気になるステータスは!
「それではあなたのステータスは!」
女神様がはりきった声で言う。
どるるるるるるるるるるるる。
みたいなドラムロールが鳴り響いた。
どこでなってるんだろうと思ったら女神様が頑張って言っていた。
無駄に上手だと思った。
ぼくはどきどきして発表を待った。
「じゃんっ! 出ました! 来ましたっ! えっと……」
みるみると女神様の顔色が悪くなっているのが分かった。
そして女神様は言った。
「ごっごめんなさいっ!」
謝られたっ!
……
……
ぼくはWEB小説を読むのが好きだった。
特に異世界物が。
その日も異世界物の小説を読んでいた。
でもそれはなんだか変だった。
小説っていうよりなんだか日記に近かった。
でも
チート的に強い主人公
可愛いヒロイン
魅力的な世界
基本を抑えられていたからぼくは夢中になった。
書きかけだったので続きが楽しみだと思えるぐらいに。
でも最後に変なアンケートがあった。
異世界に行きますか?
はい。
を迷わず選んだ。
きっとぼくは詐欺にひっかかりやすいと思う。
でも今回のは詐欺じゃなかった。
良くも悪くもだけど。
「何も起こらないよね」
なんてつぶやいた直後。
視界がぐにゃりと歪んだ。
そして戻った時には真っ白な部屋にいた。
壁も床も真っ白。
そして椅子が2つだけあった。
その1つに女の人が座っていた。
「驚いてるって感じがするわねっ!」
いかにも女神様って感じの女性だった。
部屋と同じぐらいの真っ白なドレスを着ている。
美人で胸も大きくてまさに大人って感じの。
「さてさて久しぶりの移住者だけど……」
女神様はぼくの顔をじっと見る。
椅子から立ち上がり目の前までくる。
「あれ? あれれれれれれ?」
すぐ近くに女神様の顔があった。
女神様の息が当たるぐらいの……。
「ちょっ……ちっ近いですっ!」
「小学生は来れないようになって……」
「ぼくは小学生じゃないですっ!」
「ほっ本当にっ!」
言ってまたぼくをじろじろと観察する。
「でもここに来れたってことはそういうことよね……」
ふむふむ。
1人納得する女神様。
でもぼくは今の状況が分かってない。
「でもこんな可愛い子を危険な目に……」
「かっ可愛いって言わないでくださいっ!」
条件反射で出た言葉。
それぐらい可愛いって言われるのは嫌だった。
「ごめんなさいね」
女神様は歩いて椅子に戻って座った。
ぼくはほっとした。
「とりあえずその椅子に座っていいわよ」
「は……はい……」
言われるままにぼくは座った。
「きっちゃんは……」
「きっちゃんって!」
いきなりあだ名!
しかもあんまり好きじゃないの!」
「きっちゃんが嫌なら本名で呼ぶけど?」
「……本名でお願いします」
ぼくの名前はきなこ。
男なのにことつくのとかがあんまり好きじゃない。
でもきっちゃんよりましだと思った。
「ところできなこは今の状況は理解できてる?」
そう言われてぼくは思った。
知らない場所。女神様。
そして出てきた言葉は……
テンプレート!
「えっとぼくは異世界に行けるんですか?」
「ビンゴっ!」
女神様はにこっと微笑む。
「異世界物の小説が好きな人を選んでるだけあって説明が楽だわー」
「あのアンケートみたいなのが影響してるんですか?」
「そんな感じ。あの小説は実際にイグラストムで冒険している人が書いたものなの」
「イグラストムってあの小説に出てくる世界ですよね?」
「そうそう」
「あれって実話なんですねっ!」
「実話といえば実話だけど……」
うーんと唸る女神様。
「そっちの世界ではフィクションってことになるわよね。だからどっちにも言えるって感じかしらっ」
「それでぼくは異世界に行って何をすればいいんですか?」
「魔王を倒すっ!ってのが最終目標かな」
「よくある話ですね!」
ぼくはわくわくした。
憧れていた異世界に行けるのだから!
「でもその前に4人の幹部を倒すか封印しないといけなくて……あれ? 5人だったかな?」
こほん。
女神様はわざとらしいせきをした。
「とりあえず魔王達をどうにかするには異世界人の力が必要なのっ!」
「だから異世界物好きを呼ぶためにぼくの世界でイグラストムの話を読めるようにしてるんですか?」
「察しがいいわねっ! イングラストムも移住者を呼べる。呼ばれる方も憧れの異世界に行ける。ウィンウィンってわけ!」
「それでぼくの能力とかはどうなってるんですかっ!」
「ちょっと待ちなさいっ!」
女神様はデジカメみたいな機械を取り出して操作を始めた。
「これであなたのステータスが分かるわっ!」
その言葉にぼくはどきどきした。
「安心してっ! 移住者はみんな高ステータスで有能スキル持ちばかりっ! あなたもきっとそうだわっ!」
女神様はデジカメ(偽)をこちらに向ける。
「それではあなたのステータスは!」
女神様がはりきった声で言う。
どるるるるるるるるるるるる。
みたいなドラムロールが鳴り響いた。
どこでなってるんだろうと思ったら女神様が頑張って言っていた。
無駄に上手だと思った。
ぼくはどきどきして発表を待った。
「じゃんっ! 出ました! 来ましたっ! えっと……」
みるみると女神様の顔色が悪くなっているのが分かった。
そして女神様は言った。
「ごっごめんなさいっ!」
謝られたっ!
