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第46話 王との謁見

 空間系の魔法を扱うというからには転移するのかと思えば、しっかりと徒歩だった。

 街にある城まではそう遠くもないし、こんな距離で転移魔法なぞつかっていたら、足の筋力がおちてしょうがないというのが理由。

 ただ城についてからが面倒。門番に引き留められのが特に。


「まあ、ワシは顔パスじゃがな」


 城につくなり手をあげると、門番の兵士2人が、頭を軽くさげて挨拶をかわしていた。


「はぁ……すごいですね」


「ワシ有名じゃもん」


 ケラケラ笑いながら、城の中へとはいっていく。いい歳をして『じゃもん』とか、と頭を痛めながらミリアもついていった。まったく止められることがないのは、師であるオルトナスのおかげではある事に間違いはないのだが……


 モスク風の城の中にはいれば、中は静まりかえっていた。

 外見同様、城内も静粛を好む様子。そんな中にオルトナスがはいっていくわけだが、城に入るなり、彼は無口となり表情も引き締めた。いつもと違う師の顔つきに、不安のようなものを覚えながらミリアはついていく。


 中央階段を静々と上ると大きな扉があった。謁見の間への扉である。警護兵がはりついているのだから間違いがない。


 オルトナスが軽く手をあげると、分かっているといった感じで、兵たちの手によって扉が開いていく。


「ああ、そうだ。これを将軍に渡しておいてくれ」


「かしこまりました。クロスからの報告書ですね」


「そうだ。頼んだぞ」


 どうやらクロスとは見知った仲のようだ。オルトナスも知った顔だったのだろう。渡された兵は安堵の息を一つして、その場を去っていった。


「さて、いくぞ」


「はい」


 ここまではまともだ。師匠もできるじゃないか。と、ちょっと見直して後を静かについていった。

 開かれた扉の中へとはいる。


(あ、やっぱり兵って中にもいるんだ)


 最初に見た感想がそれだった。

 部屋の両角に配置された剣をもった兵士たちは、近衛兵というやつだろう。

 他にも貴族スタイルの若い男女が数人。どういった身分なのかわからないが、ここにいるということは、王家の血筋にあたるのかもしれない。


 そして最後。

 現国王アスドール=リダ=オルトイアと、王妃のヴェロニカ=リダ=オルトイアである。

 最奥の立派な椅子にすわった二人。一目でそれとわかる存在感。

 オルトナスについていくと、王との距離があと10歩ほどといった場所で立ち止まり、スッと体を沈め軽く手を床につけた。


「貴様が、他の者同様の平伏なぞする必要などない。顔をあげろ」


 王からの声をきき、オルトナスが立ち上がる。

 ミリアもまた、同様のことをしている。

 おそらく毎回こういったやりとりがされているんだろうと、考えながら王と王妃をみてみる。


(はぁ…やっぱりエルフの王族って綺麗よね。人間の王と違って、威厳だけを前に出しているんじゃなくて、美意識が優先って感じ。私のところって村だったしな~ 王族とか縁なかったし……なんで人間の王族とは縁があるんだろ……いやなのに)


 ブツブツと言っているうちに、思い出したくもないことを記憶に蘇らせてしまい、それが顔にでそうになったので、表情を強制的に固めた。


 王をみれば銀の長髪に金の切れ長の瞳。引き締まった顎に、甘い笑みが似合いそうな口元。華奢な体形とあいまって、人間世界にでればモテモテであろう。


「急な謁見であるにもかかわらず、申し訳ありません」


「気にするな。元々、それほどの謁見申請があるわけでもない」


「ご冗談を。最近は、増えていると聞いておりますが」


「耳が早いな。貴様もしっているだろう? 人間たちの行動を」


「はい。今日はそれもありますが、まずは、この者を紹介せねばなりません」


 言い、ミリアが前に出る道をあけた。


(もうなのね。しょうがないか)


