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きのこと結界!

「戻ってきたわねっ!」


ぼくたちは休まずに分かれ道に戻った。

ちゃんと今度は右の方を……


「確かこっちだったですよねっ!」


自信満々に出口に向かって歩いて行くクイーカさん。

ぐるりと回ったら方向が分からなくなるタイプっぽい。


「そっちじゃないわよっ!」「こっちですよっ!」


ぼくとコルネットさんは同時に叫んだ。

クイーカさんは


「……分かってますよっ! えっと2人を試したんですっ!」


そう言って何食わぬ顔で戻ってきた。

顔色も全く変わっていないのが何気なく凄いと思った。

ぼくだったら恥ずかしくて顔が赤くなっているかもしれない。

ぼくたちはそのまま道を歩く。

時間が経過するに連れて洞窟の中の温度も戻ってきた。


「こっちからはあんまり魔物の匂いがしないわね」


「魔物の匂いがするんですか?」


「そうね。魔物の匂いっていうか正確には魔力とかそういうのを感じてるんだと思う。人と魔物で違う感じがするわ」


「わたしもコルネットさんほどじゃないけどなんとなーくは分かります」


「便利ですねっ!」


「あんまり役に立った経験はないわよ」


それでもなんとなく羨ましいと思った。

自分にできないことを羨ましがってもしょうがないとは思うけど。


「トロールがもう出ないといいんですが……」


周りを警戒しながらクイーカさんが言う。

ぼくも同じことを思った。

特に複数でてきたらピンチっぽい……。


「1匹ぐらいなら素手でも余裕だけどねっ!」


「トロールの1撃を余裕で受け止めれるぐらいですからね……」


「アタシって凄いでしょっ! もっと褒めてもいいわよっ!」


「まるでゴリラみたいな強さですっ!」


「それは言い過ぎ……っていうかそれって褒めてんのっ!」


「褒めてますよっ! コルネットさんはゴリラみたいって!」


「全然っ褒めてないっ! だいたいゴリラって言ったほうがゴリラなんだわっ!」


「わたしのどこがゴリラなんですかっ!」


「……知性?」


「わたしはそんなに頭悪くないですっ!」


「でもゴリラって森の賢者って言われるらしいわよ。ギルドで誰かが言ってた気がする」


「そうなんですかっ! じゃゴリラ並の知性って褒め言葉じゃないですかっ!」


嬉しそうに喜ぶクイーカさん……。


「そうよっ! 今度からは自分の頭脳はゴリラ並みですって自己紹介するといいわっ!」


「分かりましたっ! コルネットさんって案外いい人ですねっ!」


「案外じゃなくて常にいい人だわっ!」


色々言いたいこともあったけれど、言い争いが続いても疲れるだけなので黙っていた。

沈黙は金。

そんな言葉が頭に浮かぶ。


「着いたわねっ!}


そしてぼくたちは目的地にたどり着いた。

たぶん、洞窟の一番奥。

トロールがたくさんいた部屋と同じぐらいの広さ。

でもトロールはいなくてかわりにたくさんのきのこがあった。


「これ全部みっぴんきのこなんですかっ!」


ぼくは驚き、声を上げた。

見渡す地面いっぱいにきのこが生えている。

色とりどりのきのこは教えてもらったものと同じ。

何も知らなかったら毒キノコと思ってしまいそう。


「そうみたいですねっ! こっこんなにあるなんてっ……」


「クイーカさんっ! よだれっ! よだれっ!」


「こんなに生えてるなんて思わなかったわ」


興奮しているぼくとクイーカさんとは対象的にコルネットさんは冷静だった。


「でも高級食材がこんなにたくさんあるってのも変な話じゃないかしら?」


疑わしそうに片眉をあげる。


「それもそうですね……」


1本1000クルトン。

そんな高級な食材がこんなにあるとは思わなかった。

それも一般的な冒険者からしたら難易度が低いダンジョンに……。


「たまたま豊作なんですよっ! 恵みですっ! いい子にしてたわたしへのご褒美なんですっ!」


クイーカさんは地面に這いつくばるときのこを集めだした。

ぶちぶちとちぎってはぼくのリュックサックの中に入れていく。


「これで1000クルトン……これで5000クルトン……じゅるり……ああヨダレが止まらないです……」


「アタシ達も取るわよ。……なんか罠がある気がするんだけど……」


ぼくとコルネットさんもきのこを採り始めた。

でもすぐになにか違和感に気がつく。

同じ色、形のきのこでも何か違いがあるように感じられた。

それはどう違うのかは説明が難しい。

だけど全部を闇雲にとっても駄目な気がした。

そのことを2人言うと……


「なるほどね。アタシも分からないけど観察してとってみるわ」


コルネットさんは1個、1個見ながら取っていき


「何言ってるんですかっ! 全部同じですよっ! がばって取るのがいいと思いますっ!」


コルネットさんは手当たり次第に収穫していく。


「そんなにちまちま採ってたらせっかくの稼ぎが少なくなりますよっ!」


そう言われてもぼくとコルネットさんは獲り方を変えなかったので


「それなら合計金額の半分をパーティーの資金にして、残りは取った数で分配しましょう!」


クイーカさんが提案する。

ぼくとコルネットさんはそれに賛成した。

数は少なくても十分な報酬にはなると思った。


「ちゃんととったきのこはどれが誰のか分かるようにしますよっ!」


