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第51話 聖山

 4日目にして目的地であった聖山へとたどりつく。


 周囲の温度が非常に熱い。山がもつ地熱のせいだ。

 見渡すかぎりの岩肌と、その影からでる煙と硫黄の匂い。掘り起こせば、温泉がでてくるかもしれない。さながら地獄のような光景だが、その山こそドワーフたちのいう聖山であった。


「ジグ様すごい暑さなのです」


「ああ。そうじゃな。これでどうだ?」


 馬をおり、左手で目前の空気を撫でるように腕を動かす。すると、コリンが感じる暑さが若干薄まった。


「少し涼しく……何をしたのです?」


「《炎熱操作》というスキルを使った」


 なんでもなさそうに言い、山を見上げるジグルドに尊敬の目を向けるコリン。


「聞いたこともないスキルです! ジグ様はやはりすごいのです!」


「……やはり知らぬか」


 自分を褒めるコリンの声を不愛想な顔をしながら聞いていた


「ジグ様?」


「なんでもない。それより山登りの準備じゃ。まずは荷をおろすぞ」


「はい!」


 相手をしてもらうのが嬉しいようで、元気な声で返事をする。

 馬から荷物を下ろすと手綱を離し、馬の尻をたたいた。(いなな)く声をだし2頭の馬が荒地へと走り出す。


「ジグ様、逃がしてよいので?」


「しばらくは戻ってこれんからな。ここで縛っておいても、死なれるだけじゃ」


「帰りはどうするのです?」


「それについては思うところがあるが、その時にならねばわからん」


 言いながら荷を解きだす。背負うザックの中に様々なものが用意されていたが、全部いれたままというわけにはいかない。


「登山靴とピッケル。あとは縄と水筒もだしておけよ」


「服はこのままでいいのです?」


「ああ。岩ばかりだからな。これで十分じゃ」


「はい」


「手袋もだな。ほれ」


 そういい、ジグルドが自分のザックから厚手の手袋をとりだし渡した。


「これは鍛冶用のですよ?」


「これが良い。ワシの《炎熱操作》で、温度変更はできる。使いなれたものがよかろう」


「ありがとうなのです!」


「言うておくが、ワシのお古ではないからな?」


「は、はい……」


 もしやと思い言ってみたが、やはり誤解していた様子だった。この世界に来た時、手袋なんてもってきていないのだから、あるわけがなかった。


「よし行くか。まずは入口探しじゃ」


「はい!」


 元気よく返事をするコリンであるが、横に軽くよろめいた。ザックが重すぎたようだ。


「……少し荷を移すか」


 背負ったザックを再度おろし、言葉どおりコリンの荷物を移した。前途多難である。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ジグルドが左手を軽くあげ、空気の流れをよむかのように目をとじた。


「ジグ様?」


「熱の動きを調べとる。静かにしてくれ」


「は、はい」


 慌てた仕草でコリンが自分の口を両手でふさいだ。ジグルドは黙ったまま、感覚を研ぎ澄ましいる。


「……あっちか。いくぞ」


「……」


 動き出したジグルドのあとを無言でついてくる。いつもなら元気な声がかえってくるはずだが? と、後ろをみると、口をふさいだままだった。


「そこまでせんでいい」


「はいなのです!」


「それと、ワシの《炎熱操作》の範囲は狭い。あまり離れんようにな。でないと暑さにやられる……とはいえ、背にくっつかんでもいいからの?」


「!」


「やろとしたじゃろ?」


「ジグ様に、私の心が届きました!、これはもはや一心胴体! 夫婦なのです!」


「……その元気が続けばよいの。いくぞ」


 目を前にもどし歩き出す。

 踏み出す足の感触をたしかめ、登山靴がしっかりとしたものだと確認。よしと軽く声をだし先へとすすむ。


(熱い風が流れてくる方を見に行くか)


 ジグルドの《炎熱操作》は、文字通り周囲の熱をあやつるものだが、それだけではない。熱そのものの流れを知ることができる。


「ジグ様は、一度ここに?」


「いや、ワシも初めてじゃ」


「そうなのです?」


 コリンにしては珍しく疑問を感じさせる声だった。


「不安がらんでよい。だいたいのことは聞き知っとる。もっともワシの世界にあった聖山のことじゃがな」


「そうだったのですか!」


 瞬時に疑問が解けたようである。どれだけ信頼しているというのだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 しばらく登山をつづけると、モンスターらしき死骸などが多くみられ始めた。そのほとんどがウルフタイプのようにみえるが、それがワイルドウルフという名だとジグルドは知らない。


