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攻城戦

「放てー!!」

 投石機二台がいっせいに大きな岩を振り上げる。一番高い所辺りで投石機から離れた岩は奇妙な音をたてながら弧をえがいて砦の方へ飛んで行く。

 そして一つは砦手前の地面へ。もう一つは砦の城壁へ命中した。

 地面に落ちた岩は壮大に砂を撒き散らせ、命中した岩は城壁の真ん中辺りを少しへこました。城壁というものは構造上、上にいくほど頑丈に下にいくほど脆くなっている。

 よって投石機で城壁を崩す場合は一番てっぺんを狙う必要がある。

「一番もっと重りを入れろ!二番はあと少し追加だ!」


 投石機は重りを増やすことで発射する岩の距離を調節することが可能だ。ちなみに投石機を大きくすればするほど威力が上がった。

 投石機の近くに大きな石や砂利をいっぱいに詰めた大きな袋が置かれている。これらは射出する用だ。攻城戦時の場合病気の蔓延や指揮の低下を狙って動物の死体を射出することもある。

 投石機を任された兵士達が重りを足し、発射部分を手繰り寄せ、次の発射の準備をする。

 岩をセットし、また射出する。今度は一つが城壁の上を掠めて少し削り、もう一つが城壁上部に当たりある程度城壁を崩した。

 綺麗にそびえ立っていた城壁が崩れ、虫食いの様に跡が残るとエンディカ兵は歓喜の声を上げた。もちろんクレマン達も例外ではない。

「当たった!」

「よし!いいぞ!」

 大隊長もそれを見て新たな指示を出す。

「投石機はあと三射した後重りを増やし城内を狙え!第二、第三中隊前進!投石機三射の後砦へ突撃し、攻撃を開始せよ!第一中隊は拠点の防衛にあたれ!」

「第二中隊前進!」

「第三中隊前進!」

 大隊長の命令を中隊長が復唱する。

 前進と聞いてクレマンがぼやく。

「だろうと思ったぜ、まったく。ついてねぇな」

 ここからは大隊長は指揮テントに篭り、前進した中隊長と伝令を使ってやり取りをする。

 第二、第三中隊は投石機の発射した岩が頭上を飛び越えて行くのを見守った。大隊長の指示した三射目が城壁に当たったのを確認した中隊長は突撃を命令する。

「突撃ー!!」

 兵士達は今まで歩いていた足を駆け足にして雄叫びを上げながら砦へ向かう。

 これを迎撃するため砦から膨大な数の矢が放たれた。それは太陽の光を陰らせるほどだ。

「亀甲隊形!!」

 言われまでもないとばかりに兵士達は密集し、盾を頭上に並べる。最前列は前に、それ以降は上に盾を向けて隙間なく並べることで降ってくる矢から身を守ることができるのだ。

 矢の群れは空高くで一度速度を失い、重力に引かれて再び威力を取り戻し兵士たちに降り注ぐ。

 ゴトゴトと音を立てて盾に矢があたり、突き刺さる。クレマン達のすぐ近くで叫び声があがった。隙間を開けて矢を受けてしまったのだろう。

「矢を放てぇー!!」

 弓を持った兵が盾の影から出てきて矢をつがえ、次々に放っていく。

 破城槌を押し、はしごを持って第二、第三中隊は矢が降り注ぎ次々に脱落者を出しながらも果敢に砦へ向かう。

 城壁まであと少しというところで矢に火がついたものがまじり破城槌に引火させようとしてきた。さらに近づくと城壁の上から石が落とされ始めた。

 これに当たった奴はたいていもう動けなくなった。

 多大な被害を出しつつも城壁までたどり着いた兵士達は城壁の上までとどく長いはしごを立て掛けて侵入を試み、城門を破城槌で破ろうと試みる。

 しかしはしごは倒され、城門は頑丈に作られている上に中から押さえられている様でなかなか破ることができない。

 そんな中クレマン達は破城槌の護衛にあたっていた。クレマンが弓を引き、エルドレッドがその前で両手の塞がった彼の変わりに盾を構えていた。

「エルドレッド、ちゃんと守ってろよ」

「わかってる。右上!火矢を構えたぞ!」

 盾を構えたままエルドレッドがクレマンを促す。

「わかってるっての…っと」

 クレマンはすかさず矢を放ってそれを無力化し、また次の狙いを探す。

 しかし太陽が沈みだす頃には破城槌から火のてが上がり始めた。はしごで城壁を登れた兵士もその時にはいくらかいたが占拠できるほどではなく、斬り倒されていった。

「撤退だ!撤退命令が出たぞぉー!」



 その日は日没とともに撤退命令がでて第二、第三中隊は拠点へ戻った。

 クレマンは第三中隊のテント付近にある焚火の近くに倒れる様に横になった。近くとは言っても夏の暑さかまだ少し残っている様な時期だ。さほど近くには寄っていかない。

 エルドレッドも隣に腰を下ろす。

 焚火の光の照らされた彼らの青い軍服は赤黒く汚れているところがたくさんあった。それは撤退する時に負傷兵を運ぶのを手伝ったからだ。その後にいろいろと使われて、今ようやく休憩が取れたところだった。 野戦病院にいるとヴァレリーの名簿が脳裏に蘇ってきてクレマン達は余計気が滅入った。

「…エルドレッド、俺達いつまで生きてられるかな……」


「…ずっと生き抜いてみせるさ……」

 弱音をはいたクレマンにエルドレッドは強がってみせる。

「六大英雄の中に攻城戦で名を上げた奴がいただろ?

