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第十三話 ゲームの登場人物達

 あれからすぐに、私と第一王子の婚約の話は国中に広まった。モンリーズ家にはお祝いの手紙や贈り物が届き、王家からは婚約発表のためのパーティを開くので主催として同席するようにとの命が下された。元々事前に決まっていたようで、ある程度準備が進められていたからかパーティまでは2週間もなく屋敷は大忙しだった。

 私はマナーレッスンの時間が増え、美容のための心身のケアをする時間まで作られ目が回るほど忙しい。コルセットを着こなすためにと食事制限までされてひもじい思いもしたが、忙しい中シヴァと顔を合わせるだけで胸がいっぱいだった。

 シヴァはと言えば、今後本格的に執事としての執務を覚えるためにパーティに付いていくことになったらしい。そのためルネの後を追いかけて執事としての仕事の流れや、貴族一覧を見て粗相のないような対応の仕方のレクチャーを受けている。

 目の回るような忙しさを乗り越え、ようやく婚約パーティ当日を迎えた。貴族の集まるパーティなのだ。きっとゲームの登場人物達が大勢やって来ていて、その姿を見ることが出来るだろう。そんな楽しみを胸に、私はお父様達が待つ大広間へと足を運んだ。


「今日も綺麗だよ」


「ありがとうございます、お父様」


 いつも通りにお父様は褒めてくれる。その言葉には全面的に私も同意したい。白を基調としたドレスには金糸で花の刺繍が繊細にあしらわれている。ドレスの所々に編み込まれたり、私の首元を彩っているリボンは海のように深い青。首の長いリボンは動きに合わせて揺れ、それは淡い紫色の髪も同様だった。長い髪は高い位置でツインテールにされ同じく青いリボンで結ばれている。そのリボンには白いフリルが付き、同じく白い小花が髪に編み込まれていた。美容のためにと磨き上げられた肌は白くて張りがあり、ドレスの純白さに負けない艶やかさを持っている。

 今回のコーディネイトは王城をイメージした白に、第一王子の色である青と金がふんだんに使われていた。他の男の色ではあるが、今の私が美しいことに変わりはない。


「ねぇシヴァ、似合う?」


 パーティに一緒に行くために大広間に来ていたシヴァに駆け寄り伺うと、彼はすぐに私から視線を逸らした。耳元が赤いので照れているのは一目瞭然。


「まあ……これくらいじゃねぇと、パーティには行けないんじゃねぇの?」


「だよね」


 私も鏡を前にしていてドンドン美しさが増していくのを見るのは楽しかったし、美少女はお得だ。シヴァはルネと同じ黒い燕尾服に身を包んでいた。胸元にはモンリーズ家の家紋が入った薔薇色のハンカチがあり、幼いながら我が家の執事であることをしっかりと証明していた。いつもおろしている前髪はワックスで上げており、端正な顔立ちがよく見える。後ろの髪は同じく薔薇色のリボンで結われているが、落ちないようにいつもよりもしっかりめ。普段と違う凛々しい姿に惚れなおしそうだ。


「シヴァも凄く綺麗だよ」


「そりゃどうも」


 素直な感想を言うと、軽口で返してくれる。


「こら、あまり長話しないで。出発するぞ」


「シルヴィオは私と一緒に後ろの馬車に続きます。旦那様は何かあれば合図を」


「ああ」


 大人二人に諭され、私達は別々の馬車に乗り込む。その寸前、自然と彼と目が合った。微笑んでみせれば、彼も少しだけ微笑み返してくれる。

 うん、元気がチャージされた気がする!

 シヴァとのことも何とかなったしお父様達が付いていてくれてると分かっているからか、以前王城に行った時よりも今日の方が圧倒的に緊張感は少ない。人前に出るのは緊張するが、終わればゲームの登場人物達の幼少期が見られるのだ。楽しみにならないはずがない。馬車に乗りながら、わくわくした気持ちで私は窓の外を眺めていた。




 私達一行は、無事パーティ会場に辿り着くことが出来た。ルネとシヴァは馬車の管理をしたり、何かあった時のために別室に待機しているようだ。お父様に連れられて控室へ進むと、この前会った国王陛下と王妃様、アレクサンドが出迎えてくれた。


「本日は良い日を迎えられたこと、天の神々に感謝いたします」


「よろしくお願い致します」


 お父様が深々とお辞儀をするのに倣い、私も隣でカーテシーを披露する。そんな私達を見て、もっと気楽にしてくれて良いと国王夫妻は笑った。陛下は柔らかな焦げ茶色の髪に黄金色の瞳をしている。普段は国王としての威厳を感じるが笑顔がとても優しそうで、アレクサンドとの血縁を感じる。王妃様はアレクサンドと同じ青い髪に青い瞳の物静かで穏やかそうな方だ。彼の顔立ちは王妃様に似ているだろうか。大人しそうな印象の王妃様の顔立ちと陛下の優しそうな笑顔が合わさってああなっていると考えると納得がいく。


「準備も大変だったでしょう? 綺麗ですよ」


 パーティ会場に向かうためにエスコートしようと私に手を差し出しながら、アレクサンドはそう言った。白を基調とした金糸模様の服と青いタイや宝石から見て、すぐに私とお揃いで用意された服なんだと分かる。外から見れば、私達はお揃いの服を着た可愛らしい婚約者同士に見えることだろう。


「ありがとうございます。アレク様もよくお似合いですよ」


 社交辞令ではなく本心だ。髪と目の色に合った衣装は、彼によく似合う。きっとゲームだったらスチルにでも使われていたはずだ。

 私達は腕を絡め合い、歩みを進めた。いざ、婚約パーティ会場へ!




