第15話
「わーかーば?」
時は昼休み。教室の入口でわたしはお姉と向き合っていた。
表面上はニコニコと取り繕っているが目が笑っていなかった。目を逸らそうとしてもそうはさせてくれない圧を放つお姉とその前に立ち尽くすわたしの背後で教室中がざわめき立っているのだけが聞こえてきていた。
遡ること約三分前。
わたしは席の近い明奈を含めた友達と四人でお弁当を食べながら何気ない会話に花を咲かせていた。
昼休みも半ばに差し掛かり、お弁当をほとんど食べ終わっていたわたしは何気なくスマホを見て、画面を付けたまま机に置いてお弁当の最後の一口を口に入れた瞬間だった。
タイミングを狙いすましたかのようにスマホが震えて、画面上に1つのメッセージを映し出した。
それはお姉からのメッセージで、内容はーー今教室にいる? ーーだった。
「あ」
と、つい口に出てしまって一緒にお昼ご飯を食べている子達の注目を集める。
「ん?」
「どしたん?」
「いや......」
メッセージは今教室に居るかを尋ねるだけのものだったが、朝にいたずらを仕込んでいたことがバレてしまったんだと直感した。
ここ数日は一緒に帰ることができてきて、放課後に近くなってきたら今日は一緒に帰れるかどうかの連絡を取り合うくらいで、こんなに早い段階でメッセージがくることなんてなかった。
朝から時間も経っていて、昼休みも友達と楽しく話をしていたので警戒が薄くなっていたがまさかこのタイミングできてしまうなんて。
ーーいます。ーーと一言だけ返信すると既読だけがついてメッセージは帰ってこなかった。
「......まずい......」
「え? なに?」
「どしたの藤咲さんさっきから」
「環樺?」
心配する友達に言葉を返すこともできずにスマホを見つめてどうするか考えながら身構えていると、教室の入り口から大きな存在感を感じてバッとそちらを見る、とーー
朝に見たフワフワとした雰囲気の女の子を横に連れたお姉が笑顔で立っていた。
そして現在のこの状況であった。
教室の中からは「え、藤咲さんがふたり!?」とか「どういうこと!?」みたいな声がたくさん上がっていたり、「前に遠くから見たことあった気がするけど目がおかしくなったんだと思ってた......」などの声が聞こえてくる。
「え、えっとこれには深い事情が......」
笑顔で無言のまま見つめてくるお姉に言い訳しようとしたところで。
「はぁ......」
お姉はやれやれといった表情になり、一つため息をついた。
「とりあえず、ここじゃ迷惑になっちゃうからどこか移動しよっか」
と、お姉が提案してくるが教室に居た人達のボルテージが上がってきてしまっていて収集がつかなくなっていた。
わたしと一緒に入口の近くに来ていて、それまで驚きで黙っていた明奈も「え!? ちょっと環樺! どうなってんの!?」と興奮していた。
「えぇっと......」
とわたしがどうすればいいかと言い淀んでいると、お姉がわたしの両肩を掴んで反転させ、そのまま一緒に教室に一歩入ると、その様子を見て皆が静かになっていく。
「お騒がせしちゃってすみません。環樺の双子の姉の藤咲円樺です。話があるのでちょっと環樺を借りていきますね」
そう言って早々にわたしの肩を掴んだまま廊下へと連れ出す。
置き去りにされた教室は後方で徐々にざわめきを取り戻していくが、これ以上この場に留まるとまずいとお姉も思ったから強引に連れ出した方が良いという判断だったんだろう。
「ごめんね真尋ちゃん、待たせちゃって」
「う、ううん......」
真尋ちゃんと呼ばれた子も結構動揺していた。
この子の名前は真尋ちゃんって言うんだ。とあまり思考が回らない頭で思っていると後ろから誰かが駆け寄ってくる音が聞こえてきた。
「あのぉ、面白そうだからアタシもついて行っていいかな? お姉さん? にもちゃんと挨拶したいし!」
振り返ると明奈がキラキラとした目をしていた。
「あぁ、うん、もちろん......」
わたしが苦い表情で返事をするとお姉もニコッと笑って明奈へ答える。
「環樺と仲良くしてくれてる子ですか? いつも環樺がお世話になってます。ひとまず、詳しい事は移動してからにしましょうか」
「はい! よろこんで!」
明奈、なんだか楽しそうだな......