 あいつの時に比べたら俺達なんてまだ楽な方だ」

「それって…モーリスはゾンゼン側だろ!?」

 モーリスは圧倒的な戦力差がありながらもエンディカの砦を攻め落としたことで名を上げたゾンゼン側の六大英雄だ。クレマンが驚いたのは無理もなかった。

「向こうにできて俺達にできない理由はない。そう思わないか?」


 そう言うエルドレッドにクレマンは苦笑するしかなかった。

「そーかい…」


 六大英雄。エンディカ側にはアーヴィンド、エンゲルブレヒト、アーロンの三人。ゾンゼン側にはモーリス、ルロイ、ヴォルデマールの三人がいた。彼らの活躍は百年たった今でも多くの人々に語り継がれるほどに偉大だった。

 百年前の戦争がピークに達したとき六大英雄全員が参加する大規模な戦闘が起こり、誰もがこの戦争に決着がつくことを確信した。

 しかし、彼ら六人は誰一人として自国を勝利に導くことはなかった。

 なぜなら彼ら全員がその戦いで戦死してしまったからだ。

 結果としてゾンゼンとエンディカの戦いは今現在までずるずると続いている。

 もし百年前のあの戦いで決着がついていたらどうなっていたのだろうかとクレマンがぼんやりと考えていると一人の男が焚火の所へ慌ただしく駆けてきた。

「大変だ、大変だ!」

 慌ただしいわりに緊迫感のない声をしている。その声を聞き数人の兵士が彼を迎え入れる。

「ハッハッハ、お前またやったのか。そのうち捕まるぞ」

 賑やかな話し声が気になりクレマンが体を起こすと走って来た男が気づく。

「お、あんたら昨日の凄腕さん達じゃないか」

 クレマンはそんな褒め方されても嬉しくないと顔をしかめてから口を開く。

「どうしたんだ?」

「ああ、聞いて驚け。どうやら俺達この砦をほっぽって明日にでも国に返れるらしいぞ」

 この言葉にその場にいる全員が驚き、立ち上がった。

 どうしてと問う男を押さえてエルドレッドが疑問を口にする。

「まて、何故そんなことが分かる?」

 それにはエルドレッドが止めた男が答えた。

「こいつたまに指揮所テントに盗み聞きしに行くんだよ。で、続きは?」

 とんでもないことをさらっと言われ、エルドレッドは呆れた。

「なんでもパトリシアって村が全滅してそっちから敵が攻めて来てるから、まだ砦を落としてないなら戻って来いって伝令が来たらしい」

「何処だよパトリシアって」

 他の兵士達はわからなかったがクレマンには思い当たる節があった。

「パトリシア…。一番西側にある村だ!」


「クレマン、知ってるのか?」

「ルードルフの故郷だ。あいつが話してただろ!?」

「俺は聞いてないぞ!」

 それを聞いて思い出したとばかりにあの男が口を開く。

「そういえば回り込まれたとか言ってたな…」

 その後少し沈黙を挟み、心配した面持ちで一人の男がクレマン達に声をかける。

「…そのルードルフって知らせた方がいいんじゃないか?」

 クレマンは首を振った。

「いいんだ、奴は昨日…死んだから」

「…そうか」

 クレマンはその男の顔を見てきっと彼も知り合いを失ったのだろうと感じた。戦争は思ったよりも簡単に人の命を奪っていく。きっとエルドレッドも自分も目の前の男達もいつか簡単に単純に命を落とすのだろう、クレマンはそう思った。

「西か…」

 やるせない思いでクレマンが口にした言葉は弱々しく、風に吹かれて飛んでしまいそうだった。




 彼らには知る由もないがこの時既に彼らは大きな変化に間接的にだが接していた。それは彼らのすぐ傍まで迫って来ている。

千五百文字書き終わると終わりでいいやと思ってしまう自分がいたのでこれからは三千……いや、もしくは、無理だったら、どうしようもなかったら二千文字書いてから投稿することにします。

最近発見したのですが図書館とか喫茶店で書くとはかどりますね。でもガラケー打つのめんどくさいのでスマホかノーパソが欲しいです。

それと先日『ジョニーは戦場へいった』という映画を見たのですがめっちゃ泣きました。

でもやっぱり一番好きな映画は『プライベート・ライアン』です。

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