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4.見誤った

 駅近のアニメグッズ専門ショップ『メディアトピア』に足を踏み入れると、懐かしい空気に触れた様な気がした。


(あー……ここ最近、アニメとか全然見てへんかったしなぁ)


 何となく実家に帰ってきた様な安心感に浸りながら、刃兵衛は店内をうろうろと徘徊し始めた。

 一方の瑠斗は既にお目当ての品が決まっているのか、店舗二階へ続くエスカレーターに姿を消した。

 このメディアトピア店舗は、三階建ての商業ビル全てがまるまるひとつの店舗として機能している。その為品揃えは非常に充実しており、半日ぐらい居座っても全然飽きないというのが瑠斗からの評価だった。


(おぅ……こらぁ確かに、飽きひんわ)


 色々なコーナーで目移りしながら、この空間独特の雰囲気を味わっている刃兵衛。

 幸い今日は、懐が温かい。多少爆買いしても全然OKな気分だ。


(えー、アレの新巻、もう出とったんやー。しばらくチェックすんのサボってたから、追い付くのが大変そうやなぁ)


 平置きに並べられている可愛らしい表紙絵のライトノベルをつらつらと眺めながら、刃兵衛はどこから手を付けようかと内心で嬉しい悲鳴を上げていた。

 ところが、あるポイントでひととぶつかりそうになった為、一瞬足を止めてそのまま迂回しようとした。

 刃兵衛は他の買い物客には全く興味が無く、兎に角自分の買いたい物だけを発掘しようと必死になっていたのだが、ここで思いがけず呼び止められてしまった為、胡乱な表情で顔を上げた。


「おーい、笠貫ぃ。無視すんなよー」


 一瞬、来る店を間違えたかと思った。が、ここは間違い無くメディアトピア店内だ。

 であれば、目の前に佇んでいるミニスカのギャル系美少女の方が場違いという結論になる。

 たった今刃兵衛が躱した相手は、梨衣南だった。

 刃兵衛は左右に視線を走らせた後、再び梨衣南の奇跡の様な美貌に視線を戻し、思いっ切り眉間に皺を寄せてしまった。


「何してはるんですか?」

「いや、何って、うちも新巻出てるかなって思って見に来てるだけなんだけど」


 そういって梨衣南が視線を落とした先には、某有名なエロゲの原作となったライトノベルのシリーズが、平置きで横にずらっと並んでいる。

 刃兵衛はそれらのやたらエロい表紙絵と、梨衣南の顔を何度も見比べてしまった。


「あー、今すっごく馬鹿にしてたっしょ。うちみたいなギャルっぽいのが、このシリーズの良さなんか分かる訳ねーだろって顔してるし」

「いや実際のところ、分かってんのですか?」


 刃兵衛は物凄く疑わしい目で、梨衣南の美貌を軽く見上げた。梨衣南はふんと鼻を鳴らして、馬鹿にすんなと大きな胸の膨らみを押し潰す格好で腕を組んだ。


「こう見えてもさ、うち前シリーズから全巻揃えてるっつーの。何なら円盤とかアクキーとかも観賞用と保存用と布教用で毎回先行予約してんだからね」


 何故か物凄い対抗心を剥き出しにしてずいっと顔を寄せてくる梨衣南。

 一体何がそこまで彼女を駆り立てているのかは分からないが、どうやら梨衣南という女性をいささか見誤っていたのかも知れない。


「てかさー、笠貫って誰推し?」

「あー、僕はですね……」


 などと思わぬところでオタ話に花が咲いてしまった。

 尚、梨衣南は基本同担歓迎派らしいが、相手によっては同担拒否に転ずることもあるらしい。


「たまーにね、居るんだよね。やったらマウント取りたがる奴。ああいうのは駄目かな。何かウザい」

「分かります分かります。愛の形はひとそれぞれやのに、時々居ますよね。自分の捧げ方が一番、みたいに押し付けてくるひと」


 更にオタ話がエスカレートし始めたところで、瑠斗が戻ってきた。お目当てのアイテムは無事にゲット出来たらしい。

 ところが彼は、まさかの梨衣南登場に相当焦ったらしく、彼女の美貌に愕然たる視線を向けたままその場に固まってしまっていた。


「えー、何だよもー。いちいちビビんなっつーの」

「いや、普通ビビるでしょ。こんなとこにギャル()ったら……」


 刃兵衛も以前から、最近のサブカル界隈はボーダレス化が進んでおり、普通に可愛いギャルやら綺麗なお姉さんが出現する様になったという話はちらほら聞いている。

 しかしいざ自分自身がその場に遭遇すると、矢張りどこか信じられないという気分が心の内に潜んでいたことは否めない。

 もっというと、そんなボーダーレス化とやらはただの都市伝説なんじゃないかとすら思っていた節がある。

 が、どうやらそれは少なくとも梨衣南に関しては事実らしい。彼女は普通に小ぶりな買い物かごを提げて、何冊かのライトノベルの新巻を当たり前の様に放り込んでいる。

 当然、いずれも三冊ずつだ。

 瑠斗は未だ驚きから立ち直れていない様子だったが、しかし梨衣南が極々自然にライトノベルを購入している姿を見て、どこか嬉しそうな色を浮かべている。

 どちらかといえば教室内では肩身の狭い思いをしている陰キャオタクとしては、少しでも分かり合える相手が現れると、矢張り悪い気はしないものであろう。

 と、ここで刃兵衛はふと疑問に思った。

 あのイケメン三人組とのカラオケはどうなったのだろう。そのことについて訊いてみると、


「いや、もう行く訳ないじゃん。あいつら、チョー萎えてたっつーの」


 けらけらと笑う梨衣南。どうやら刃兵衛の寸止め後ろ廻し蹴りが相当効いたらしく、あの後はもうカラオケなどという雰囲気ではなくなってしまったらしい。


「あちゃあ……そらぁ悪いことしましたね。僕別にそこまで空気悪ぅするつもり無かったんですけど」

「あー、イイってイイって。別にうちらだって、あいつらと遊びたい気分だった訳じゃねーし」


 梨衣南は気にするなとばかりに、刃兵衛の肩をバシバシ叩いた。

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