 隠していた自分が悪いのだし、いずれにしろメグミのことを調べるには、これは避けては通れないと覚悟をきめ、オルトナスの隣へと足を進めた。


「初めてお目にかかります。ミリア=エイド=ドーナと申します。師オルトナス様の元で、お世話になっております」


「ホッ?」


 隣にいるオルトナスが妙な声をだしたが無視をする。また問題発言をしそうだったので。


「よい。そう固くならずとも……ん?」


「何か……」


「騒がしいの?」


 物音に気付き後ろをみると、扉の外から野太い声が聞こえてきた。


「あ、きおった」


「師匠……また、何かしたんですか?」


「ワシが毎度騒ぎを起こしているような言い方するでない。今回はむしろ……」


「オルトナスうぅうううううう!! 貴様ぁああああああああ!」


 扉がバタンと開き、そこからエルフ? にしては珍しい黒髪の男。顔立ちはエルフらしからぬ無骨なもの。これまた体躯のよさげな男だ。銀の重鎧をこすらせガチャガチャとした音を立てながら近づいてきた。


「デュランうるさいぞ。静かにせい」


「やかましいわ!」


「やかましいのはお前じゃろうが。あ、まて、剣を抜くな! ここをどこだとおもっておる!」


「貴様を処分したあと首を陛下に差し出す! お前だけはぁあ!」


「やめんか、あほめ! お前の臭そうな首なぞ、誰もいらん!」


 唐突に始まった2人の喜劇に、ミリアはポカーンとし、王は顔をふせ笑うのをこらえていて、王妃は、兵につれられ奥の部屋へとさっていった。男たちのじゃれ合いを邪魔するきはないらしい。出来た妻だ。良妻というべきか。


「ゴホン。お前達、そのへんでやめろ。年若い娘がいるのだし、いいかげん抑えるのだ」


 部屋にいる兵の誰一人動かずにいる最中、王が声をだす。それだけで2人の動きは止まり、デュランと呼ばれた男は剣を鞘へとしまい頭を下げた。


「申し訳ありません陛下。とんだ無礼を」


「何がとんだ無礼じゃ。何かあるたびに、所かまわず剣をぬきおって。それで国の将軍が務まるものか。もうクロスにまかせて引退せい」


 おさまりそうだった空気がピシリと割れかけたが、


「オルトナス。お前もな。これ以上、我を笑わせんでくれ」


 王の声にオルトナスも頭を下げる。その隣にいるデュランは手をプルプルさせ耐えていた。


 デュラン=バースト。

 それがこの国ユミルの、将軍の名前であった。

 オルトナスとは旧知の間がらで、世間では親友という扱いになっている。

 当人たちは全く認めないが、顔をみれば喧嘩をはじめ、物理的な衝突なりをくりかえすので、周囲からみれば、よく飽きない2人だという評価。


 魔法関係は苦手としており、どれもが初級どまり。時折生まれるエルフの異端児のようで、黒い髪に、茶の瞳をしている。一見すると人間のような無骨な顔をしているのだが、耳だけはエルフらしい細長いものであった。

 エルフでありながら、魔法が苦手。それでもなお将軍という地位になったのは、彼のたゆまぬ努力と好感がもてる性格からなるもの。そういった意味では、天才肌で、他人から距離をおかれるオルトナスとは正反対といえるだろう。


