追撃
その日の内にクレマン達の大隊は各中隊ごとに集められ闇夜の中、作戦の変更を言い渡された。
「諸君、状況が変わった。我々が留守にしている間にソンゼンの大部隊が我が国の西側へ回り込み進行を開始した。
かなりの被害が出て混乱状態にあるようだ。
よって我々は反転し、国の防衛に加わる。敵の追撃を避けるため夜の闇に上じて撤収する。以上!」
クレマンは今日中にと聞いて驚いた。
昼間の戦闘の疲れがとれてない状態での行軍。しかもこの様子だと徹夜は免れそうにない。クレマンはあれから二、三時間ほどしか寝ていない。他の兵士には寝てすらいない者もいるだろう。
こんなのでやっていけるのかとクレマンは思った。
大隊は夜明け近くまで歩き、一時間ほど仮眠をとった後また行軍を開始した。
その後も休憩を挟みながら歩き昼になった。
クレマンは足ががたがたで、睡魔がしきりに彼を襲ってきている。
彼だけではない。大隊の兵士全員に疲れの色が出ていた。
そこへ当然兵士の叫び声が上がった。
「て、敵だ!」
敵が後方から現れたのだ。しかし兵士達が気付いた時にはもう手遅れだった。
敵に感ずかれないように出発し、さらに睡眠時間を削ってまで行軍していたことで敵は追いつけないだろうと油断していた大隊は交戦用意が整っていなかった。
兵達は体力を残しておらず、さらに長時間に夜行軍で兵達は縦に長く広がりすぎていた。
まさに最悪のタイミングだった。
「何で追いつかれたんだ!?」
追いつけないだろうと踏んでいた敵が現れたことで兵士達に動揺が走った。
「馬だ!やつら騎兵だけの部隊を編成して送り込んできやがったんだ!」
ランペンス軍はエンディカ軍に追いつけないのを悟り、少数だが騎兵のみの部隊を追撃のため送り込んだのだ。
だが追撃部隊が追いつけないようにと無理に行軍を続けたエンディカ兵は消耗し、密集を保てておらず、少数の部隊でも十分だった。
力強く迫って来る騎兵を見たエンディカ兵は逃げようと試みるがその甲斐は無くすぐに追いつかれてしまった。
そこからは虐殺と言ってもいいほど一方的な戦いだった。
消耗しきったエンディカ兵は満足な抵抗も出来ずに次々と切り倒されていったのだ。
クレマンもなんとか戦おうとするが振るう腕は重く、脚は思い通りに動かない。
騎兵の持った剣を一度、二度とかわすが三度目が繰り出された時、クレマンはふらついて動きを止めてしまった。
まずいとクレマンが見上げると横から盾が割り込みんで来て振り下ろされた剣を防いでくれた。
エルドレッドだ。彼は左手の盾はそのままに右手に持った剣で騎兵の馬の横っ腹をばっさり斬る。
馬は激痛で暴れ出し、騎手を振り落として何処かへ行ってしまった。
馬を失った騎手も逃げ出した。
「大丈夫かクレマン!?」
「ああ、…なんとかな」
「先頭も気付いてこちらに向かって来ているはずだ。あともう少しだけ堪えるぞ!」
確かに先頭にいる兵士達も異変に気付いてクレマン達の所へ向かって来ていた。数の利を活かせれば大隊側が有利になる。
「わかった!」
クレマンはエルドレッド互いの背中を守りながら最後の力を振り絞り、ランペンスの騎兵部隊と戦った。
さすがに倒すことはできなかったが牽制し、攻撃を受け流して時間を稼ぐぐらいはできた。
その間に味方がじわじわと流れ込で来きた。
騎兵部隊はだんだん押されて行き、不利になったと見ていっせいに引き上げて行った。
後に残ったのはボロボロになった兵士達ともはや動くことの無くなった死体だけだ。
クレマン達は肩で息をしてその悲惨な場所に立ち尽くした。
同等の戦力との戦い、倍ほどの戦力を有する砦への攻撃と先程の最悪なタイミングの奇襲。この三度に及ぶ戦いでクレマン達の大隊はかなりの被害が出ていた。
いくつもの死体に囲まれながらエルドレッドは空に浮かぶ雲を見上げて言った。
「…クレマン。俺達みんなであの雲の上に逃げ出せたらどんなに幸せなんだろうな……」
エルドレッドは度重なる戦闘で疲れていた。もちろんそれは肉体的な疲れだけではない。
エルドレッドの弱音を聞いたクレマンは少し複雑な顔をして同じ様に雲を見上げた。
「お前がそんなロマンチックなことを言うとはな」
「…そうだな。俺ももう疲れて来たよ。この戦争は長過ぎる」
「ああ…」
空は絵の具のチューブからそのまま塗った様に何処までも同じ青、そこに置かれた大小の雲は少しの汚れもない純白で、血にまみれ悲痛な叫びがこだまする地上とは別世界の様で疲れきった二人の心を少しの間癒してくれた。
すいません今週はいろいろあってなかなか筆が進みませんでした。次回は頑張りたいと思います。
『縞模様のパジャマの少年』という映画を見ました。ナチス・ドイツのユダヤ人収容所所長の息子が何も知らずにユダヤ人少年と友情をかわすというストーリーでなかなか面白かったです。
ナチスと言うと『ヒトラー最後の十二日間』という映画を思い出します。皆さんこれを見る機会があったらその次に『アイアンスカイ』という映画を見てください。月の裏側にいたナチスが地球を侵略に来るコメディー映画で、きっと見終わった後オットーさんのことが好きになりますよ。
お読み頂きありがとうございます。




