第44話 精霊使い
全てを語りおえると、クロスは頭痛でもするかのように頭を押さえる。
オルトナスは天井を見上げ、目頭をおさえていた。
2人の小さな騎士たちは、異世界人? なにそれ? といった感じだ。彼らは知らないのだろう。
「……オルトナス殿。またですか?」
「言わんでくれ。ワシもどうしてこうなったのか、分からん」
またというのは、メグミのことだろう。
「すいません師匠」
「よい。どうせエルマのやつが内緒にしておくよう言うたのじゃろ。あれは、そういう奴じゃ。妙なところで、悪知恵を働かせおる」
バレていた。庇おうかとおもったが、それもすぐにバレそうなのでやめた。
「これはどうしたらいいのか……」
「まあ、王家にはワシから話をしておく。それより封印してくれとは、どういう理由でそうなった?」
「ああ、そうでした。その話をまだしていませんでした」
話が中断されたままだということを思い出し、クロスが話はじめた。
彼の話によれば、ダークエルフたちが襲撃を許したのは、何も託宣だけではないと判断したらしい。
結論からいえば、手引きした内通者がいたのではな? という考えが出てきたらしい。
「ちょっとまて。それは誰じゃ? 誰がそんなことを言いおった?」
オルトナスが途中で待ったをかけ聞くが、クロスは首を横にふった。
「申し訳ありません……」
「それはどういう意味かの? お前が知らないのか? それとも、言えないというのか?」
「……」
無言という姿勢をつらぬくクロスをみて、鼻息を一つ。
「わかった。話をつづけろ。どうせあやつじゃろ」
心あたりがあるのか、苛立ちを隠すきもなく腕をくんだ。そうしたオルトナスの態度をみて、クロスは言葉のとおり申し訳なさそうに話をつづけた。
「今回私たちがここにきたのは、そうした経緯からです。ここの転移魔法陣が悪用され、外部から侵入者がくるのでは? と……」
「結界を素通りできるからのアレは。じゃが、人間が住まう場所には設置しておらんぞ? それは知っておるじゃろ?」
「そこで、先ほどの内通者の話が……」
「そこに繋がるのか。他の街で裏切り者が出る可能性を危険視したということか」
と、ここでクロスがチラッっとミリアを見た。
(ま、まあ、実際、私きちゃったしな~)
別に裏切りものがいて、その手引きで来たわけではないが、そういったことが可能か不可能かと言われればありえてしまう。
「失礼ですが、ミリア殿はアグロの街からきたとか? あそこの転移魔法陣を使用し、こちらに来た者を私は知りません。いえ、疑っているわけではないのですが……」
十分疑われているな、と、ミリアは乾いた笑いをする。
魔法陣を見せてもらったときに、自分がエルフ言語を読み、それで知ったことを伝えると、ようやく納得してもらえた。しかし、
「すると、あの街では長い間知らなかったと? なぜそんなことに?」
「それは、こちらから行くものも長くおらんかったしの。おまけに、ここの者は他種族に対して態度が悪い。そんな状態であれば、自然にそういうことにもなるじゃろ」
「は、はぁ。態度ですか? そうだったんですね」
「お前、知らなかったのか?」
「……勉強不足でした」
「というより、経験不足じゃな。少しは旅をせい」
言われたクロスは、それができればと小声でブツブツいっている。
声が聞こえたのか、後ろに控えていたリームがクスクス笑い、そんな姉の態度に、ヒュースが苦い表情をしていた。
「話はわかったわい。しかし魔法陣が使えないとなると、ワシが困るの」
「私も困る」
なにしろユミルの位置とアグロの街の位置が分からない。魔法陣が使えなくなるとなれば、戻れないのだ。ミリアが困って当然だった。
「い、いえ。それもあって、封印はできればという話なのです。なので、はじめから私たちが監視のために派遣されました」
「うーむ……」
それはそれでと、オルトナスは悩んだ。なにしろ今この家には3人住んでいて、人を増やすとなれば増築を考えなければならない。
「すまんが……」
と言い出しかけたとき、
「住まいなら大丈夫ですよ。リームが精霊使いなので、少し時間をいただければ増築できます」
「まかせて……偉い?」
と、後ろにいるリームがいい、ヒュースに頭を向ける。
「撫でないからね? 空気考えてね?」
弟に甘える姉ってちょっと……そう考えるミリアであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
