかの食べ物を持ってきている。


「お疲れ様です、姉上。お腹空いたでしょうから、これどうぞ」


「ありがとう」


「ヘルトル様もこちらを」


「ありがとうございます」


 マルグリータがヤコブに紙の包装に包まれたタコスを手渡す。ライハラ連合国で食べられているんだっけ。お肉や香辛料の良い匂いだ。

 私の方は揚げパンだろうか。見た目はカレーパンのようにも見えるザクザクした触感。二つに割ってみると、中からチーズや細かく刻まれたベーコンが出てきた。


「美味しい!」


「美味しいです」


 会議室に残り、二人から渡された差し入れを食べて笑顔になる私達を、マルグリータとレオナルドは嬉しそうに眺めていた。




 小腹も満たされ、レオナルドとマルグリータに見送られて会議室を出た私は、シヴァと合流してヴォルフガングの下へ向かった。アレクサンドから校門前での待ち合わせと指示されている。

 校門の方は、華やかな装飾が施された校内とは対照的に落ち着いていた。静かな並木道が続いており、しばらく歩くと高い校門が見えてくる。そこには、遠くからでも目立つ大きな体の男が立っていた。


「ヴォルフガング様!」


「おお! モンリーズ嬢。シルヴィアも久しいな!」


 相変わらずのヴォルフガングの大声に、周囲の人が驚いたように振り返る。少し恥ずかしくなるが、気にせず私は軽くお辞儀をした。ヴォルフガングはそれを見て、気にしなくて良いと困ったように笑いながら手を振ってくれる。


「今日は学園祭に来て下さってありがとうございます」


「いやぁ、このような祭りがあるんなら楽しまないとな! 良い土産話になる」


「王城ではどうだったんだ?」


「まあ、ぼちぼちだ。騎士団との稽古も、なかなか楽しいぞ? さすがリヒハイムの騎士団だ。筋が良い」


 顎髭を撫でながら何気なく言っているが、彼は確か圧勝していたはずだ。私とシヴァが呆れたような視線を送るが、そんなことは気にも留めず、ヴォルフガングは面白そうに笑うと私達の背中をバンバン叩く。


「まあ、細かいことは気にするな。それよりも案内を頼む!」


 それもそうだ。ここには学園祭を楽しんでもらうために来たのだから。

 来た道を戻り校舎へとやって来る。その道中、ヴォルフガングに肩を組まれた私達は困惑しつつも歩みを進めた。さすがに私へは遠慮があるのか肩に触れる程度だが、シヴァには完全に寄りかかっているのか、横目で見ると渋い顔をしている。


「何が見たいんだ? それとも、買いたい物でも……」


「まずは食いもんだな!」


 確かに、先程は私だけはマルグリータとレオナルドの気配りで小腹を満たせたが、ヴォルフガングもシヴァも何も食べていない。二人が食べるとしたら、カフェよりも屋台だろうか。そう考え、私は屋台の立ち並ぶ広場へ案内した。

 広場を埋め尽くすように設置された木造の屋台からは、美味しそうな匂いがしていた。香ばしい肉が焼ける匂いに、甘い果実を煮詰める濃厚な香り。串に刺さった豪快な焼き料理から、手の込んだ焼き菓子まで、屋台には様々な食べ物が並んでいた。


「どれがいいですか? 他国の料理もあるみたいです」


「そうだなぁ」


 ヴォルフガングは楽しそうに見て回る。彼の巨体はよく目立ち、テントに頭がついてしまいそうだ。

 キョロキョロと見回した彼が見つけたのは、凄く繁盛しているわけではないが小綺麗にされた店だ。無口そうな店主が淡々と肉や野菜を包丁で刻んでいる。


「焼き1つ」


 慣れた様子でヴォルフガングが声をかけると、店主は小さく頷き刻んでいた野菜や肉をペーストと和えて生地に乗せる。奥にある小さなオーブンに入れると、スパイスの良い香りがしてきた。


「ラフマジュンだ。懐かしくないか?」


「ああ……ここでも食べられるのか」


「うちの郷土料理みたいなもんだ。食べるのは久々だなぁ」


 私に説明しながら、楽しそうにヴォルフガングが笑う。心なしかシヴァも嬉しそうだ。

 出てきたのは薄い生地の具だくさんピザのような物。片手で食べやすいように、くるっと巻かれ厚紙で包まれているが、持つとなかなかに熱い。

 私が困っていると、シヴァが代わりに持ってくれた。彼から差し出されたラフマジュンに齧り付く。レーズンも入っているのか、ほのかな甘みがトマトの酸味とよく合っている。独特なスパイスで、あまり食べたことのない物だ。


「美味しい!」


 私が笑うと、シヴァも微笑んでくれる。


「仲が良いな、お二人さん」


 完全に2人だけの世界にいたが、後ろにいたヴォルフガングに茶々を入れられ、それが崩壊する。気付いたシヴァは勢い良く振り返ると、ヴォルフガングに噛み付いた。


「余計なこと言って邪魔するな!」


「いいじゃないか。お前さんの親代わりだよ、親代わり。可愛い息子に、可愛い彼女さんがいるようなものだ」


「お前が親とか、考えたくない……」


「照れるなって」


「えっ」


 ヴォルフガングとシヴァがじゃれていると、横から小さな声が聞こえた。振り返れば、貴族令嬢の後ろに控えたメイドがこちらを見ており、目が合う。彼女は気まずそうに視線を逸らし、慌てて主人の後を追っていった。

 私達が沈黙する中、店主が再び包丁で肉や野菜を刻む音だけが響く。


「どうするんだよ! あれ絶対変に噂されるぞ」


「シヴァって何気に有名人だものね……」


 こんな美人で仕事ができる優秀なメイドが、目立たないわけがない。今まで1人でいたし、必要以上に周囲と関わらなかったから大した噂になっていないが、そんな彼女の知られざる顔として従者の間で噂になることだろう。


「余計なこと言って、正体バレたらどうしてくれる」


「大丈夫だ。バレないバレない」


 ヴォルフガングの気楽な様子に、シヴァはため息を付いた。一息ついているようだが、大事な単語は聞き逃がせない。私はちょいちょいとシヴァの服の裾を引っ張った。


「シヴァ、可愛い彼女さんだって。シヴァも否定しないのね」


「……っ!」


 耳元で囁くと、シヴァは顔を真っ赤にして視線をそらす。その姿が可愛くて、私は顔がニヤけてしまうのを止められなかった。

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