***




 華やかなパーティ会場で粛々と手続きは済まされていった。陛下からの会場にいる貴族全員への報告。それに合わせた私とアレクサンドの登場に沸き立つ会場。次期国王夫妻である私達には、身分の高い人から順にお祝いの言葉をかけるための列が設けられた。それを笑顔で相手し続けるのが婚約者となった私の初仕事。


「お祝い申し上げます」


 そう最初に挨拶に来たのは、陛下の側室。ゲームの攻略対象その2である、第二王子の生みの親だ。

 意志の強そうなアップルグリーンの瞳と真っ直ぐ伸びたストレートヘアが特徴的な美人さん。その後ろには例の攻略対象である第二王子が控えていた。

 レオナルド・リヒハイム。リリアンナと同い年になる男の子だ。陛下似の焦げ茶色の髪は母親に似た真っ直ぐなストレート。それを顎のあたりで真っすぐ切りそろえられており、子供らしく可愛らしい顔立ちをしていた。その瞳は母によく似た意志の強いアップルグリーン。

 挨拶の最中にこにこと笑ってはいるが、ゲームの設定を知っている私からすると侮ることが出来ずなかなかに恐ろしい。彼のルートは一回しか周回したことがないが、とんでもない女たらしの遊び人なのだ。ヒロインに好意を寄せその本心を暴かれてからは彼女一筋になるのだが、それまではとにかく遊びまくる。あまり近寄りたくない人物だ。


 その次に知っている顔を見つけたのは、サンスリード公爵家からの挨拶の時。そこの三男が攻略対象その4、ステファン・サンスリードだ。父に息子三人が連れられてきており、その一番後ろに続く彼とは言葉は交わさないものの姿だけは確認できた。

 由緒正しい騎士団長の息子である彼も、後に兄達を追い越すような優秀な騎士へと成長を遂げる。綺麗な黒髪に朱色の瞳。他の兄弟とは違った容姿に異質さを感じるが、その表情と瞳はどこか虚空を見ているようで大人しい印象を受ける。まあ、眠っている獅子なだけですが。


 最後に見かけたのはナンニーニ侯爵家の次女、イザベラ・ナンニーニ。彼女は、ゲームでは誰にでも分かりやすい悪役令嬢だった。高飛車な言動で常にあらゆることに対し文句を言っており、周囲から嫌われている。リリアンナ率いる令嬢グループとはいつも一人で対立し、ヒロインに対する当たりもなかなかに強い物だった。だが、ただのおじゃま虫と思わせてそのステータスは軒並み平均以上で、彼女を超えるステータスを出せるか出せないかで攻略ルートが変わるという結構大切な役回りの子なのだ。

 蜂蜜色の柔らかく長い髪を一本のおさげにして垂らした幼い姿はなかなかに可愛らしい。彼女は杜若色の釣り目でキョロキョロ辺りを見渡していたが、壇上のアレクサンドを見て顔を真っ赤にしていた。

 おやおや? あれだけリリアンナにつっかかっていたのは、アレクサンドが好きだったからだと考えると本当に可愛く思えてくるのだから不思議だ。


 そうこうして一通りの挨拶が終わったが、結局他の攻略対象やその婚約者を目にすることは出来なかった。大概まだ幼かったり、表に出るのを嫌がったり、病弱キャラだったりするのがその原因だろう。それでも三人も見れただけで儲けものだ。さすがゲームの登場キャラ、揃いも揃って美形ばかり。女性の中ではその筆頭がリリアンナなのだから、私が言えたことではないが。


 【英雄の学園と鎮魂の歌】の攻略対象は4人。

 一人目が私の婚約者である第一王子、アレクサンド・リヒハイム。

 二人目は第二王子であるレオナルド・リヒハイム。

 三人目は魔法の天才なのだが、今日は不在。

 四人目は騎士のステファン・サンスリード。


 ほとんどのキャラクターがリアルで見られて少し満足する。これだけでここに来た甲斐があったというものだ。


「お手をどうぞ」


 挨拶は終わりダンスに混ざることになると、アレクサンドが私に手を差し出す。沢山練習はしたが、正直そこまで自信はない。それでもまさか断るわけにはいかず、私は彼の手を取った。大勢の人に見られながらのダンスは緊張し、アレクサンドの足を二回ほど踏んでしまった。そのたびに小声で謝り許してもらったことは、お父様には内緒にしておこう。

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