(暑さでやられたか。それとも火山ガスの影響かの? どちらにせよ、水分補給はこまめにさせんとな)


 思い、チラっと後ろをみると、呼吸を乱すことなくついてくるコリンがいて、


(ふむ。これくらいなら大丈夫か。まずは安心じゃ)


 前へと顔をむけなおし、熱の流れを再度確認。


「もう少しじゃな」


「みつかったのですか?」


「わからん。熱の動きが奇妙な場所を調べたいだけじゃ」


「熱の? どういうことなのです?」


「それはじゃな……」


 説明しかけようとしたその時、コリンが歩いていた岩肌からガスが勢いよく噴出した。


「!?」


「おっと。大丈夫か?」


 驚き、態勢を崩したコリンが、ジグルドのザックへとぶつかる。態勢をかえ倒れてきたコリンを支え起こした。


「はい! 少し驚いたのです」


「気をつけろよ。ワシのスキルで熱によるダメージはないとはいえ、毒気までは対処できん」


「毒ですか? このガスにはそれがあるのです?」


「火山ガスともなれば、人体に悪影響を及ぼす。あと、水分をこまめにとっておけ」


「はいなのです!」


 といいつつ、体にぶらさげていた水筒をのもうとするから、


「一口ずつな。口に一度含んでから飲む感じじゃ」


 言い終わる前に、ごくごく飲んでいる。


「……ごめんなのです」


「謝らんでよい。限りある水じゃ。大事にの」


 言われ、キャップをきっちり閉め戻す。


「熱の対処ができておるから、そう水を欲することはなかろう。じゃが水分は普通に減る。気付いてから飲んでいては遅い」


「はい。鍛冶仕事をするときにも、同じことを言われたのです」


「わかっておるなら良い。いくぞ。すぐそこじゃ」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 最初の目的地についた2人だったが、そこには何もなかった。


「ジグ様ここなのです?」


「そのはずじゃが……ふーむ。ここの岩肌が異常に熱い。このせいか?」


 顔を傾け、地面をさする。

 本来触るどころか、この場所にいることすら危険なのだが、それを造作もなくやってしまう。

 山肌を軽くピッケルでつきさすが、ほとんど刺さらない。周囲にある岩も軽くたたいてみてまわるが、何の反応も示さなかった。


「熱いだけじゃ。次にいくぞ」


「はいなのです!」


 いつもの通りの元気な声がかえってきて、ほんの少しだけ、笑みを浮かべ見せた。


「笑った! やったのです!」


 何が嬉しいのか、コリンがはしゃぐ声をだす。ジグルドが咳を一つし、


「いくぞ。体力は大事にとっておけ」


「はい! どんどん行くのです!」


 言ったそばから、元気を口から出すような声が返ってきた。


「ほどほどにな。さて、今度は……」


 次に気になる場所はないかと、左腕を再度あげる。

 左腕で感じ取った熱の動きがスキル補正によってジグルド目に映し出された。


(山頂からの熱気が凄いの。恐らくマグマによるものだと思うが、となれば……)


 今度は山肌を触る。


「そういうことか……」


 独り納得し、立ち上がった。


「ジグ様?」


「あとで話す。あそこにある岩の向こうにまわるぞ。おそらく何かある」


 すっと迷いなく指さす。コリンが頷き元気な返事をした後、2人が歩き出した。

 岩まではそう遠くなかったが、そのあともジグルドは歩くのをやめない。周囲をみて確認する様子でもなく、ただ一点をみるように迷わず進む。

 ジグルドが探ったのは、地の底を流れるマグマ流。

 大気の熱ではなく、地の底を探るべきだったと方針をかえたようだ。


「ふむ、おそらくここじゃな。コリン少し離れておれ」


 目的地につくが何もなかった。だが、ジグルドはピッケルで、数か所地面を刺すと、


「お?」


 手ごたえといったものがなく、深く刺さった場所がみつかる。危惧していたようなガスの噴出もない。これならと、さらにその周囲をさしてみる。


「よしよし、ここを掘ってみるか」


「はいなのです!」


 さっそくと、2人がピッケルや手をつかい、土を掘りだしはじめた。こうなるとわかっていたならスコップを用意しておくべきだったと後悔しながら。

 30分ほどかけ入口らしき大きな穴がでてきた。2人で笑みをみせあったが、すぐにジグルドが緊張をとりもどす。まだ、空洞らしきものがみつかったにすぎない。


「中にはいるぞ。松明を「はいなのです!」……準備がいいの」


 すでに用意されていた。いつのまにか火もつけられている。


「中は薄暗い。足元に気を付けてついてこい」


 こうして2人は聖山の中へと入っていった。

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