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女装メイドと婚約破棄された悪役令嬢は、幸せな結末を目指します  作者: 水無瀬ちよ
第一章

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第12話 性質とは

 気を取り直して本探しを行おう。

 とはいえ、若干飽きてきてしまったし、魔法なんていう興味を引かれるものを見つけてしまったのだ。とりあえず一冊くらい魔法についての本を読破してみたい。そう思い、先程の子供向けの本を読んでくれと私はシヴァにせがんだ。嫌そうにすることもなく、彼は本を読んでくれる。

 書庫の中央にあるソファで二人寄り添って本を読んだ。この世界の魔法について、なんとなく理解出来てきた頃。それは、最後の章に書いてあった。


「魔法に才能を持つ人物を見分ける方法として、性質というものが上げられる。まだ魔力の制御が出来ない子供は、特殊な性質を有することがある。例えば【魅了】では異性を虜にしてしまい、周囲からの執着により生活が困難になる事例が報告され」


「まって」


 今、すごく大事なことを聞いた気がする。まさか探していたことが、こんな子供向けの本に書かれていたなんて。もう一度読んでもらって確認するが、間違いない。きっとこの性質というものは、リリアンナを男性嫌悪に陥れた元凶だ。

 【魅了】はゲームや漫画で似たような物が出てきた記憶があるので、なんとなく理解出来る。異性を惹き付けてしまう魔性みたいな物だったはず。それならば、あの男の不自然な発情も理性のきかない様子にも説明がつく。そして、リリアンナの男性嫌悪も。常に周囲の男性を発情させまくっていて、それが無自覚ならば理由が分からず嫌にもなるだろう。だから屋敷内には女性しかいないのか、と納得する。

 私が考え込んで黙っていると、シヴァは静かに本を閉じた。


「休むか? 疲れただろ」


「……うん」


 言われるがままにソファに寝転ぶ。それを見ると、シヴァは上着を脱いで優しく体にかけてくれた。ソファ横の床に座り込むと、彼は私のお腹を心地好いリズムでぽんぽんと叩く。彼の横顔を眺めてからそっと目を閉じながらも、私の頭は働いていた。


 彼と一緒にいたい。

 結婚なんて出来なくても良いから。

 彼を不幸にせずに、ずっと一緒にいられればいい。


 そのために何をしたら良いんだろう。とりあえず、今後第一王子との婚約があるのは分かっている。もし婚約から結婚なんてことになったら、きっとシヴァと離れ離れになってしまう。

 シヴァはモンリーズ家の執事であって、私の執事じゃない。ゲームや漫画でも、結婚の時は誰も連れずに身一つで嫁いでいた。

 婚約は絶対に断ろう。第一王子と結婚しない場合、他の誰とも結婚しないでいるにはこの家を継ぐしかない。女性が家督を継げるのかは分からないけど、それが一番良い。そのままシヴァと一緒にこの家で暮らして独身生活を謳歌してやる。

 逆に結婚相手にモンリーズ家に入ってもらうことも考えたけど、シヴァの前で別の男性といるなんて絶対に嫌だ。その男性だって【魅了】で私に惹かれているだけかもしれないのに。一通り脳内で今後の目標を定め、ふと思い出す。


 どうしてお父様とシヴァは私の【魅了】にかかっていないのだろう。






***






 次の日、シヴァは丁寧に教えてくれた。【魅了】のような性質を持ってしまうのは、魔力の保有量が多い人間に起こりやすい現象だ。

 魔力とは体内に流れている目に見えないエネルギーで、これが無くなると生き物は死んでしまう。魔力の保有量が多い人間は、血液がドロドロになると血管が詰まってしまうように、魔力の流れが体のどこかで停滞してしまうらしい。この停滞した箇所によって、性質は変わる。

 元々【魅了】は誰しも持っていて、好きな相手に自分を好きになって欲しくて放つフェロモンのような物なのだとか。

 通常は微かに放たれるだけのそれが、そこにたくさんの魔力が停滞することで強烈な影響力を持ち生活に支障をきたしてしまう。それが性質と呼ばれる物。

 この性質は子供の時だけで、ちゃんと魔力を循環させる訓練をすれば徐々に消えていくものらしい。だが、あまりにも幼い内に訓練を始めてしまうと子供の理解と魔力の操作が追い付かずに事故が発生する。それを避けるために魔力操作の訓練は、基本的には7歳以上と決まっているのだとか。平民も7歳以上から魔力操作の方法を教わるらしい。


 ここまで説明されて、ようやく事態が呑み込めてきた。リリアンナは平民よりも魔力の保有量が多い貴族の中で、さらに強い魔力を持っている。道理で強かったはずだ。

 ゲーム内で主人公のパラメーターを上げる際、定期的に試験が行われる。その時に学年順位が発表されるのだが、魔力に関してはリリアンナと攻略対象の一人がトップを独占していたのだ。この二人を抜いて魔法の成績をトップにするには、他の成績を諦めざるをえないくらいだった。生まれながらに強い魔力があることが分かっていたリリアンナなのだ。そりゃ勝ち目がない。

 色々と納得しつつ、目下必要なのは魔力操作が出来ることだと判断する。あんな目に会い続けたら、身体がいくつあっても足りないもの。




「おとうさま」


 シヴァの説明を聞いて、さっそく私はお父様にお願いすることにした。もちろん、通常より2年早く魔法の教育をさせてもらえるように。執務室の扉を開けて、隙間からひょっこりと顔を出す。声を掛けると、お父様は仕事の時の険しい顔を緩めて微笑んだ。


「リリー」


「お嬢様、どうなさいましたか? シルヴィオは?」


 傍で仕事の補佐をしていたルネが、こちらまで来て扉を開けてくれた。私の後ろから一緒に出てきたシヴァを見た彼女は、キッと眉を吊り上げる。


「お嬢様が手を挟んだらどうするの! 扉を開けて差し上げなさい」


「自分でやりたいって言うんだから、しょうがないだろ。挟みそうになったらすぐに動く」


「またそんな屁理屈を……」


「外ではちゃんとするからさ、ルネさん」


 あれからシヴァとルネは緊張が解けて仲良くなっていた。勉強の時や執事としての仕事の補佐をしている時以外、シヴァは彼女にも敬語を使わずフランクに話す。

 彼女はそれに対して怒らないし、何だかんだ優しくフォローに回ってくれるようになった。二人の関係は、明らかに良くなっている。それが凄く嬉しい。


「どうしたんだ? リリー」


 そんな二人のやり取りを尻目に、私はお父様の元へと駆け寄る。


「おとうさま、わたし」


 駆け寄った私のことを抱き留め、お父様は頭を撫でてくれた。そのままの勢いで、しっかりと目を合わせて私は宣言する。




「わたし、まほうがつかえるようになりたい!」




 その言葉に、お父様は目を見開いた。どこで魔法について知ったのかはそうだし、まだ扱える年齢に達していないからと娘の頼みを断らなければならないこと。だがそれ以上に、【魅了】を抑えるためには早めに魔力制御を習わせた方が良いこと。様々なことが頭を巡ったのか、彼はしばらく呆然として何も言わなかった。

 後押しするためにお願い、という意味合いを込めて上目遣いで精一杯可愛い子ぶってみる。


「お嬢様、魔法なんてどこで……シヴァ?」


 ルネがシヴァを睨むと、素知らぬ顔でシヴァは目を逸らす。悩みすぎて天を仰ぎ始めたお父様と、思わずため息をついたルネの視線が交わった。

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