そしてぼくたちはぼくが持てるぎりぎりまでリュックサックの中にきのこを入れた。

ぼくが30個、コルネットさんが48個、クイーカさんが108個。

普通のリュックサックなら半分ぐらいで溢れてしまう量。

でもリュックサックはまだまだ余裕がある感じ。

高かったけど本当に買ってよかったと思った。

今度あったらカズーさんにお礼を言おう。


「合計がえっと……」


クイーカさんが悩む。


「186個。全部で186000クルトンだわ」


クイーカさんが答えを出す前にコルネットさんが言った。

186000クルトン……。

1日でそれだけ稼げるなら本当に凄いと思った。

本当に稼げるなら。


「それを半分にしたら……えっと……」


「93000クルトンですね」


「そうそうっ! そしてわたしの取り分が……」


…………

…………


「まだなの?」


「もうちょっと待ってくださいっ! えっとえっと……」


「54000クルトンだわ……」


「そうっ! それですっ! 今言おうとしたところでしたっ!」


「なんだかゴリラに申し訳なくなってきたわ……」


ぼそりとつぶやくコルネットさん。

でもその言葉はクイーカさんには届いていない。


「54000クルトンで何を買いましょうか。というか凄くないですかっ! きのこ採ったら1日で54000クルトンですよっ!」


とても上機嫌なクイーカさんは鼻歌交じりでぐるぐる回っている。


「早くお金を貰いに行きましょうっ!」


「まぁアタシもお金は欲しいしね」


「ちょっと待って下さいっ!」


ぼくは入り口から一番奥の壁に何か光ってるものを見つけた。

それは透明な壁みたいなもので、奥には通路がある。

通路と言ってもかなり斜めになっていて崖に近い感じ。

ここが最奥じゃなかったと気がついた。


「これが結界ですね」


「そうみたいだわ」


コルネットさんが手を伸ばす。

するとさわる前にばちっと電気みたいなのが発生した。


「まるで静電気の超強いやつみたいですね」


「今のであれから実際にさわったらやばいでしょうね。怪我とかはしないだろうけど」


「そんなことより早く帰りましょうようっ!」


「でもなんでこんなところにこんな結界が?」


「早くっ! わたし欲しいものがっ!」


「崖みたいになってるから用心のためとかでしょうか?」


「崖よりこの結界の方が危険な気がするわ」


「やっぱりお宝があるんじゃないですかね?」


「んっ? きなこもそっち派か」


「だってなんだか隠されたお宝って憧れるじゃないですか……」


「きなこもそういうとこはしっかり男の子なんだねっ!」


言いながらぼくの頭をうりうりといじってくる。


「だから……ってきなこさんに何してるんですかっ! わたしもきなこさんの髪の毛さわりたいですっ!」


「…………」


「…………」


「帰りましょうか」


「そうね」


「いきなり帰るモードにならないでくださいよぉ!」


ぼくは出口の方に振り返る。

そのまま歩こうと……した。

でも思ったよりもリュックサックが重かった。

バランスを崩してぼくは後ろに倒れる。


「きなこさんっ!」「きなこっ!」


2人が同時に手を伸ばす。

ぼくも伸ばすけど、届かなかった。

後ろにあるのはあの結界。

怪我はしないけど、とってもびりっとくる結界。


「っっっっっっっっっ」


ぼくは衝撃に備えて歯を食いしばった。

でも……


「きなこさんっ!」


ぼくは結界をするりと通り抜けた。

そして崖に近い道をごろごろと転げていく。

色々な場所をぶつけながら。

そして気がついたら大きな岩にぶつかって止まった。


「あいててててて……」


あっちこっちを擦りむいている。

これなら結界でびりっとなってた方がよかった気がする。


「きなこさんっ! 大丈夫ですか!」


クイーカさんの声が聞こえる。

ぼくは見上げた。

転がってきた崖は思ったよりも急だった。

転がりはできても、登ることは難しそう。

特に今はリュックサックがとても重たいし。

それに結界があるからクイーカさんもコルネットさんも来るのは難しそうだった。

自力でどうにかするしかない。

でもなんでぼくは通れたんだろう。

不思議に思ったけど、今大事なのは目の前のこと。


「大丈夫ですけど登れそうにないですっ!」


ぼくは後ろを見た。

そこには1本の道が続いていた。


「道があるのでとりあえず行ってみたいと思いますっ! どこかで上に行けると思います!」


もし駄目だったらリュックサックの中身を捨てて登ろうと思った。


「分かったわ!」


と言ったのはコルネットさんだった。


「アタシ達はここで待ってるわっ! 登ってこれたらここにくるようにっ!」


「あんまり遅いようだとギルドに助けを呼ぶからっ!」


「分かりましたっ!」


「きなこさんっ! 何かあったら大きな声を出してくださいねぇ!」


クイーカさんの声。

泣いてそうな感じがする。


「すぐ行くから待っててくださいっ!」


なんで結界を通れたのか分からない。

でもこの道の先に何があるのかなんだかわくわくした。

お宝があるといいなっ!

もしとっても貴重なお宝があったら……

ぼくはそんな妄想をしつつ道を歩いた。

心配させちゃいけないから早く戻るのが優先だけど。

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