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8.軽く実況してみた

 高校二年生としての生活が始まって、数日が経過した頃。

 別のクラスから、よく知らない男子が訪問してきた。件の男子はクラスの女子生徒を介して、咲楽を呼び出してきた。


「おぉーい、九里原ちゃーん。お呼びだぞーい」

「えー、何ー?」


 咲楽はよく分からないといった様子で廊下に出ていった。

 この間、刃兵衛は前席の梨衣南が後ろ向きに座ってひそひそと声を忍ばせてくるのに耳を傾けた。


「あれってやっぱ、放課後に呼び出す例のムーヴ?」

「んな感じ、しますねぇ」


 この時、刃兵衛は一瞬だけ後方にちらりと視線を流した。

 案の定というべきか、瑠斗は表情を強張らせて机の天板をじぃっと凝視している。

 咲楽が見も知らぬ他所のクラスの男子に当たり前の様に呼び出される現状を、彼は一体どう捉えているのだろう。

 しかし刃兵衛としてはまだ、瑠斗がどの程度、咲楽のことを気にかけているのかが分からない。ここは迂闊に聞くべきではないだろう。


「んで、どないします?」

「そりゃやっぱ、温かく見守るしかないんじゃない?」


 ここで梨衣南がいうところの見守りは、恐らく直接覗きに行こうという意味合いだろう。決して遠くから、心の目で見守ってやろうという様な話ではないと思われる。

 するとそこへ、奏美もやってきてひそひそ話に加わってきた。


「咲楽っち、どしたの?」

「大人の階段を登ろうって訳だよ、奏美君」


 何故かしたり顔でふふんと豊満な胸を反らす梨衣南。しかし刃兵衛が見るところ、梨衣南もまだオトコと付き合ったことが無いのではないかと思われる。

 つまり、余り大層にエラそうなことはいえない立場の筈だ。

 そういう意味では、この中では唯一異性と交際経験がある刃兵衛こそが一番大人に近いのだが、いかんせん外見が外見だけに、誰もそんな風には見てくれない。


「せやけど、やっぱ春ですなぁ。告白の季節って奴ですかねぇ」

「何ガキんちょみたいな顔しておっさん臭いこといってんのさ」


 梨衣南が心底呆れた様子でじろりと睨みつけてきたが、刃兵衛はこれだからお子ちゃまは、などと鼻で笑ってやった。


「お、戻ってきたぞい」


 奏美がわくわくした顔で咲楽を出迎えたが、その咲楽は笑顔を浮かべているものの、白い額に青筋が浮かんでいる。

 ひとをネタにして楽しむな、という怒りの意思表示だろう。


「はぁ~……どうせ覗きに来るんでしょ?」

「しっかり見守ってあげっから、玉砕してきな!」


 物凄く期待感たっぷりの眼差しを送りつつ、サムズアップで元気付けようとする梨衣南。

 対する咲楽は、大きなお世話ですと頬を膨らませて、明後日の方向に顔を背けてしまった。

 その間、瑠斗は相変わらず気まずそうな表情で俯くばかり。きっと彼も、相当気になっているに違いない。


「阿須山君も、ご招待しときます?」

「ん……まぁ本人が来たいってんなら、勝手に来たらイんじゃね?」


 果たして咲楽は、イエスと応じるのか、それともノーを突きつけるのか。

 決戦の舞台は放課後の校舎裏、大型焼却炉前。


「ところでさぁ笠貫。あんたはどこでコクったの?」

「あー、自分ちのマンションのエントランスでしたかね」


 その応えが余程に予想外だったのか、梨衣南はマジかといわんばかりの疑問顔。

 しかし事実は事実だ。

 刃兵衛はそんなことよりも、放課後にどの様な展開が待っているのか、そっちの方が遥かに気になってしまって仕方が無かった。


◆ ◇ ◆


 そしていよいよ、その時がやってきた。

 刃兵衛は梨衣南、奏美、そして半ば強制的に連行されてきた瑠斗らと共に校舎裏へと駆け付けた。

 勿論、全員校舎の角に身を隠してのこっそり観覧である。

 まかり間違っても、堂々と姿を現してのガン見など絶対やってはいけない。


「さぁやって参りました校舎裏特設リング。実況はわたくし笠貫刃兵衛。解説は恋バナ歴ウン年、掟破りの逆ノロケ女王、紅羽梨衣南御大で御座います」

「あのさ……変な風に煽んの、やめてくんない?」


 物凄く渋い顔で睨みつけてくる梨衣南。こんな変顔でも恐ろしい程の美人なのだから、相当な反則だ。

 などとやっているうちに、咲楽と、例のよく知らない他所クラス男子が姿を見せた。


「じゃぁ早速、答え聞かせてくれる? ってか、もうオレにしとけよ。他の奴らなんて大したことねーし」


 物凄い自信満々、あり得ない程の上から目線。

 その自信は一体どこから出てくるのだろう。


「玉砕しますかね?」

「ん~……でも咲楽っち、微妙に押しの強いヤローに弱いからのぅ」


 何ともいえぬ微妙な顔つきで刃兵衛に応じた奏美。

 逆に刃兵衛は、そうなのかと内心で驚いた。意外と咲楽は、俺様キャラに弱いタイプなのだろうか。

 ここでしばし沈黙が流れ、変な間が生じた。

 それからややあって、咲楽は意を決した様子で一度顔を上げてから、即座にぺこりと頭を下げた。


「えっと……御免なさい。その……よく知らないひととお付き合いするってのは、やっぱりあたし、ちょっと無理です」

「はぁ? 何いってんだよオマエ。オレがコクってやってんのに、何様だよそれ」


 相手の男、見事に逆上。

 刃兵衛は内心、そんなだからフラれるんやでと溜息を漏らした。

 だが、ここは緊急事態だ。相手の男、この勢いだと何をやらかすか分かったものではない。

 介入して良い場面であろう。

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