「それで? デュラン。ここで剣を抜いた理由はあろうな? いくらお前であっても、オルトナスとじゃれ合うためだというのであれば、我も考えねばならぬぞ?」


「陛下。もちろんあります。これをご覧ください」


「ん? 部下からの報告書か? どれどれ……なに!?」


 さらりと目を通したかと思えば、手にした報告書から目をあげ、ミリアを凝視。

 王の態度をみたデュランが、生真面目な表情で、室内に響く声を張り上げた。


「そこに書かれているとおりであるならば、この娘こそが、異世界人ということになります。それをよくも陛下の前につれてきおって、貴様!」


「まてまて、すぐに、剣を抜くクセをなんとかせい!」


「これが黙っておられるか! これで2度めだぞ! また、国に厄介事を持ち込む気か!」


 どうやら自分のことで騒いでいるのだと知り、ミリアが立ち上がった。


「陛下。自分のことで騒いでおられるようなので、話す許可をもらってよろしいでしょうか?」


「ふむ……よい。許す。なにかな?」


「ありがとうございます」


 一礼し、ミリアはこれまでの経緯を全て話した。しかもメグミの件に関しても。

 クロスのことで学んだようである。嘘をついてバレた時の危うさと、信用を得たい相手であれば嘘は何の役にも立たないということを。


「うーむ。帰還する術を求めてきたというわけか」


「はい。もしございましたら、なにとぞお教え願えませんでしょうか?」


「貴様、素性を隠し入国しておいて無礼であろう!」


 貴様? という言葉にミリアの拳がギュっと握りしめられた。


「はい。それは承知の上です。ですが、私も、いえ、私同様この地にきてしまった仲間たちも帰還を望んでいます。これは私一人の問題ではないのです」


「ほう? ミリアも言うのう~ なかなかどうして」


「お前がしっかりせぬから!」


「うるさい、頑固頭。そんなんだから、クロスもあんな堅物になったのじゃ」


「ワシは関係なかろうが! アレの堅物さは元からじゃ!」


「……親子でもないくせに、なぜあんなに似たのか、理解に苦しむ」


「う、うるさい! 貴様がだな!」


「ええい、お前たち。我が考えを巡らせておるというに、やかましいわ!」


 まったくそのとおりだと、ミリアは眉間をピクピク震えさせていた。

 もし王がいなければ、魔法の一発でもかましていたかもしれない。あるいは拳による物理的なオハナシかもしれないが。後者はないな。拳のほうが痛くなる。

 王の怒声により、怒られた2人が平伏する。自然に注目がミリアへとあつまり、額に一筋の汗が浮かんだ。


「ミリアといったな。言いたいことも用件についてもわかった。だが、君はメグミが何をしたのか、分かっているのかね?」


「詳しくは分かりません。先ほどもいったように、オルトナス様の弟子となったことと、魔王と知己になったこと。あと、この地で眠っているという噂のみです」


「そうか……オルトナス、あのことは?」


「いっておりません。アレについては、王の許可なくば、流石に私といえど口にはできませぬ」


「そう、だな。分かった」


 王は悩み苦しむように手を頬にあて考えこむ。その間、誰ひとりとして言を発することもなく、再度口が開くのをまった。


「わかった。異世界の娘よ、こうしよう。まずは今までどおりオルトナスの元で勉学にはげめ。そして我に汝が信用に足る存在なのかどうか見せてみよ」


「はい」


 勉学については、望むところだと微かな笑みすら浮かべた。それで信用されるというのであれば、何も問題はない。だが、これは、


(もしかして、帰還に関する何かがある? メグミさんはそれ関係で問題をおこした? 本当に何もないなら、無いというと思うし……)


 思考を巡らせつつ、王の言葉をまつと、


「オルトナス。お前が今日つれてきたのは、こういうことであろう? 我に見せ、段階を踏ませ信用を得させようと。メグミの時とは違うのだな?」


「……ハ。私も同じ過ちを行う気はございませんので」


 目を伏せ、王の視線から逃れようとする。隠し事をしているわけではない。ただ、その時のことを悔いている様子だ。


「わかった。娘よ、まずは我らとの信用を築け。この話の続きはその後だ。いいな?」


「はい。ご配慮ありがたく思います」


 素直な声で礼をいい、頭を下げた。そんなミリアの隣にたつ、デュランへと王の視線が向けられて、


「さしあたっては、隣にいるデュランが剣を抜かずとも良いぐらいには頼むぞ?」


「……はい」


 何がおかしいのか、王の声が笑っているようにミリアには聞こえた。


「異世界人など信用できませぬ! しかもこの時期。人間の動きが怪しいのも、貴様が関係しておるのではないのか!」


「ミリアです将軍。女を貴様とよぶのはこの国の礼儀なのでしょうか?」


「うっ!」


 2度目を許せば、この先も続けられると、ミリアは伏せていた顔をあげ、青眼を大きく開きデュランを睨み付けた。


「……迂闊なことをいわんほうがいいぞ。ワシの弟子も、よう虐められておる」


「し、師匠! 私も弟子なんですけど!」


 せっかく込めた気力が瞬時に抜け落ち、オルトナスに(すが)るような声をだした。


「どこが信用できるというのじゃ……」


「お前たち、もう外にでろ。ここは仮にも謁見の間だというに……」


 シリアスな雰囲気がもったのは、ほんの数分であった。謁見の間とはいったいなんだったのか。

ミリア:いい加減伏線ひろげるのやめたら? 収拾つかなくなるわよ。

作者:もうつかないから、大丈夫。

ミリア:この駄目作者! 一度しんどく?

作者:死んだら書けなくなるんでやめて!

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