樹木の精霊ドライアド。
リームは、それを使役することができたらしい。
「安らぎと迷いを与えしもの、汝が名は《木の精霊》! 我が願いを具現せよ!」
朗々たる声で召喚術を唱えると、周囲の木々に変化が現れる。
夜であるにもかかわらず、その時ばかりは心地よい光に周囲が包まれた。
いつもこうならいいのにと、ヒュースが言った事にクロスも頷いていた。
「……精霊使いって、こういう感じだったの?」
初めてみたらしく、ミリアが微妙な顔をする。
木々に現れた変化というのは、根っこを足がわりにし、ちょこちょこっとリームの側にあるいてきて、ワサワサと枝についた葉っぱを動かしているソレだった。
「ん。ありがと……あれに……いい?」
オルトナスの家をチラっとみていうと、フルフルと首を振られた。どこが首とか言われると困るのだが、それっぽい仕草としかいいようがない。
「駄目? ……だって」
拒否られたらしい。困った顔でクロスを見ている。
「な、なぜ?」
断られることを予想していなかったようで、リームに説明を求めると、
「ん……たぶん……家の魔力?」
「え? オルトナス殿?」
説明がまったくわからないので、オルトナスへと話をふってみると、
「もしかして、ワシの魔力が染みついているからか?」
そんなことがあるのか? と、リームへをみるとコクリと頷かれた。
「ワシ、ここ住んで結構たつんじゃが、嫌われておったんか?」
「聞いてみる……うん……え……ほんと?……へー」
一人で納得したような顔で木と話す。葉っぱがワサワサと動いているだけで、声は聞こえないのだが。
「ん……おじちゃん……木に……オシッコ……」
「ちょっまて! それって、あれか! 立ションか! それでか!」
以外な事実が判明。どうやら、周囲の木々にやっちゃったらしい。それが嫌だったのだろう。
「オルトナス殿……」
「いや、ワシ悪くないじゃろ! 男ならするもんじゃろ!」
エルフのイメージがダダ下がりである。
狼狽するオルトナスに誰も返事をしない。女が2人いるわけだが、そんな場所でこんな話がされても反応に困ってしまう。
「ワシ、超ショック!」
それはこちらの言うことだと、オルトナス以外が思った。
「わかりました。では、こうしましょう」
もうやだと、クロスが話を進める。
ミリアも早くしてくれと言わんばかりに腕組をしている。まだ夜なのだから。早く寝なおしたいのだ。
クロスの案は、新たに家を作ること。
増築とは違い、多少の時間がいるらしいが、それならば了承してくれるのでは? と思い、リームに聞くと、
「ありがとう……大丈夫」
どうやら、よかったらしくクロスが胸をなでおろした。
ちなみにオルトナスに許可をとろうと聞いてみると『いいんじゃね? もうどうでもいいわ』などと、気のない返事をされた。
リームが、周囲をチラチラみて、ちょっと開けた場所を指さしして、
「ん……あそこ」
それにドライアドがコクリ。そのまま葉っぱをワサワサすると、今度は他の木々も根を足にし移動を始めた。
「なにこれ?」
いくつもの木々がポンポン土からでてきて、枝や葉をポイポイ切り捨て、折り重なっていく。建築技術とはなんだったのだろうといわんばかりだ。
大工? いらねぇし。な光景を見せられること1時間。小さな家らしきものが出来上がる。ただし窓はない。木々が重なっただけなのだから、穴をあける必要があるだろう。大工は必要だった。あと玄関扉もない。
「いいのこれ?」
「しらん。ワシもう寝る。勝手にせい」
と、言い捨て、オルトナスが家の中へと戻っていく。
「し、師匠!」
「知らん!」
止めようとするミリアの声を無視し、玄関扉をバタンと閉じた。残されたミリアは、どうしようかと、クロスへと振り向きみると、
「まぁ……そういうことなので、明日の朝、改めてという事でいいでしょうか?」
「は、はぁ」
クロスにそう返事をするしかなかった。そのクロスにヒュースが、
「魔力って関係あったんでしょうか?」
「ドライアドは魔力で他人を識別しているんだろうね。私もしらなかったよ」
「なるほど!」
そんな雑学もはやどうでもいい。ミリアも早く寝てしまいたいと、家へと戻っていった。
心のなかで、この場にいないエルマに毒づきながら。やつあたりである。
オルトナス:気を付けよう、立小便
エルマ:そもそも家がそこにあるのに…
リーム:じいちゃん……ばっちぃ…