軽い話もしつつ、どこへ行ったらいいかと落ち着いて話せるかを話し合う。
結果、別棟の空き教室を探しに行ってみようかという結論に至り、別棟へと移動を開始した。
しばらくほとんど人が居ない別棟をさまよい歩いて、三階の奥にあったちょうど良さそうな空き教室に入り、わたしとお姉が横並びに、正面に真尋ちゃんと呼ばれた子と明奈が立っている状況になっていた。
「それじゃあ、改めて、私達は双子の姉妹なの。それで私が姉の円樺です」
「えっと、妹の環樺です......」
お姉に続いて改めてお互いに連れてきた友達に向けて自己紹介をすると二人とも「「おお~~」」と感動して目をキラキラと輝かせながらパチパチと拍手していた。初対面でお互いの名前すら知らないはずなのにこの二人はなんだか相性が良さそうな気がする。
「双子なんて初めてみた! ていうかそれならそうと言ってよー!」
「うんうん! 今まで全然そんなこと聞いたことなかったからびっくりしちゃったよぉ!」
「いやぁ今まで家族の話とかになったことなかったし......」
「私も......」
「いやぁ! 双子ってホントに似てるんだね! いきなり環樺とお姉さんが入れ替わっても気づけなさそう!」
「それでいて並び立つとそれぞれが独立した生命だと主張するようなわずかな雰囲気の違い......これは良い絵になりそうだよぉ!」
「えーっと、とりあえず......」
「マジやばい! 一緒に写真撮ってもいい!?」
「あたしもいつか二人のことなにか作品に......!」
「「ストップ!!」」
お姉と同じタイミングでヒートアップして話をするどころじゃなくなってきた二人を大声で無理やり止めると、シンクロしたことに感動してか、また目の前の二人は「「おお~~」」と拍手をする。
なんか見世物のような感覚で見られていることに多少不満を感じないこともないが、ひとまず話ができるような状態に戻せたので良しとしておこう。
「はぁ......。忘れてるだろうけど、まずは二人の自己紹介もしてもらってもいいかな?」
「あ、確かに。私は高橋明奈。よろしくねお姉さん!」
「つい興奮しちゃって、ごめんねぇ。あたしは津川真尋だよ。よろしくね環樺ちゃん」
「真尋ちゃーん、アタシもアタシもー! よろしくね!」
「あ、うん! 明奈ちゃんもよろしくねぇ」
ここにきてやっと全員自己紹介を終えられた。
でもこの二人のわちゃわちゃとしたやり取りのおかげで、怒られる覚悟をしてこの場に来たけどお姉もそういう感じじゃなくなってきてるだろうから、そういう雰囲気を作ってくれた賑やかな二人には感謝しておこう。
「それじゃあ、やっと本題に入るんだけど。そういうことで真尋ちゃん、朝の話はこのおバカさんの冗談であって私は寝坊もしてないし夜に変なこともしてないからね」
そういってお姉はわたしの頭をコツンと小突きながら真尋ちゃんに弁明をした。
「つい出来心で......初対面なのにこんなことに巻き込んじゃってごめんね」
「ううん、全然大丈夫だよ。最初は円樺ちゃんが言ってることを飲み込めなかったけど、こうして見ちゃったら納得だよぉ」
真尋ちゃんとお姉に対しての謝罪を済ませると、当然、蚊帳の外になって何が何だか分かっていない明奈が不思議な顔をしていた。
「なんかあったん? いきなりこんなことになって」
「えっとね明奈、朝にわたしのことをお姉と間違えちゃった真尋ちゃんに、お姉のフリをしてちょっとしたいたずらをしちゃって......」
置いてけぼりになっている明奈に簡潔に今どういう状況なのかということを説明する。
「へ~、そんな面白いことが起きてたんだ」
「本当に......さっきお弁当を食べてる最中に真尋ちゃんがその話をして私が恥ずかしい思いをする事になったんだからね。環樺のせいで最近恥ずかしい思いをしてばっかりなんだから!」
そう言ってお姉がわたしの肩をぐりぐりと人差し指で押してきながら怒ってくる。
今朝のこと以外は何のことか全然分からないんだけど......
「だからこれには深い訳が......ていうかお姉が今朝わたしを置いて行ったのも悪いんだからね!」
「昨日から今日は日直だからって言ってあったでしょ。ていうか朝に一回起こしたでしょ!」
「でもぉ......!」
わたしとお姉がわーきゃーと言い合いしているのを見て真尋ちゃんはクスクスと笑っていた。
それに対して明奈はーー
「環樺ってそんないたずらとかするんだ......」
「え? どうかした? 明奈」
「あ、ううん、なんでもない!」
明奈が真顔でボソッと何か言葉を発したが、何を言っているか聞き取ることはできなかった。
そうして、とりあえず誤解を解いて一件落着したので空き教室から出て、いろいろな話をしながら自分達の教室がある棟へと戻る。
やっぱり明奈と真尋ちゃんは相性が良さそうで仲良く話していた。
自分のクラスに戻る前に、いい機会だからお姉の他の友達にも紹介しておこうということになり、お姉のクラスについて行ってお姉のクラスの人達にも軽く顔見せをしに行った。
さっきの真尋ちゃんの件で周りに居た話を聞いていた人達にも誤解を解いておかないと気まずくて教室に居ずらいから責任を取ることも兼ねて、とのことだった。
わたしのクラスと同じようにわたし達を見たことで騒ぎになりそうだったが、それを想定して挨拶と弁明だけをしてさっさとお姉の教室を後にして隣の自分の教室に帰ったけど、自分の教室でもさっき教室に居なかった人達も含めての騒ぎになっていたので結局は大変な思いをした。
明奈は面白そうに眺めていたけど。
皆にお姉を褒められたりもしたので、嬉しかったから良しとしようかな。




