みんなでお食事会っ!
「心配かけて……ごめんなさい」
ぼくはお風呂場で倒れたみたいだった。
気がつくとベッドの上にいて、みんな心配そうにぼくを見ていた。
みんながいたのはぼくの部屋……らしい。
ぼくが倒れている間に部屋が決まったようだ。
一番真ん中にある部屋がニャルティさん。
その右横がぼく。左横がコルネットさん。そしてぼくの右横がクイーカさん。という感じ。
クイーカさんがどうしてもぼくの隣の部屋がいいと主張したらしい。
部屋は今のところはベッドと机以外なにもないけれど、思ったより広い部屋。
具体的には12畳ぐらいかな?
こんな部屋が自分の部屋になるのがびっくりだった。
「クイーカが悪いんだから、気にすることはないわ」
謝ったぼくにコルネットさんは言ってくれた。
「わっ、わたしじゃないですっ!」
コルネットさんに名指しされたクイーカさんはリュートさんをびしっと指差して言った。
「一緒にお風呂に入ってたリュートさんが一番悪いですっ!」
「一番悪いことはないと思うぞ」
見るとリュートさんはニャルティさんとチェスのようなものをしていた。
だいたいのルールとかは同じだけど、駒が魔法使いやパラディンだったり、それらの動かし方とかが違っていた。
離れた場所にある駒を取れる魔法使いの存在が面白いなって思った。
「私が悪いとすれば、きなこがのぼぜていたことに気が付かつかなかったこと、お前が脱ぐ前に止めれなかったことだな」
だから……
とリュートさんは言葉を続ける。
「きなこ、すまなかった。きなこが倒れたのは私にも責任はある」
「いえ、のぼせてちょっとくらってきただけですし……」
「ほう。つまりお主の体や態度がきなこに影響を与えてることはないというんじゃな」
口元を上げ、にやりと微笑む。
でもリュートさんはニャルティさんの言葉に何の影響も受けなかったみたいだった。
「私の鶏ガラのような体で興奮するはずがないだろう」
「自分の体を鶏ガラと例えるとは……。自己評価が極端に低いんじゃのう」
それはぼくも心のなかで同意した。
「事実を言ったまでだ」
「そんなことないですっ! コルネットさんより胸ありますしっ!」
「アタシの胸のことはどうでもいいのよっ!」
流れ弾が飛んできたコルネットさんは大きな声を出した。
「きなこも何もなかったし、この話は終わりにしましょう!」
これ以上、自分の話にならないよう先手を打ったみたいだった。
「ですねっ!」
ぼくもこの話はすぐに終わらせて欲しいと思っていた。
女の人の裸を見たから倒れた……。
とても恥ずかしいと思っていた。
クラスメイトに知られたら嫌なことベストスリーに入ると思う。
ここが異世界で本当によかった。
「もう遅いですし、夕ご飯にしますか?」
ぼくの提案にみんなお腹が空いていたのか。
「そうね。アタシもお腹が空いてるわっ!」
「ですねぇ。今日も色々ありましたし、疲れてますしね」
「妾は5日前に食べたのがいいのう」
「ビーフシチューですか?」
「たぶん、それじゃ」
「わかりました」
みんな賛成してくれた。
ぼくも何か食べたいって思っていたところだ。
ぼくはベッドから降りた。
「リュートさんもどうですか?」
そういえばリュートさんと食事をしたことがないことに気がついた。
リュートさんと合う時は猫の姿ばかりだったし、猫の姿の時は何も食べれないみたいだった。
「そうだな……」
リュートさんは少し考えているみたいだった。
「リュートさんにぼくが作った料理を食べて欲しいです」
あっという間にできるスキルを使うのであまり自分で作った実感はないけど……。
でも本当に食べて欲しいって思った。
「そうか。それなら食べていこう」
「きなこさんの料理を食べたら美味しすぎて腰抜かして帰れなくなりますよっ!」
なぜかクイーカさんが自慢げに言う。
それにそこまでの自信はぼくにはない……。
「それほどなのか。楽しみだな」
「そんなにハードルを上げられても困ります……」
「これで終わりじゃな」
言いながらニャルティさんが駒を動かす。
