第54話
「ひゃあ~、眩し~」
「目がチカチカする......いいなぁ環樺は」
環樺はそう言って空を見上げながら再びキャップを被って目を保護していて少し羨ましく感じる。
雑貨店の中は照明が弱めの所が多かったので、外に出た瞬間の日光との明暗差で少し目が痛い。
太陽が高くなってきているから気温も上がってきているし。
「えー、それじゃあお姉、被る?」
「......髪崩れちゃうから、いい。ありがと」
キャップを外してこちらに差し出してきてくれたけど、今日はいつもより少し気合を入れて髪を整えてきて、帽子を被る用にしてきていないのでせっかくの提案だけど断らせてもらう。
「そっかー」
「さて、ご飯屋さんが多そうな所探そっか。それともスマホで探してみる?」
「もちろん歩いて探すでしょ!」
「だよね。どっちに行こうかな」
「うーん......それじゃあ、こっち!」
一応どうするかを聞いてはみたけど、今日の環樺は見つかるか分からないものを探して道中も楽しんでいこう、というスタンスなので気の向くままに一期一会の出会いを探して勘で進み始める。
「でも、早くしないとランチの時間は終わっちゃうけどね」
「そうなっちゃったら、ご愛嬌で!」
「ふふ、じゃああんまり気にせずに探そっか」
私も環樺とならどこだっていいし、ランチの方がお得ではあるけどこんな日にそんなにこだわらなくてもいいか。
「何を食べたいかとか全然決めてなかったけど、お姉は何か食べたい物とかあったりする?」
「ううん、私も全然考えてなかった。行き当たりばったりで良いお店が見つかればいいなって」
家を出る前から、駅前のよく行きそうなお店のどこかに行くんだろうな、くらいに漠然と考えていただけだったので、何を食べたいかは決まっていない。
「何か良いお店見つかるといいね!」
「まずは候補を見つけないとね」
「きっとこっちにある気がする! 良い匂いがする気がする!」
根拠のない自信を持ちながら、それなりに人が多い大通りを迷いなく突き進んでいく。
「ここを曲がってー......こっち!」
「うんうん。確かに何かありそう」
大通りから一つ外れて小道に入っていったりしていると、まずはどこでも見る有名チェーン店が顔を見せ、当然スルーするけどご飯屋さんはあるという事実で期待感は上がってくる。
「あ! まず何か見っけ!」
「これはなんだろ? 名前的にイタリアンかな?」
「一旦候補に入れてもっと行ってみよー」
見つけたこのお店を候補に入れて、イタリアンと言えばで食べたい物を話しながら、他のお店も探しにまだまだ進んでみる。
「また何かあったよ!」
「ハンバーグだ。ん~良い匂い」
「うわぁ良いなぁハンバーグ! もうここで決めてもいいくらいだけど、もうちょっと行ってみよー」
「かなり本命ではありそうだね」
とても良い匂いにお腹が鳴ってしまいそうになりながらも、もう少し探してみようと環樺に続く。
「焼肉は流石に贅沢すぎるから今回はなしだけど、そのお向かいに定食屋さんです」
「チャーハンとラーメンのセットって天才だよね。今日の日替わりメニューの油淋鶏も美味しそう」
お店の前に置いてある立て看板を見てメニューを確認する。環樺は周りを見渡していた。
「あ! あそこにカレー屋とオムライスの専門店だって!」
「結構見つかったね。そろそろどこにするか決めよっか」
道の脇に寄り日陰に入って、今までの候補からどこにするかを話し合う。
「さてさて、お気に召したのはありましたかお姉様」
「それで言うと、お気に召しそうなのばっかりで困ってるね」
正直全部が魅力的で選ぶのが難しい。でもお腹はどんどん空いてきているので早めに決めたいところだ。
「分かった。それじゃあ、普段家で食べれないような物を食べよう!」
「となると、今日は定食屋さんに決めちゃおうか」
「うん!」
と、今日のお昼ご飯を食べる場所を決めた瞬間に環樺のお腹からくぅぅ、と可愛い音が鳴った。
「あ......!」
「あは、待たせちゃってごめんね」
我慢の限界を迎えそうになっている環樺のお腹を撫でながら声を掛けてあげる。
「えへへ、お店が決まってもうすぐ食べれるってなったからかな......」
「ふふっ、さっそく行こっか」
