クエスト完了!
「妾はこやつらのパーティーに入るぞ」
ギルドはざわざとしていた。
目立っているのはもちろん、ニャルティさん。
だいたいみんなが話しているのは街中で聞いたのと同じことだった。
「えっ……えっと……メンバーの追加ですね」
アンクルンさんの笑顔がひきつっていた。
たぶん、魔王の幹部が来るとは思ってなかったんだと思う。
思ってたら預言者か狂人だと思う。
「……一応確認ですけど、幹部は辞めてますよね?」
「もちろんじゃ」
なぜか自慢げにニャルティさんは言った。
「もうやめちゃったんだからいいじゃないですかっ!」
クイーカさんの声は興奮気味だった。
ぼくのリュックサックを指差している。
「そんなことよりわたしは早くクエスト報酬のお金が欲しいですっ!」
「そんなことよりとは随分な言い草じゃのう」
むすっとした表情。
どうやらちょっとすねたようだ。
「アタシもさっさと済ませてほしいと思うわっ!」
机をばんばんと叩くコルネットさん。
なんか待てなくて駄々をこねてるみたいに見えた。
「何か問題がおきたらその時に対処すればいじゃないっ!」
「……そうですよね。本当に辞めてるならこれ以上ない人材ですし」
どうやらパーティーにニャルティさんを入れて大丈夫みたいだ。
「ニャルティティさん、マイステータスカードを貸していただいてもいいでしょうか?」
「これでいいのか?」
「ありがとうございます」
アンクルンさんはマイステータスカードを受け取って手続きを始める。
「よかったですねっ!」
ぼくはニャルティさんに言った。
ニャルティさんが正式に仲間になれて嬉しかったから。
「そうじゃな」
ニャルティさんも嬉しそうな顔をしている。
「こんなに嬉しいことは久しぶりじゃな」
「今日は歓迎会しましょうっ!」
ぱんっと手をたたく音がした。
クイーカさんの提案だった。
「たくさん食べれてそこそこ安くて美味しいお店があるんですっ!」
じゅるりという音が聞こえた。
クイーカさんは色々な音をだすなーって思った。
「お主はたくさん食べただけじゃろ」
「そうよっ! だいたいアタシの時は何もなかったじゃないっ!」
「それはそれっ! これはこれっ! ですっ! お金はたくさんありますからっ!」
びしっ!
という感じでぼくのリュックサックが指さされる。
「なんならわたしが奢ってあげてもいいですよっ!」
「本当っ!」「それは豪勢じゃな」
クイーカさんの胸を張っての言葉に2人が素早く反応。
「妾、お金がなくて困っておったところじゃ」
「後でやっぱやめたっ! とかはなしよっ! 絶対に絶対よっ!」
「もちろんですっ! 神に誓いますっ!」
「大丈夫なんですか?」
なんだか心配になってきた。
でもクイーカさんは満面の笑みのまま
「大丈夫ですよっ! わたしにはきのこのお金がありますからっ!」
「それはそうですけど……」
「お待たせしました。手続きが終わりましたのでクエストの報告にうつりますね」
「クエストの紙です」
リュックサックから紙を取り出して渡した。
「きのこはこの中にあります」
「たくさん取ってきてありがとうございます」
にこりと微笑んで言ってくれた。
その笑顔を見るとなんだか頑張ってよかったって思った。
「こちらでチェックしますので少しお待ち下さい」
「チェック?」
「ミッピンきのこには毒がある亜種、ミッピョンきのこがあるんです。ミッピョンキノコは1口食べたら死んでしまうほどの毒があります」
「大変ですねっ!」
1口で死ぬ毒。
とても凄いって思った。
「しかもミッピンきのことミッピョンきのこはなかなか見分けつきません。それをギルドにある装置で分別するんです」
「それじゃっ!」
クイーカさんの叫びが聞こえた。
「これ全部がお金になるわけじゃないんですかっ!」
「そうですね。ミッピョンきのこにはさすがにお金は出せませんので」
「それじゃ報酬が減っちゃうじゃないですかっ!」
だんだん雲行きが怪しくなってくるクイーカさんの懐事情。
「こういうことがあるから1個1000クルトンで買い取ってくれるんでしょ」
対象的にコルネットさんは余裕な感じだった。
「あううう……。でっでもたくさん取ってきたからそれなりに報酬はあるはずですっ!」
「よいしょっ!」
きのこを箱に移してアンクルンさんが運んでいく。
「分別自体はすぐに終わるのでお待ち下さい」
「誰がとったきのこか分かるようにしてますからっ!」
