5.ドーテー顔だった
で、その後。
刃兵衛は妙に梨衣南と趣味が合うことに気付き、色々話しているうちに、そのまま近場のファミリーレストラン『オリバーエッグ』に足を運ぼうというということになった。
そこに、近くのブティックやらコスメショップを廻っていた咲楽と奏美も合流する運びとなった。
「何か結局、僕らがお三方を強奪したみたいな形になってしもて……」
「いーんだってば、そんなこと気にしなくて」
何だか非常に申し訳ない気分になってきた刃兵衛に、梨衣南は背中をバシバシ叩きながら笑って応じた。
この女性、物凄い美人なのだが少々距離感がおかしい。
それは兎も角、結果論ではあるが上手い具合に瑠斗と咲楽を同じテーブルに引き合わせることが出来た。これは嬉しい誤算といえよう。
しかし問題は、梨衣南と奏美が瑠斗と咲楽のカップル化を前向きに捉えているかどうか、だ。
刃兵衛が見たところ、このふたりの美少女は咲楽と相当に親しいらしいのだが、考え方までが同じベクトルを向いているかといえば、少し怪しい部分が無くも無い。
矢張り、焦りは禁物だ。
そもそも論として、本当に瑠斗が咲楽に気があるのかどうかも、まだはっきりしていない。
もしかすると刃兵衛の勝手な早とちりで動いている可能性がある為、まずはそれぞれの意思、好み、動向をしっかり見極める必要があるだろう。
(いや……っていうか、僕まだ阿須山君とそないに親しい訳でもないしな……)
そう、根本はそこだ。
自分ひとりでラブコメ主人公の親友枠を気取ってみせたところで、瑠斗が刃兵衛を友人と認めていなかったら全てが御破算である。
まずはこれからじっくりと、学校生活の中で友達付き合いを進めていかなければならない。
「いやー、でもさー、まさかいきなり笠貫とこんなに気が合うとは思ってなかったんだよねー」
梨衣南がアップルティー片手に、物凄く朗らかな笑みを浮かべて頭を掻いた。
確かにこれは、刃兵衛も全くの予想外だった。
瑠斗と咲楽の仲を取り持とうとしていた筈なのに、何故に自分が先に、ヒロインの親友枠と意気投合する様な展開になったのだろう。
もうこの時点で色々と狂い始めていた。
「へぇ~……笠貫っち、梨衣南ともう仲イイんだぁ」
奏美がやけに意味深な素振りで、にやにやと笑みを向けてくる。何となく挑発的な色が見受けられるのは、果たして気の所為だろうか。
「っていうか笠貫君、さっきのアレって格闘技だよね? 空手か何かやってる?」
ウーロン茶で喉を潤しながら、咲楽が不思議そうな面持ちで覗き込んできた。
実際は小学生の時点で相当に鍛錬を積んでいた刃兵衛だが、彼女の前ではただの一度も技を見せたことは無かったのだから、疑問に思われても仕方が無いだろう。
「うちもそれ思ったー。笠貫って体ちっさい割りに、めっちゃ喧嘩とか強そうじゃん」
「そんな自慢出来る様なモンとちゃいますよ」
と、ここで刃兵衛はちらりと瑠斗に視線を流した。
このボックス席に腰を落ち着けてからというもの、男子側で喋っているのはもっぱら刃兵衛ばかりだ。瑠斗は隅で大人しくコーラをちびちび飲んでいるのみで全く声を発しようとしない。
ちょっとこれは、幾ら何でも拙過ぎる。
このままでは意図せずして瑠斗をハブりに来たようなものだ。それは刃兵衛の本意ではない。
ならば、彼に水を向けて何か話題を、とも思ったが、この美少女三人を前にしていきなり瑠斗を会話の渦に巻き込むのは余りにハードルが高い。
まずは刃兵衛自身がオタ活の徒であることを披露し、咲楽と奏美に対する防波堤にならなければ。
「そいやぁ、九里原さんと湯殿さんは今日、何買ってはったんですか?」
「あー、あたし達はね……」
咲楽が可愛らしい装飾の入った紙袋を取り出し、中から幾つかのコスメアイテムを取り出した。大手の人気ブランドという訳ではないが、一部のコアなファンにはリピーターが多いという代物らしい。
「あちきはねぇ、これー」
次いで奏美がいささか値が張りそうな洗顔用品を披露。こちらは結構有名なブランド品で、奏美は日頃のバイト代の半分近くを、このブランドに注ぎ込んでいるらしい。
刃兵衛はふぅんと頷きながら、ふたりが披露した品々をじぃっと見入っている。
「へー、笠貫って案外、こういうの興味あんの?」
「いや……っちゅうか、元カノが何か似た様なん持ってたなって思うて……」
その瞬間、場が凍り付いた。
梨衣南と咲楽、そして奏美は愕然と互いに顔を見合わせ、瑠斗に至っては化け物でも見るかの様な眼差しで刃兵衛に恐怖の視線を叩きつけていた。
「え、何ですのん? 僕何か、変なこといいました?」
「いや、だって笠貫……あんたどう見てもドーテー顔なんだけど……」
思わず内心で、
(そこかいな!)
と吐き出した刃兵衛。しかし嘘はついていない。去年彼は、と或る同級生女子と半年間付き合っていた。
これは紛れも無い事実だ。
「そんなこと別にどうでも宜しいですがな……」
「えー、聞きたい聞きたい。どんなだったの?」
咲楽が異様に食いついてきた。矢張り女子、恋バナ大好きなのはどこの土地も同じなのか。
それよりも刃兵衛は、まず己のオタク趣味を披露しなければならない。自分が先陣を切らなければ、瑠斗がこの会話の中に入ってくることが出来ないのだから。
「まぁそれはまた追々と……んで、僕の戦利品も披露させて下さいよ」
メディアトピアのロゴ入りレジバッグから、アクスタだのライトノベルだのを取り出して並べた刃兵衛。
梨衣南は割りと良い反応を示してくれたのだが、咲楽と奏美は余り表情を変えずに眺めている。
「反応、薄っ」
「あ、御免ゴメン……どんなのか分かってなくて……梨衣南、分かる?」
水を向けられたギャル系美少女は、任せろとばかりにサムズアップ。
「おぅ、任せろ」
何とも頼もしい限りだった。