「謝られるなんて予想外っ!」
だからどんなリアクションを取ればいいのか難しかった。
「……それじゃさっそく異世界へ……」
「ステータス教えてくれないのっ!」
言いつつぼくは見るのが怖くなった。
「それじゃ見せるけど……ショック死しないでね?」
「その言葉でショック死しそうです……」
そして画面に出てきたのは
オール1。
「こっこれって……」
素早さがどれぐらいとか力強さがどれぐらいとかそういうのを書く意味もない。
だって全部1だから。1だから。1だから……。
「きゃっっっっっっっっっっっっ! 死んじゃだめよっ! 生きてっ! 私の分まで生きてっ!」
女神様も混乱で訳が分からないことを言っている。
「でっでも……」
うまく呼吸ができないけど再び画面を見る。
「ゆっ有能スキルがあれば……」
スキル:あっという間に料理を作れるよっ!
「あばばばばばばばばばばばば」
思わず自分でもどこから出てるのか不思議な声を出した。
「うぎゃぁぁぁぁぁ。駄目よっ! さらに別の異世界に旅立ちゃ! いいじゃないっ! 料理が得意な男子ってもてるわよ!」
女神様はばちばちとぼくの頬を叩く。
痛みで少し頭が冷静になった。
「……これで魔王を倒せるんですか?」
「そっそれは……」
女神様はうーんと唸っている。
何か言葉を探しているみたいだ。
そして出てきた言葉は……
「まだ誰も魔王どころか幹部1人も倒してないから安心してっ!」
「余計駄目だと思うんだけどっ!」
高ステータス。有能スキル持ちでもだめなのにぼくが何かできる気はしなかった。
「でも持ってる札でしか戦えないしっ!」
「えっと何か武器とかもらえないんですか?」
「そんな便利な制度はないっ!」
「女神様が一緒に来てくれないんですかっ!」
「それやるとパクリになっちゃうから駄目っ!」
パクリの何がだめなんですかっ!
と叫びそうになったけど自重した。
パクリダメ絶対!
でもオマージュならセーフ。
「うーん。特例だけど元の世界にもどれるって選択肢もあるわ」
元の世界に戻る……。
「さすがにこれであなたが異世界に行っても苦労する……」
「行きますっ! 異世界に行きますっ!」
「ほっ本当にいいの!?」
「たぶんどうにかなりそうだなって思ったんです」
最弱なら最弱な生き方がありそうだとぼくは前向きに考えることにした。
「行った後にやっぱり元の世界に帰るってのは無理だからねっ!」
「大丈夫ですっ!」
「それじゃ……私が言うことは何もないわ」
女神様は1台のノートパソコンを何もないとこから出現させた。
「これをあなたにあげる」
「これって……」
ぼくはノートパソコンを受け取って観察した。
どこからどう見てもノートパソコンだ。
「異世界にノートパソコンって変な感じですね……」
「手書きで書かせるのもあれかなーって思ったのよ」
これで異世界の話を書けってことらしい。
ぼくがここに来るきっかけになった小説のように。
あんな風な冒険をするのは難しそうだけど。
ステータス的に。
「このノートパソコンは壊れないしバッテリーも切れない。今みたいに出したり消したりできるわ」
「それは凄いですね……」
その技術をもっと別の何かに使って欲しいと思った。
強い武器とか。
「実は冒険の記録自体は自動で書いてくれる機能があるの。でもたまにでいいから自分で書いてくれると嬉しいわ」
「……できるかぎり」
ぼくはかちかちとパソコンを操作した。
WEB小説サイトの投稿ページと自分のを読むページだけアクセスできるみたいだった。
「小説の名前はもう決まってて変更は不可だからっ!」
「これって……」
最弱なぼくが異世界で生きていく方法。
と書いてあった。
なんだか読むのが嫌になる題名……。
自動で書いてくれるのは嬉しいと思った。
「さっそく異世界に送るわねっ!」
でももうすぐ憧れの異世界!
きっと現実では味わえない何かがあるはず!
ぼくは無理やり期待を高めた。
「冒険も更新も頑張ってね!」
女神様の声が聞こえて再び視界がぐにゃりと歪んだ。