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エピローグ

僕が旧原宿駅のホームにあるベンチに座って思案にくれていると、ミィ達が飛んでくるのが見えたので手を降って答えた。


「どうじゃ?赤子はどうなった?」


その質問に僕はうまく答えることができず、首を横に振った。


「救うことができなんだのか?」


「まだダンジョンコアの中にいる時にいろいろ試してみたんだよ。能力の発現を邪魔するような魔導具を試したり、昔に手に入れた出入りする全てのスキルや魔法を無効にする神具を使ってみたり、思いつくことは全部やってみた。」


その言葉にメギドが眉を(ひそ)めながら応じた。


「そうか、それでどうしたのかの?」


助け出したことは全く疑わない口調に僕は観念して正直に答えた。


「効果がないのは、彼女に近づくにつれてどんなものであっても確実に時間が停止するからと推察して、ダンジョンコアごと僕の結界で、それこそ何百重にも結界を重ねて現実世界から隔離して、そのまま空間庫に収納することしかできなかった。僕には彼女を救うことができなかったんだ。」


尻すぼみになっていく僕の口調を心配したのか、ミィが言葉を重ねた。


「…レンが悪いわけじゃない。それが力を持ちすぎて生まれた自然神の宿命でもある。己が成長するしか救いようがないのじゃが、赤子は自分の成長までも止めておる。今の儂らでは救いようがないの。」


「だったら、我らも成長すれば良いのじゃ。そして力を得た時に赤子を解放してあげれば良いのじゃ。」


僕を心配する二人の気持ちが痛いほど判り、何とか笑顔を浮かべることができたのと、品川の方向に新たなダンジョンが出現するのを感知したのはほぼ同時だった。即座に僕達は名前を改めた品川埠頭にある真日本国防衛軍基地へと転移した。


ーーーー

「おっ、どうしたんだ?そんなに血相を変えて何かあったのか?いや、それよりレンが血相を変えることがあった事にビックリだよ。」


などと言う近藤を無視して、僕は彼の隣に居た土方に話しかけた。


「ヤバい!品川に新たに特級ダンジョンが誕生した。」


「な、何だと!しかし、そのようなアナウンスは無かったし、この辺りの状況には何の変化もないぞ。」


彼女の言葉に耳を傾けながらも、僕はその気配を漂わせる方向へと目を向けた。そこにはかつて僕が暮らしていたマンションが建っていた。


そんな時に部屋の扉がノックされた。


「土方さん、運河向かいのマンションへ侵入しようとした家族を保護しました。どうしましょうか?」


斎藤のその言葉に僕が振り返ると、沖田にお姫様抱っこされて嬉しそうな中高年の女性と、斎藤の両手を塞いでいる五歳くらいのエルフのような男の子と女の子が目に入った。


そして、その中高年の女性は僕を見た瞬間に、その目をカッと大きく見開き、その瞳から涙をドッと溢れ出させたかと思うと、沖田の抱っこから飛び降りるように抜け出して僕にすがった。


(さとし)(さとし)!なの!」


その顔をじっと見ていると、微かに見覚えのある顔と通じるものがあった。


「もしかしてのもしかしてだけど、かすみ?」


「そうだよ!かすみだよ!あんたの妹のお兄ちゃん大好きっ子のかすみだよ…生きてた、やっぱり生きてたんだ…」


感動的な場面のはずなんだけど、もう明らかに六十歳を超えて、皺が目立ってきているお婆ちゃんと呼んでも差し支えない人に抱きつかれても、あまり感動しないもんなんだなと冷静に考える僕がいた。


そして斎藤に手を繋がれている甥と姪に目を向けると、自分の母親がまだ少年と思えるような姿の僕に抱きついて、お兄ちゃん呼びを連呼していることに茫然とした表情をしていた。


「始めまして、今はレンと名乗っていますが、かすみの兄で、あなた達の叔父さんの(さとし)と言います。これからもよろしくね。」


と僕が挨拶をすると、二人は斎藤から手を離して、両手を揃えてキチンとお辞儀して挨拶を返した。


「姉の武蔵(ムサシ)と言います。よろしくお願いします。」


「弟の小次郎(コジロー)です。こちらこそよろしくお願いします。お恥ずかしい話ですが、今年で四十となります。こんな姿で申し訳ありません。」


年齢を誤魔化しているのが恥ずかしかったのか、弟が詫びるの一瞬止めようとした姉だったが、諦めてもう一度頭を下げていた。その年齢の公表に驚いたのは部屋にいる真日本国の面々だけだった。


「ハイエルフだもんね。見た目がなかなか成長しないのは仕方ないよ。大体二十歳くらいの見た目になるのに千年は掛かるからね。見た目の成長は諦めなよ。」


僕のその言葉に、二人は驚きの表情を見せた。


「私達はエルフじゃないんですか?」


僕はしがみついて離さないかすみを無視して話しを進めた。


「そうだね。エルフの上位種になるね。エルフの場合は個体差はあるけど五十年ほどで二十歳くらいの見た目になるけど、寿命は長く生きて七百歳くらいかな。ハイエルフはその十倍は生きるよ。」


「…七千年…」


茫然としているムサシに、横からミィが口を挟んだ。


「何呆けた顔しとるんじゃ、儂などこの見かけじゃが、既に億を超えて生きておるぞ。一万年なんてあっという間じゃ。」


「そうそう、我でさえ既に千万年はオーバーしとる。それにレンだって、五千年超えてるじゃろ。」


ミィとメギドの言葉に、僕は苦笑いを浮かべて言葉を続けた。


「そうだよ。普通の人間だってダンジョンとかで力をつけていくと、魔素や神素を取り込んで若返っていくんだから、僕だって一時は六十歳くらいの爺になったけど、それから更に修行を重ねていったら、結局はこの見た目になったからね。四千年くらい前からはずっとこの姿のままだよ。」


その僕の言葉に表情の変わった人が二人いた。一人は僕にしがみついたままのかすみ。もう一人は意外なことに土方さんだった。


「「その話、詳しく!」」


そんなこんなでゴタゴタし続け、新たなダンジョンの話は有耶無耶になり、あっという間に日は落ちて周りが暗くなってきた時に、かすみの声が響いた。


「あれぇ、あそこって(りん)ちゃんと溟くんの部屋じゃない?明かりついてるよ。」


かすみの指の先には、かつて何度も見た忘れるはずのない憧れの君の部屋があった。その部屋に明かりが灯っている。それだけでほんのりと胸が温かくなったが、かすみの次の言葉で背筋が凍りついた。


「でもあの部屋、お母さんのお葬式の後で、交通事故に巻き込まれて一家全員亡くなってからは、誰も住んでないんじゃないかな?」


特級ダンジョンの気配は間違いなくそこにあった。


何とかエピローグ間に合わせることができました。頑張りました∠(`・ω・´)

これにて第一部完結です。当然、第二部からは新たな帰還者が登場します。ぜひお楽しみにして頂けると幸いです。

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