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VSトロール!

「順調っ! 順調すぎるわねっ!」


とても元気がいい感じでコルネットさんが歩いている。

今のところはずっと真っ直ぐな道。

迷わなくて助かっていた。


「まだギールしか出てきてませんから、油断は禁物かもです」


周りを警戒しながら歩いているのはクイーカさん。


「トロールは遅いとはいえ、不意打ちは怖いですし……」


「アタシは大丈夫だわっ! 今ならどんな魔物も倒せる気分だしねっ!」


言いながら楽しそうに笑うコルネットさん。


「そんなに油断してると……」


クイーカさんがコルネットさんに言おうとした瞬間、


「きなこっ! クイーカっ!」


急に振り返ってコルネットさんが叫んだ。


「しゃがんでっ!」


コルネットさんの手が赤く光っている。

攻撃準備!

ぼくとクイーカさんは急いでしゃがんだ。


「ファイアバードっ!」


手から勢い良く小さな火の鳥が出てくる。

飛んでいく方を見ると8匹のギールが飛んできていた。

コルネットさんのファイアバードはあっという間にギールを全滅させる。

全然気が付かなかった……。


「誰か油断してるのかしら?」


うふふふふふふふ。

というわざとらしい笑い声。


「……ごめんなさい」


「素直に謝られたら逆に困るわっ!」


「謝ったのに怒られましたっ!」


とても楽しい道中だった。

思わずぼくも笑ってしまいぐらいに。


「あそこに分かれ道が……」


ありますね。

ぼくが言おうとした。

すると軽く地面が揺れた。


「地震?」


ぼくの言葉にクイーカさんが首を振る。


「トロールですね」


クイーカさんが身構え、コルネットさんの手が燃えた、


「ここからがダンジョンの本番って感じだわっ!」


曲がり角からぬっとした感じで大きな魔物が現れた。

2足歩行だけれど明らかに人とは違う

高さは人の1.5倍ぐらい、横には2倍ぐらい大きい。

見るからにぶよっとした肉に覆われていて色は地面と同じ。

上半身は何も着てなくて下だけ汚れた布を巻いている。


「大丈夫ですか?」


クイーカさんがぼくに言う。


「顔が真っ青ですけど……」


「だっ大丈夫です……」


自分の声が震えているのが分かった。

今まで見た魔物はスライムとギーク。

どちらも襲ってくるとはいえ悪くて怪我をするぐらい。

でもこちらにゆっくりと向かってきているトロールは違った。

あの太い腕で殴られたらぼくは一撃で死んでしまうと思う。

防御力が1のぼくはトロールからしたら紙同然。

ぼくはここに来て初めて死のイメージを見た。

逃げれば大丈夫。

そう考えていた自分が甘かったと思った。


「大丈夫ですよ」


そんなぼくにクイーカさんがにこりと微笑む。


「わたしとコルネットさんがついていますので」


「ありがとうございます……」


「いくわよっ!」


コルネットさんが叫ぶ。


「援護よろしく頼むわっ!」