そしてすぐそこにある定食屋さんに入るとお好きな席にどうぞと案内をされて、テーブル席と畳の座敷の席があったのでせっかくだから雰囲気の良い座敷の方の席を選び、向かい合って座る。
「メニューメニューっと。あ、まだランチメニューみたいだよ。お姉はどれにする?」
座ってすぐに、環樺がキャップを取りながらメニューを立てかけから取って二人で見やすいように広げてくれる。
「私はもう油淋鶏のお腹になっちゃってるなぁ」
「良いねぇ油淋鶏。わたしは、えっとねぇ......卵とじミックスフライにしよっと」
「ちょっと変わり種だけどそれも美味しそうだね。すいませーん」
お互いに頼む物が決まったのでえ店員さんを呼んで注文を済ませる。
お水がセルフなので私が取りに行って、二つのグラスを持って席へ戻る。
「はい、どうぞ」
「ありがとーお姉。選んだのはいいけど、美味しそうなメニューが沢山あって他のも食べてみたかったなー」
「そうだね、メニューが豊富で見てるだけで楽しいね」
メニューを見ていると、お店の奥の方からジューーと油で揚げる音と良い匂いが漂ってきて食欲がさらに刺激される。
「はーい、お待たせしましたー」
「わぁ! 美味しそ~。ありがとうございます」
「ありがとうございます」
それからしばらくして私達の席に、油淋鶏と卵とじミックスフライにそれぞれ白米と味噌汁、付け合わせの物が乗ったお盆が運ばれてきた。
「ご飯とお味噌汁はおかわり無料になってますので、お声掛けください」
そう言って店員さんは下がっていった。
「だってお姉! やったね」
「お味噌汁のおかわり無料はありがたいね」
「ナスのお味噌汁だ、嬉しいな~」
運ばれてきた物と、おかわり無料という言葉に心を躍らせながら一緒に「いただきます」をして食事を始める。
「環樺、油淋鶏一切れあげる」
「ありがと! じゃあー、お姉にはこのささみフライ半分あげるね」
油淋鶏のタレをかけてから真ん中の大きめの部分を一切れ環樺のお皿の端に乗せてあげると、お返しに卵でとじられていてもなおシャクッと音を鳴らしながらささみフライを半分に切り始める。
「環樺、ささみフライが一番好きでしょ。くれるなら他のでいいよ?」
「一番好きだからお姉にも食べて欲しいんじゃん。ほらほら、どうぞ」
「そっか。ありがとね」
そう言って環樺が私のお皿に半分に切られたささみフライを乗せてくれて食事を開始した。
「「ごちそうさまでした」」
「はぁ~美味しかったぁ~」
「ねー。大満足」
途中で味噌汁を一回ずつおかわりしたりしながら、美味しさに夢中に食べ進めて昼食を食べ終えてお会計を済ませ、店員さんに挨拶をしてからお店を出る。
「電車に乗って向こうに帰ろうか」
「はーい。またたまにこっち来ようね」
「まだ気になるお店もあるしね」
こちらの地での用事を済ませた私達は、そのまま電車に乗っていつものいつもの駅へと戻り、当初の予定通りにご飯の後にクレープ屋さんへとやってきた。
「環樺、どれにする?」
「ここはもう決まってるもんね!」
このお店は、誰しもがよく想像する形のクレープも買えるけど、ショーケースの中にパッケージに包まれたミニサイズのクレープが並べられていて、我が家ではよくそれを買っている。
値段もサイズもお手軽で食べやすいので色んな味を楽しめるのも魅力的だ。
「わたしは、抹茶ティラミスとココナッツチョコレート!」
「じゃあ私は、生チョコストロベリーバナナと、シナモンアップルバターにしよっと」
「お母さんとお父さんのはいつものでいいよね」
「そうだね。すみませーん」
注文をしてショーケースから取り出してもらい、支払いを済ませて品物が入った紙袋を受け取る。
「ふんふ~ん、お姉どっちを今食べる?」
「うーん、ストロベリーバナナの方にしようかな」
「おっけー。はい」
「ありがと」
「じゃあわたしはー、抹茶!」
お店を出て、帰路につきながら一つずつ紙袋から取り出す。
「ん~~! おいし!」
「今日は楽しかったね、環樺」
「うん! やっぱりお姉とお出掛けは最高だね!」
「ふふっ、もっと色んな所に行きたいね」
今日のお出掛けはここまで。
とても楽しかった半日を噛みしめて、二人で並んでクレープを食べながら家へと帰った。
次は二人でどこに行こうかな。