クイーカさんが叫ぶ。
「そこらへんちゃんとお願いしますっ!」
「ちゃんとしてくださいよぉ!」
アンクルンさんが見えなくなる。
「今から奢るのなしとか言っても駄目だからね」
「そうじゃぞ。なんせ神に祈ったぐらいじゃからのう」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫ですっ!」
心なしか顔色が悪くなっているように見える。
「54000クルトンが半分になっても……」
「27000です」
「それですっ! 今から行くお店は1人3000クルトンあれば十分ですのでえっと……それなりに残ります! 多分!」
「……15000クルトン残るわね」
「十分な金額ですね」
「食べ物のことを考えてたら腹が減ってきたぞ」
お腹をさするニャルティさん。
「ずいぶんと何も食べて来なかったからのう」
「洞窟の中では何も食べなかったの?」
「そうじゃな。たまに地面から生えてた雑草やミミズとかを取って食っておったな。水は壁から落ちてくるのとか泥の中のを飲んでたんじゃ」
「想像以上に過酷ですね……」
それでもぴんぴんしてるのはさすが大悪魔っていったことだろうなって思った。
「雑草やミミズを食べてたって……。壮絶な生き方をしてるわね……」
「お待たせしました」
アンククルンさんが戻ってきた。
本当に時間がかからなかった。
「意外と早いんですね」
「最新の装置ですから。でも大きすぎて洞窟まで持っていけないのが難点です」
「だから冒険者に依頼するんですね」
「そんなところです。では……えっとそれぞれに渡していけばいいんでしょうか?」
「そうですっ!」
興奮気味に言うクイーカさん。
なんだかヤケクソみたいに言ってる気もする。
「まずきなこさんは全部で28個。なので28000クルトンですね」
「ありがとうございますっ!」
ぼくはお金を受け取る。
ここで初めてクエストをこなしてもらえたお金。
とても嬉しいって思った。
ギルドに入れても14000クルトン。
何に使おうかって悩んでしまう金額だ。
「次にコルネットさんは30個です。30000クルトンですね」
「まぁまぁねっ! ギルドに入れるお金がちょっと惜しいけど……」
「最後にクイーカさんですが……」
「はいっ! はいっ! わたしですっ!」
「5個です。なので……」
「えっ! えっっっっっっっっっっっっっっ!」
「5個って!」
「5000クルトンとは大した大金じゃのう!」
クーカさんが叫び、コルネットさんとニャルティさんが爆笑する。
「そんなに笑ったら可愛そうですよっ!」
「でもっ……あんなにとって……ごっ……5個って……」
よっぽどつぼにはまったのかコルネットさんはお腹を抑えている。
「何かの間違いじゃないですかっ!」
「もともとミッピンきのこの方が数が少ないですし……」
「それならミッピンきのこの方が亜種じゃないですかっ!」
「全部で63000クルトンなので初級クエストにしてはかなりいい報酬だと思いますけど……」
「そうよっ! 洞窟に行ってトロール倒してきのこ取って63000クルトンよっ! 何が不満があるのよっ!」
「それなら報酬はみんなで均等に分けましょう! お願いですからっ!」
クイーカさんの目には涙が浮かんでいた。
思わずいいですよと言いたくなってくる。
「駄目だわっ! あんたが言い出したことなんだからねっ!」
「そんなぁ……」
「とういか妾の報酬はどうなるのじゃ?」
「確かにニャルティがなしってのはかわいそうだわ。2000クルトンずつ渡すのはどうかしら?」
「これ以上わたしの取り分を減らさないでくださいよぉ!」
「2000クルトン取ったらクイーカさんの報酬が500クルトンになりますしね。ぼくとコルネットさんから3000クルトン渡しましょう」
「それでいいわ」
「おおっ! 久しぶりのお金じゃっ!」
「わたしより報酬が多くなってるっ!」
報酬結果
パーティー 31500クルトン
ぼく 11000クルトン
クイーカさん 2500クルトン
コルネットさん 12000クルトン
ニャルティさん 6000クルトン
「なかなかいい稼ぎだったわねっ!」
高笑いをするコルネットさん。
反対にクイーカさんはずーんと落ち込んで体操座りをしている。
「そういえばこのパーティーのお金はなんなんじゃ?」
「それは宿泊費とかそういうのらしいです。あと必要な物を買ったりするお金とかって言ってました」