「戦うあなたに守りの加護を!」


クイーカさんの手から光が飛んでコルネットさんにぶつかる。


「打撃防御力アップの呪文ねっ! とろくさいトロールの攻撃は当たらないけど、お礼は言っておくわっ!」


コルネットさんが走り出すのとトロールが走り出すのは同時だった。


「ファイアバード!」


再びファイアバードがコルネットさんの手から飛び出す。

ギール10匹を1匹で全滅させたファイアバード。

トロールのお腹に直撃したけれども少し怯んだぐらいだった。


「流石に丈夫そうねっ!」


でもコルネットさんは笑っていた。

とても楽しそうに。


トロールはコルネットさんのすぐそばまで来ていた。

拳を振り上げ、コルネットさんめがけて……


「遅いわっ!」


コルネットさんは右手を上げる。


「コルネットさんっ!」


危ないって思った。

ぼくだったら死んでいたかもしれない一撃。

でもトロールの一撃が右手に当たっても……


「クイーカの補助呪文もなかなかやるじゃないっ! 全然痛くないわっ!」


何ともなさそうにコルネットさんは言う。


「ちょっ! 今わざと攻撃を受けましたねっ!」


クイーカさんの驚きの声。


「トロールごときの攻撃でどうにかなるアタシじゃないわよっ!」


コルネットさんは右手でトロールの攻撃を受けたまま


「吹っ飛びなさいっ!」


左手でお腹を殴った。

呻き声をあげながら吹っ飛んでいくトロール。

どすん。という大きな音がした。


「すっすごい……」


ぼくは思わずつぶやく。

細身のコルネットさんがあんなに大きな怪物をふっとばすなんてぼくの世界ではありえなかった。

これがステータスの力なんだと思った。

ぼくにはない力……。


「ファイアバード連発でも倒せそうだけどさっさと片付けるわっ!」


コルネットさんの右手の炎がさらに大きくなる。


「フレイムバードっ!」


ファイアバードより大きな火の鳥だった。

ファイアバードはよく見ると鳥だと分かったけれど、フレムバードははっきりと鳥だと分かる。


「いきなさいっ!」


フレイムバードが倒れ込んでいるトロールを襲う。

フレイムバードがぶつかった瞬間、トロールは火だるまになった。

うめき声をあげ、転げ回る。

そしてほんの数秒で動きは止まった。

でも炎はまだめらめらと燃えていた。


「まぁまぁな炎だったかしらね」


ふっと息をふきかけ手の炎消す。

戦闘が終わったみたいだ。


「ほらっ!」


振り返ってにこりと微笑む。


「トロールなんて楽勝でしょ!」


「でもわざと攻撃を受けるのはやりすぎですっ!」


「クイーカの補助呪文を試したかったのよ」


「やっぱり油断しまくりだと思いますっ!」


2人は楽しそうに会話している。

でもぼくはそんな風に会話できる気分ではなかった。


「大丈夫ですか?」


「きなこ、顔色が悪いわよ」


それが様子に出ていたのか2人が心配そうに言ってくれた。


「大丈夫です。その初めてトロールを見たから驚いちゃって……」


でもこんなんじゃ冒険ができないっ!