「うむむむ……たしかに私の負けだな」
表情は変わらなかったけど、くやしそうな言い方だった。
人差し指でこつこつと机を鳴らしている。
「カカカっ。お主もなかなかの腕前じゃが妾の敵ではないのう」
「また来たときに勝負してくれるか?」
「暇じゃったら相手してやる」
悪魔と協会の人。
立場的には敵対しててもおかしくないけれど、案外ニャルティさんとリュートさんは仲がいい。
そもそも悪魔と教会が対立しているという考えが、元いた世界の考えなのかもしれないって思った。
「それじゃ作ってきますので、食堂のとこで待っててください」
ぼくは言いながら最初に部屋を出た。
大きな廊下を降りて、キッチンへ向かう。
ぼくは小心ものなので大きな階段でも端っこの方を歩いてしまうタイプ。
なんだかど真ん中を歩くのはためらいがある。
何か理由があるわけでもないんだけど……。
コルネットさんやニャルティさんは堂々と真ん中を歩けると思うし、そこが少し羨ましいって思った。
「えっと……ビーフシチューの材料は……」
ぼくは鍋に材料を入れていく。
野菜少なめ、お肉は多め……。
生で使えなくなったものを優先的に野菜を入れていく。
調理時間、1分ぐらい。移動時間とほぼ同じ。
キッチンもなかなか豪華だったけれど、この作り方しかできないぼくには宝の持ち腐れだ。
きっととても料理が上手な人がいたら、とっても美味しい料理ができそうなキッチンだと思った。
「お待たせしました」
ぼくはビーフシチューが入った皿を運んでいく。
今日はビーフシチューとパンとサラダといった感じ。
昨日、なかなかいいキャベツをバザールで買えたのが嬉しかった。
今住んでいる場所では農業が盛んではないので、野菜がなかなか貴重だった。
肉の方がずっと安いぐらいに。
でもここはニャルティさんの力で冷蔵庫のような部屋がある。
野菜が日持ちするのはいいことだと思う。
「美味しそうじゃのう」
ニャルティさんが舌を出して唇を舐める。
思わず見てしまうぼく。
それに意地悪そうな笑みを返すニャルティさん。
いつものワンセット。
「本当に料理ができるのがパーティーにいるって便利よね」
「コルネットさんはほっておくと無茶苦茶な食生活になりそうですしねぇ……」
「お前もだけどな」
リュートさんの突っ込みに
「私はそんなんじゃないです!」
とクイーカさんは反論する。
「そもそもリュートさんは牛肉食べていいんですかっ! あれほど教会では野菜ばっかりだったのにっ!」
「外で出されたものは全部食べるのが礼儀だ。肉は出かけた時によく出されてたしな」
「えっっっっっ! それ知りませんでしたっ! 何をちゃっかり自分だけ肉食べてたんですかっ! ずるいですっ!」
「お偉いさんと会うのを泣くほど嫌がって部屋に引きこもってたのはお前だろ……」
「お肉が食べれるなら我慢して行ったのにっ! ひどいですっ!」
「お主らはなんじゃか親子みたいじゃのう」
笑いながらニャルティさんは言った。
「そっ、そんなことないですよっ! こんなのが親だったら最悪ですっ!」
クイーカさんは顔を真赤にして言った。
親子みたいと言われたのがとても恥ずかしそうだった。
でもニャルティさんが言ったことと同じことを、ぼくも思った。
「そもそも私はそこまで年齢はいってない……」
少し気にしているような感じでリュートさんは言った。
「クイーカって精神年齢低そうだから子供に見えるのよ」
コルネットさんも楽しそうに笑っている。
「子供のまま大人になったって感じだわ」
「そのことに関してはコルネットさんに言われたくないですっ!」
「アタシはまだ若いから」
「わたしだってまだピチピチですよっ!」
「なんじゃかその発言自体にピチピチさはないのう」
「今日はこれで全部です」
並び終えたぼくは言った。
前は食べ物を出した瞬間にコルネットさんが食べ始めていたけれど、
「さすがにそれは意地汚いと思うぞ」
ニャルティさんに言われてからはちゃんと待つようになった。
意地汚いという言葉が効いたんだと思う。
「今日はお酒はないの?」