「なるほどのう」
ニャルティさんはうむうむと納得する。
「それではこれでクエスト達成です。えっとここにサインいいですか?」
「分かりました」
ぼくは言われるままにサインを書く。
初めてのクエスト達成が嬉しかった。
「終わったことだしニャルティの歓迎会に行くわよっ!」
「そうじゃなっ。今すぐにでも何か食べたいぞっ!」
「てっ……提案が……あっ……あるんですが……」
おずおずと手を挙げるクイーカさん。
「却下するわっ!」
「まだ何もいってないですよっ!」
「どうせ奢りはなしっ! とか言うつもりなんでしょっ!」
「あうううう……」
「ちゃんと払って貰うわよっ!」
「あっそういえばっ!」
クイーカさんは体操座りからばっと立ち上がる。
意外と器用だった。
「コルネットさんは壊した扉の修理代を払ってもらわないとっ!」
「あれって連帯責任でパーティーのお金から出したんじゃないの?」
「違いますっ! あの時はまだそういうお金なかったからわたしが出しましたっ!」
「……分かったわよ。いくら?」
「10000クルトンですっ!」
「しょぼい扉なのにけっこうするわね……」
言いながら10000クルトンを払う。
「でもアタシが払ったんだからちゃんと奢りなさいよっ!」
「どうでもいいから早く食いたいぞ」
「ううう……。まっ、まぁ……貯金もまだありますし……」
ぼそぼそというクイーカさん。
「分かりましたっ! お店に行きましょっ!」
ヤケクソな感じでクイーカさんが歩き出す。
「たくさん飲むわよっ!」
「たらふく食すかのう」
とても気合が入った2人の声が聞こえる。
「だっ、大丈夫かな?」
なんだかとても心配になった。
そしてぼくたちはギルドを出てお店まで移動した。
「なかなか良さそうなところじゃない」
案内されたのはとても広い居酒屋みたいなところだった。
席ごとに壁などの区切りはない広々とした感じ。
床は土だったので土足でも大丈夫。
「4人ですーっ!」
クイーカさんが店員を呼んで席まで案内される。
色々な人、色々な種族の人がいる。
「とりあえずビールを樽で持ってきてっ!」
席に座るなりコルネットさんが言った。
「そんなに飲むんですかっ!」
「クイーカも飲むでしょっ?」
「そりゃ……のっ飲みますけど……」
「ぼくはオレンジジュースで」
「わかりましたー」
「あっ! ニャルティも飲めるのよね?」
「大丈夫じゃぞ。でも……」
長い舌を出して唇を舐める。
「今日はたくさん食いたい気分じゃな」
「それならおすすめは……」
「とりあえず全部持ってきてくれんかのう。食ってうまかったのをまた頼むぞ」
「全部って!」
ばんっ!と机を叩くクイーカさん。
「どっ、どんだけ食べる気ですかっ!」
「気が済むまでじゃな」
「ちょっとはセーブしてくださいよぉ!」
「妾は1年以上、文字通り土を食べ泥水を啜って生きてきたのじゃ」
「うっ……。そっそれは……そうですけど……」
「じゃから今日ぐらいは好きな物を好きなだけ食べてもいいと思わんか?」
「……好きに食べてください……」
クイーカさんが根負けしたようにがくっと崩れ落ちる。
ニャルティさんの話を聞いて断れる人はなかなかいないと思った。
「なんだかすごいことになりそうですぅ……」
「言っておくけどアタシは2000クルトンしかないわよっ!」
「コルネットさんはどんな金銭感覚で生きてきたんですかっ!」
「手に入ったお金はぱーと使ってきたわっ! これぞ紅蓮術士の生き様ってやつねっ!」
「ただの駄目人間じゃないですかっ!」
「のみものおもちしましたー」
ごとっと大きな樽が置かれる。
そして3人にはからのコップ。
ぼくにはオレンジジュースが入ったコップ。
「こうなったらわたしもたくさん食べて飲みますっ!」
それぞれが自分のコップにビールを注いでいく。
そしてみんながコップを持ち上げる。
「えっと! えっと! 何とか神に乾杯ですっ!」
やけくそ気味な言葉だった。
ぼくたちは乾杯してそれぞれ好きに飲んだり食べたりして盛り上がった。
なんだかクエストが終わったという実感があった。
とても嬉しい気分。
そして今回のクエストでとても大事な教訓を学べた。
それは……
「お会計は38000クルトンですっ!」
「あううう……。わっ、わたしのお金がぁ……」
安易な約束はしないこと。
クイーカさんの半泣きな表情を見てぼくは心に誓った。