2人がなんともないトロールに怖がっていちゃ駄目だと思った。


「たぶん、もうすぐミッピンきのこがある場所だから急ぎましょうっ!」


「きなこさん……」


「きなこが大丈夫って言ってるから行くわよっ!」


ぼくとコルネットさんが歩き出すのはほぼ同時だった。

そして……


「あっ! まっ待ってくださいよぉ!」


ぱたぱたとした足取りでクイーカさんが歩き出した。

そしてしばらく歩いたところで……


「分かれ道ですね……」


ぼくたちは立ち止まった。

どっちかは正解。どっちかははずれ。

そんな感じがした。


「2人はどっちが正解だと思います?」


すると


「こっちだと思いますっ!」


「こっちに決まってるわっ!」


クイーカさんが左を、コルネットさんが右を指差す。


「なんで左なのよっ! ありなえないわっ!」


「なんだか右って嫌な感じがするから嫌ですっ!」


「アタシはこういう時は左じゃないとなんか気持ち悪いのよっ!」


「きなこさんはどっちがいいですかっ!」「きなこはどっちを選ぶのっ!」


2人同時に言われた。

顔を2人ともすごく近くまで近づける。


「ちょっ……ちっ近いです……」


特にコルネットさんはほとんど下着みたいな格好をしている。

それに抱きつかれた感触がまだ残っていた。

その気恥ずかしさもあってぼくは思わずクイーカさんを見る。

するとそれを自分を選んだと思ったみたいだった


「ほらっ! きなこさんもこっちがいいって言ってますよっ! 言ってますよっ! 言ってますよっ!」


嬉しそうにぴょんぴょうんと飛び跳ねるクイーカさん。

目の前でクイーカさんの大きな胸が……


「付き合いが長いだけ情があるってわけねっ!」


とても不機嫌そうなコルネットさん。

ふんっ。という感じで腕を組んで横を向く。


「だいたいいつも思ってたけどっ!」


そしてコルネットさんがびしっとクイーカさんを指差す。


「どっどうかしたんですかっ!」


「興奮すると同じ言葉連呼するのとっても馬鹿っぽいと思うわっ!」


「いっ今言うことですかっ!」


ぼくも気になっていたけれど、言えなかったことをずばりと言ってくれた。


「こっ今度から気をつけます……」


クイーカさんはしゅんとした感じで歩きだす。

ちゃんと自分が行きたいと言っていた左の方へ歩いて行く。


「こっちの方から臭うんだけどな……」


ぼそりとつぶたいてコルネットさんが続いた。

そしてぼくも追いかける。


「…………」


「…………」


「…………」


「たくさんいますね」


ぼくは言った。


「たくさんいますねぇ」


クイーカさんも言った。


「なるほどだわっ!」


コルネットさんが納得するように言った。

ぼくたちがたどり着いた場所には4匹のトロールがいた。

おまけにきのこはどこにもない。

明らかに外れだった。

トロールたちは興奮した感じでこちらを取り囲んでいく。


「ちなみに何がなるほどなんですか?」


ぼくがたずねるとコルネットさんは嬉しそうに言った。


「右の方から魔物の臭がしてたのよ」


「それを最初に言ってくださいよぉ!」


本当にそうだと思った。


「魔物がいる方が当たりかもしれないとも思ったのよね」


自分の直感を信じるべきだったわ。

とつぶやくコルネットさん。


「とりあえず戦うしかないわっ!」


「そうですっ! きなこさんはわたしの後ろにいてくださいっ!」


4匹のトロールが同時に動いた。


「フレイムバードっ!」


全開っ!

そういった感じでコルネットさんがフレイムバードを放った。

一番近くにいたトロールに直撃する。


「あと3匹っ!」


「えっと! 戦うあなたに守りの加護を!」


ぼくは鞄の中をあさる。

動かなくちゃ!

とぼくは少し焦り気味だった。

目潰しの薬を探すけれどもなかなか見つからない。


「今度はわざと攻撃を受けないでくださいねっ!」


「分かってるわっ!」


言いながらコルネットさんは華麗に攻撃を避けていく。

そしてすきを突いて


「ファイアバードっ!」


3匹のトロールに攻撃してこちらに近づけないようにしてくれていた。

時折、こちらに攻撃してくるトロールも


「聖なる盾よわたしを守って!」


トロールとクイーカさんの間に光の壁が発生し、攻撃を防いでいた。


「あった!」


ぼくはやっと目当てのものを手に取った。


「やぁぁぁぁ!」


ぼくは思いっきりびんをトロールにめがけて投げつける。

中はすごく痛くなる液体。

ちょうど顔にあたってトロールは苦しんだ。


「なかなかやるじゃないっ! ピンポイントっ! ファイアバードっ!」


ファイアバードが目に当たったトロールはくるしそうに雄叫びをあげ、倒れた。


「あと2匹っ! 余裕でいけそうだわっ!」


「そんなふうに言ってるとなんか嫌な予感しかしませんっ!」


「大丈夫だわっ!」


がらり。という音が聞こえた。

コルネットさんの後ろの壁が崩れた気がした。

コルネットさんは気にせずに戦っている。

もしかしたら気づいていないのかもしれない。

なんだか本当に嫌な予感……。


「あの後ろの壁……」


「どうかしましたか?」


クイーカさんも気づいていないみたいだ。

ぼくはクイーカさんに伝えようとした。

でもその前にがらりと壁が崩れた。

そこから1匹のトロールが姿を表した。

でもコルネットさんは戦うのに夢中で気づいていない。


「コルネットさんっ!」


体が勝手に動いた。

トロールが拳を振り上げる。

でもコルネットさんは気づいていない。


「きなこさんっ! 危ないですっ!」


クイーカさんの声が聞こえた。

でも止まるわけにはいかなかった。

ぼくは戦っているコルネットさんに体当たりをした。


「ぐわっっっ!」


うめき声を出して倒れる。

ぼくも勢いが余って倒れ込んだ。


「きなこっ! いきなり何を……」


どすんっ!

