20話「震える久里亜(クリア)」
昨夜の出来事と今後について話し合うDDSメンバーですが…。
結局、久里亜が部屋に戻ったのは明け方だった。
早起きした用務員がたまたま寮に戻る彼女の姿を見かけたのだ。
「久里亜さんどうしたの?」
用務員が声をかけたが久里亜は虚ろな表情で部屋へ戻っていった。
そしてベッドの上で気が付く。
「あれ?何でスーツ姿のまま寝てたのかな…?」
…。
「みんな心配したんですよ?」
剣護は久里亜が何事も無く戻って来た事に安堵した。
昨日最後に彼女を見た自分に責任を感じていたようだ。
学園が始まるまでの短い時間、彼等DDSメンバーは用務員室に集まった。
銃吾の先輩用務員がDDSメンバーである事は連絡時に皆に周知されていた。
「ゴメンみんな…学園長に会いに行ったところまでは覚えてるんたけど…」
「その間の記憶が無いんですか?」
早理華に聞かれてコクンと頷く久里亜。
「怪しいな〜、学園長に何かされたんじゃねえの?」
「コラッ、銃吾君!」
パシッと先輩用務員に頭を叩かれた銃吾。
「………。」
一方で聖姫は難しい顔をしていた。
「どうしたんだ聖姫?何か気になる事でも…」
剣吾に聞かれた途端、聖姫は顔を真っ赤にした。
「な、何も、無い!…よ?」
キョドる聖姫が気になる剣護は真剣な表情で聖姫に詰め寄る。
「なあ、昨晩は久里亜さんに不可解な事が起きたばかりだ、少しでも思い当たる事があるなら話しておいてくれ。」
「そうだね、今は少しでも情報を集めた方が良いし、向こうの出方に警戒しないと。」
先輩用務員に諭され、オズオズと聖姫は口を開いた。
時折チラチラと早理華を見ながら。
「実は、昨晩…早理華と一緒に久里亜さんの事で早理華の部屋で話し合ったんだ。」
「そこで、詳しくは言えないんだけど、少し変な雰囲気になって、それで…」
「あ、あの時の事ですか?」
「ああ…それから場所をワタシの部屋にうつしたんだけど、結局そこでも同じ事が起きて…」
「…聖姫さんが部屋から私を追い出したんですよね…」
「一体何があったんだ?」
「怪奇現象とか?」
周りから追求されるや、二人は気不味そう二互いを見た。
「そ、そこはちょ〜っと言えないというか、言いたく無いと、申しますか…。」
早理華の声が先細りで小さくなる。
早理華と聖姫の二人はチラチラと互いを見ては赤面していた。
ボソボソ…。
(な、なあ、あの二人何かあったのかな?)
(も、もしかして早理華ちゃんと聖姫ちゃんって…?)
(そ、そうだったのか?)
(ま…まあそういう事もあるよ!…極稀だろうけど…)
「ちょ、ちょっとみんな…何か勘違いしてない?」
「そそそ、…そ、そーですよー?!」
慌てて皆の話題通りである事を否定する二人だが明らかに思いきり動揺していた。
「ま…それはともかく」
「これからはなるべく何人かで纏まって行動した方が良さそうだ。」
頷く面々。
「久里亜さんも学園長からの呼び出しへは俺を同行させるようにしてくれ。」
「え、ええ…そうね。」
久里亜が剣護の言葉に安堵する。
が、どこかしら憂いも含んでいるようにも感じられる彼女の笑顔に心配する面々でもあった。
解散後。
「どう思います?」
「久里亜さんの事かい?」
「それも、ありますけど…」
早理華は自分から剣護に話しを振っておきながら歯切れの悪い言葉を返した。
「あの俺らの先輩に当たる用務員さん、先行して任務に就いてたそうだからこの学園については俺らより詳しい情報を持ってるかもしれないぞ?」
「たまには良い事言うんだな、銃吾!」
「たまには、は余計だ!」
「じゃ、銃吾はその先輩用務員さんから色々聞き出しといてよ、いいね?」
「で、あとは早理華と聖姫だけど…」
「オマエら、昨日何かあったのか?」
「「な、何にもないよっ!!」」
早理華と聖姫の否定は思い切りハモって聞こえるのだった。
…………。
久里亜は個室に籠もり、胸を押さえた。
ハァハァ。
(大丈夫、本当に何も無かったんだから…)
(本当に…。)
その時、彼女の頭にある光景がフラッシュバックした。
………それはこうだ。
『フフフ…』
学園長の顔がアップになる。
次に、彼の手が。
そして場面が代わり、目に映ったのは天井の灯り。
どうやら寝かされているらしい。
何人かのシスターや神父姿の人々が取り囲むように彼女を見下ろしている。
………。
(な、何コレ?)
(何処にも身体の異常は、無かったわよね…?)
久里亜は身体の感覚が信じられなくなりそうになり、自分の身体を抱くように両腕でお腹を抱いた。
(やだ…助けて…)
(剣護君…聖姫ちゃん…早理華ちゃん…。)
ほんの数分間ではあるが、久里亜は言いしれぬ不安に襲われ、一人トイレの個室でガタガタ震えるのだった。
果たして久里亜は本当に無事だったのか?
そして早理華と聖姫の間に起きた事との関係は?