任務
大隊は先の戦闘から奇襲を警戒し、密集を保つために進行速度を落としていた。
「大隊長殿。こんなに遅く進んでは敵の部隊に追いつかれてしまわないでしょうか」
「案ずるな中隊長。敵は追いつけないと思って騎兵部隊を差し向けたのだ。歩兵を連れた大部隊が急いで駆け付けて来ることはないだろう。
来るとすれば先の少数の騎兵部隊だ。奴らには部隊を密集させておけば問題無く対応できる」
「…分かりました。」
二人の話しが終わると一人の兵が報告に来る。
「大隊長殿、伝令が来ました」
「よし、連れて来い」
大隊長がそう言うと一人の兵が出て来て、敬礼をした後、国からの指示を伝える。
「本国より伝令。戦況の悪化に伴い大隊は至急進行方向を変えて本国から西北の前線へ向かい、現地の友軍と合流。後に共同して西からの敵と交戦し、進行を食い止めよ。とのことです!」
「何?休息無しでまた前線送りか」
「はい…」
伝令は地図を広げながら答え、指で指しながら説明する。
「現在地はここ。そして目的地はここ。なので現地点からほぼ一直線に西です」
「我々は西に向かえばいいんだな」
「そうなります」
「戦況はそんなに悪いのか?」
「はい。自分は見ていませんが、なんでも進行して来ている敵は悪魔だとか」
「悪魔?」
「はい。比喩や蔑称では無く。体は巨漢で頭は牛の風貌だとか、コウモリの様な翼が生えており、空を飛べるとか。前線ではゾンゼンが怪しい儀式を行って彼らを差し向けた、ともっぱらの噂です」
大隊長はため息をついた。こんな途方もない話を聞かされて、素直に信じることなどできるはずがなかったのだ。
「…そんな事、混乱した戦況が生み出したただの妄言だろう」
「いえ、この報告は前線に居る全ての部隊から出ています。無下にはできません」
大隊長は顔をしかめた。
「…まあいい。とにかく敵が手ごわいことは分かった。我々は命令に従って西に向かうだけだ。
伝令ご苦労!」
二人はお互いに敬礼をした。
「ご武運を祈ります!」
そう言って伝令は去っていった。
「なあ、エルドレッド。俺達昨日まで国に帰れるはずだったのに何で今は西の前線に向かってるんだろうな…」
「問題を言うな。今この時にも味方がやられてるんだぞ」
「分かってる。だが、こうも休息無しの戦いが続くと愚痴の一つくらいつきたくもなる」
「…」
二人は黙ってしまった。疲れているのは二人共同じなのだ。戦って戦ってようやく国に帰り、一休みできると思った矢先、また前線に向かわされた。
これまで後少し、後少しの辛抱だと言い聞かせてきた体はもう限界に近い。
その時クレマンが自分の隣に見知った顔がいると気付いた。
「お前、あの時の情報屋か!」
「ああ、また会ったな凄腕さん達」
「はぁ、またそれか。いいか、俺の名前はなあ…」
「知ってるぜ。クレマンとエルドレッドだろ?あんたは有名だぜ」
その発言にエルドレッドが不信感を抱いた。
「何?どういうことだ?」
「まぁ、俺が広めたんだが。あんたらが話してる時に名前を聞いてね。少なくとも第三中隊では凄腕二人の名前は広まってるぜ」
「余計なことを…」
「おっと一方的に名前を知っているのは悪いな。俺はエイベルだ。よろしく」
エルドレッドは嫌がったがクレマンはあまり気にしなかった。
「ああ、よろしく。
で、この前みたいに何か情報は無いか?エイベル」
クレマンは前に会った時のようにエイベルが良い情報を持っているのではないかと期待したのだ。
「おいおい、俺だって毎日聞き耳立てに行ってる訳じゃないんだぜ。バレたらマジでやばいんだからな」
クレマンは残念そうな顔をした。
「そうか…。やっぱりこのまま前線に着いちまうんだろうな」
クレマンの言葉にエルドレッドが頷く。
「ああ、後五時間ほど歩けば前線での戦闘が見えて来るだろう」
予定ではクレマン達が前線に到達するのはまだ先のはずだった。
しかしその予定はエイベルの言葉を皮切りに崩れ去った。
「なあ、丘の向こうから何か聞こえて来ないか?あれは…戦闘の音?」
「何?」
「は?どういうことだ?」
クレマン達がまだ状況を理解できていない内に大隊長が声を上げる。
「大隊、急ぎ前進!」
大隊長も戦闘の音に気が付いたのだ。兵士達はその指示に従って走りだす。
しかし予定では会敵するのはまだ先のはずだ。それはエンディカ軍は思ったよりも押されているということを物語っている。
「クソもうこんな所まで…!」
「見ろ!」
エイベルが丘の上を指差してそう言う。
クレマン達が見上げると丘の上で青い服を着た男が手を振っていた。
それを見たエルドレッドは焦った。
「間違いない。友軍が戦っている!」
「急がないと!」
クレマン達は激痛がはしり、悲鳴を上げる足を叱責して友軍を助けようと必死に走る。
しかし丘の頂上に着いた兵士達が次々に立ち止まり、前に進めなくなってしまった。
「クソ!何故止まる!?どけ!」
エルドレッドは兵士達をかぎ分けて前へ進み出る。クレマンもその後に続いた。
そして頂上に着き、立ち止まった兵士達の中から出たクレマン達は目の前に広がる光景を見て、不覚にも彼らと同じ様に立ち止まってしまった。
その目の前の光景が信じられなかったからだ。
「何だ、これは…」
ごめんなさい。諸事情があり投稿が遅れました。
それと忙しくなってきたのでこれからは二週間投稿にしようと思います。
ご理解願います。