という音が聞こえた。

コルネットさんがいた場所にトロールの拳があった。


「壁を突き破ってきたのね。油断してたわ……」


「大丈夫ですかっ!」


クイーカさんがぼくたちのところに来る。

その後ろをトロールが2匹追いかけてきている。

もう1匹もこちらを睨むように見ていた。


「きなこ、アタシを守ってくれたのね……って怪我してるじゃないっ!」


言われてぼくはひざから血が出ているのが分かった。

コルネットさんは立ち上がった。

怒っているのが立ち姿だけでも分かる。

トロールに怒りを向けている。


「だっ大丈夫ですよっ! こけて擦りむいただけですしっ!」


ぼくは慌てて言った。

これでトロールが怒られたらなんだか可哀想に思えた。


「きなこに怪我させた報いを受けさせてやるわっ! クイーカっ! 水の加護お願いっ!」


「へっ!」


訳が分からない。

そんな表情を見せているクイーカさん。

でも……


「全てを焼き尽くせっ!」


コルネットさんが叫んだ瞬間、顔が真っ青になった。


「水の精霊よっ! わたしたちに水の加護をっ! 水の精霊よっ! わたしたちに水の加護をっ! 水の精霊よっ! わたしたちに水の加護をっ!」


ぼくとクイーカさんの周りに水の泡が3層できた。

3回言ったから3つできたんだと思う。

いつものように興奮して3回同じことを繰り返したのだと思った。


「インフェルノバードっ!」


そしてコルネットさんが叫んだ瞬間、巨大な炎の鳥が現れた。

めらめらと燃える大きな鳥は洞窟の中の温度を一気に上げた。

ただいるだけ、それだけで一番外側の水の泡が蒸発して消える。


「……やばいですっ! ピンチですっ!」


クイーカさんが本気で慌てているっ!


「水の精霊よっ! わたしたちに水の加護をっ! 水の精霊よっ! わたしたちに水の加護をっ!」


さらに2層の水の泡を追加した。

インフェルノバードが巨大な羽を広げる。

そして叫び声をあげ……視界が真っ白になった。


…………

…………


「だっ大丈夫ですかっ!」


……どうやら気を失っていたようだ。


「トロールはっ!」


ぼくは起き上がって周りを見た。

そこにはトロールの姿はなかった。

どうやらあの巨大なインフェルノバードが全滅させたようだ。

部屋がとても暑くて座っているだけで汗だくになる……。


「本当に何を考えているんですかっ!」


クイーカさんはぷんぷんと怒っている。


「水の加護が4つ蒸発しましたよっ! ありえないですっ! 追加してなかったらわたしたちも蒸発してましたっ!」


「……ついかっとなっちゃって……」


「なんですかそれっ! かっとなって全部を蒸発させようとしないでくださいっ!」


「でも……トロール全滅したからいいじゃないですか?」


ぼくはコルネットさんをフォローした。

ぼくのために怒ってくれたんだから。


「きなこさんが言うなら今日は許してあげますっ! でも今後はこんな密室で使うのは禁止ですっ!」


それは当然だと思った。


「……って聞いてるんですかっ!」


コルネットさんはなんだかふわふわした感じで回りを見ている。


「いや……なんか変な感じが……」


「変な感じですか?」


ぼくが聞くとコルネットさんの左手が燃えた。


「ファイアバードっ!」


小さな火の鳥が飛んで壁に当たって消えた。


「何も問題……」


「ファイアバードっ!」


今度は何も出てこなかった。

手の炎も消えている。


「……魔力近い果たしちゃったわ!」


てへっ!

という感じでべろを出して言う。

その仕草はとても可愛くて似合っていた。

でも……


「えっっっっっっっ! それって本当ですかっ!」


クイーカさんが叫ぶ。

だからぼくは叫べなかった。


「本当。もうファイアバード、1匹も出せないわ」


「まだきのこも回収できてないんですよっ!」


「ごめんなさい」


「素直に謝らないでくださいっ!」


「謝ったのに怒られたわっ!」


「っていうかさっきなんで撃ったんですかっ!」


「大事な時に一発が撃てなくて焦ったら困ると思って……」


「その大事な一発を無駄にしちゃいましたけどねっ!」


「でっでも……トロールが全滅してるかもしれませんし……」


「洞窟のがですかっ! 洞窟のが全部ですかっ!」


ぼくのフォローに突っ込みを入れるクイーカさん。

なんだか珍しい気がした。


「カッとなって周り巻き込む魔法使って魔力使い果たすって何ですかっ! 子供ですかっ!」


「ほら……アタシって若く見られるタイプだし……」


「そんな問題じゃないですっ!」


怒り疲れたのかクイーカさんははぁはぁと荒い息をしている。

また吐いてしまわないか心配になった。


「……急いできのこを回収して急いで出ましょう。トロールは逃げる感じで」


ぼくの提案にクイーカさんがうんうんとうなずく。


「それしかありませんよね」


クイーカさんはすくりと立ち上がる。


「そもそもわたしがこっちに来たいって言った責任もありますしね……」


「インフェルノバード撃ったらお腹すいたからご飯食べない?」


「だから急いで出るって言いましたよねっ!」


クイーカさんの叫びが洞窟中に響いた気がした。

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