そんなコルネットさんは言う。
そこでぼくは忘れていたことを思い出した。
「買いそびれてましたっ!」
「わかったわ。今日はオレンジジュースにしようかしら」
オレンジジュースはぼくがいつも飲んでいるもの。
ジュースを専門で売っている人がバザールにいるので、その人からいつもジュースを買っている。
「酒なら妾のがあるぞ」
「本当っ!」
「ワインじゃが、いいのか?」
「飲むわっ! どこにあるの?」
「この部屋を出て最初の扉の部屋が妾のワイン保管庫じゃ」
「分かったわっ!」
ばって感じで立ち上がって、びゅんってのりで部屋を出て行く。
ということで食べ始めるのはコルネットさんが戻ってきてからになった。
「たくさんワイン持ってるのねっ! びっくりしたわっ!」
8分ぐらいして嬉しそうな顔をでコルネットさんがワインを持ってくる。
5本ぐらい。
「そんなに飲む気なのか……」
「4人もいるならこれぐらいかなーって思って持ってきたわ」
「自分基準で考えすぎじゃ。飲まなかったのは後で戻して置いてくれ。中途半端に開けて残すのはやめるんじゃぞ」
「分かったわ。でも本当に良いワインを持ってるのね」
言いながら恍惚な表情でワインを見る。
そして大事そうに机の上に置いた。
「……しかもなんで高いやつから持ってきてるんじゃ」
「アタシが飲みたいって思ったのを持ってきたわ」
「少しは遠慮しろ。お主、本当にエルフか?」
文句を言いながらもコルクを抜くニャルティさん。
どうやら飲んでいいみたい。
「正真正銘のエルフよっ!」
「……今日は特別じゃぞ」
「ありがとうっ! ニャルティ大好きっ!」
「お主に言われても気味が悪いだけじゃのう……」
本当に嫌そうな顔だった……。
「何よっ! それっ! 素直に喜びなさいよっ!」
「本当に美味しそうですねっ!」
クイーカさんの目が輝いている。
でもリュートさんを見てもじもじっとした態度になった。
「でも私は今日はいいです……」
「なんじゃそうなのか。せっかく良いワイン開けるのに」
「私に遠慮でもしてるのか?」
リュートさんがクイーカさんに言った。
「それは……」
「お前は相変わらず変なところで遠慮するんだな」
はぁ……。
というため息が聞こえた。
「せっかく仲間と飲めるんだ。それを楽しめ」
「そうよっ! あんたが遠慮するとアタシまで遠慮してしまうじゃないっ!」
「お主はそんな繊細な精神をしとらんじゃろう」
ジト目でコルネットさんを見ている。
異様にその目がニャルティさんに似合っていた。
人を見下すのが似合っているというかなんというか……
「してるのよっ! アタシほど繊細なエルフはいないわよっ!」
コルネットさんの反論に対してニャルティさんは……
「…………」
「せめて何か言いなさいよっ!」
沈黙で返した!
でもジト目は継続中。
「楽しいパーティじゃないか」
本当に嬉しそうな声でリュートさんは言った。
「私は無理にクイーカを引き止めなくてよかったと思ってるぞ。こんないい仲間に巡り会えたんだからな」
リュートさんは開けられているワインを取り、1つのグラスに注いでいく。
「思えばお前とは一緒に酒を飲んだことはなかったな」
「……ですね」
「今日が初めてになるな」
ワインを注いだグラスをクイーカさんに差し出す。
クイーカさんの表情がぱっと明るいものに変わった。
「私にも注いでくれるよな?」
「もっ、もちろんですっ!」
クイーカさんがグラスにワインを注いでいく。
嬉しそうな顔をしているリュートさん。
少し恥ずかしそうなクイーカさん。
なんだか本当に親子みたいだなって思った。
「なんか予想外にほっこりした空気になってるわね」
「そうですね」
穏やかで、本当にいい雰囲気だと思った。
なんだかクイーカさんとリュートさんだけ別の空間にいるみたいだった。
ぼくはお酒にあんまりいいイメージを持っていない。
でも2人のやり取りをみると、お酒を飲めるようになるのもいいことなのかもって思えた。
ぼくが飲めれるようになるのは、まだだいぶ先になるけど。