10.プロデュースしたった
ところが翌日以降も、春の告白祭は中々終わりの兆しを見せなかった。
但し、誰が呼び出されるかはその日によって異なる。
咲楽も梨衣南も、そして奏美も相当な美人なのだから、誰が告白されても全くおかしな話ではないのだが、毎回刃兵衛が一緒になって呼び出され、陰からの見守り役を任されることになってしまった。
最初に梨衣南を他所クラス男子の暴力から守ってやったのが、彼女らからの信頼を勝ち得てしまったのかも知れない。
(余計なこと、せんかったら良かったかな……?)
そしてその都度、何故か瑠斗も刃兵衛と一緒に告白現場へと足を運んでいる。
不埒な輩を叩きのめすだけならば刃兵衛ひとりで十分だが、刃兵衛の暗殺拳の力を発揮する際に視界の壁となる囮役がどうしても必要だった。
女子ふたりだけでは、時にはどうしても相手の男の注意を完全に引きつけることが出来ないケースがあるのだが、瑠斗ならばその役割を完璧に果たしてくれる。
矢張り告白する側としては、いきなり見も知らぬ男子が告白現場にふらっと現れれば、どうしてもそっちに意識が向いてしまうらしいのだが、その瞬間に相手の死角を衝くのが刃兵衛としても最もやり易かった。
「何かここ最近……告白狩りみたいになってきましたね……」
「あ、そうだね。いつも笠貫君ひとりに苦労して貰ってばっかりだけど……」
と或る日の午後。
五時限目を終えて次のホームルームを待つ間の休憩時間、刃兵衛はこんな生活で良いのかと頭を掻いた。
最近では二年F組の美少女三人組の誰かに告白してフラれると、告白した男子はそれ以降、数日に亘って胸やけに襲われるという謎の噂が囁かれ始めている。
その犯人は全て刃兵衛なのだが、当然下手人については誰も正体が分からない。
が、そろそろ尻尾を掴まれる可能性も、無きにしも非ずだ。良い加減、別の対策を考え始めなければならないのだが、それがどうにも上手く思いつかない。
「だったらさぁ、うちらもう全員、カレシ持ちってことにしとく? そしたら、コクってくる奴なんて居なくなるっしょ」
いきなり梨衣南が前の席から振り向いて刃兵衛の背中をつついてきた。
どうやら彼と瑠斗の会話に、それとなく耳を傾けていたらしい。
するとそこへ奏美が何故かタイミング良く歩を寄せてきて、
「おぅ、宜しいのぅ。あちきもその策、乗ったぞい」
などと無責任なひと言を放ってきた。
更にいえば咲楽でさえも、
「それ、イイんじゃない? 断るにしても、ちゃんと理由がある方が助かるし」
と随分乗り気だった。
しかし、三人同時にカレシを持たせるとなると、人選が少々厄介だ。この美少女らにとって無害であり、且つカモフラージュとして機能する男子など、そうそう見つからない様な気がする。
刃兵衛が腕を組んで考え込んでいると再び梨衣南が、彼の肩口を指先でちょいちょいとつついてきた。
「カレシ役は、ジンベーでイんじゃない?」
「いや、そらぁちょっと拙いっす。僕の身動きが取りにくくなります」
梨衣南の提案に、刃兵衛は渋い表情でかぶりを振った。何かあった時、裏方役で動くには矢張り誰からも目を付けられていないフリーな状態の方が刃兵衛個人としてもやり易い。
それよりも何よりも、自分がこの美少女達のカレシとして振る舞うのは、何となく申し訳ない気がした。
特に、瑠斗に対して。
「えー、そうなんだ……笠貫君がベストだと思ったんだけど。うちのクラスん中じゃ、滅法強い格闘家っていう噂もちらほら出回ってるみたいだし、皆が敬遠するの間違い無いんだけど」
咲楽曰く、始業式当日に刃兵衛がクラスメイトのイケメン男子相手に寸止めの蹴りを放ったシーンが、密かに噂となって囁かれているのだという。
余計なことをしてしまったとこの時は少し反省した刃兵衛だが、しかし今はそんなことに気を取られている場合ではない。
と、ここで刃兵衛はひとり他人事の様に彼女らの話に耳を傾けている瑠斗に視線を向けた。
丁度良い素材が、目の前に居るではないか。
「それやったら阿須山君、いっときましょうよ」
「阿須山ぁ? そのココロは?」
如何にも想定外だといわんばかりの調子で、梨衣南が右の眉をくいっと吊り上げた。
しかし刃兵衛は、瑠斗にハーレム的展開を与えることこそが一石二鳥という腹積もりで熱弁し始めた。
「ここ何回か、阿須山君が告白現場に姿を見せてるんで、何気に彼が皆さんと関りがあるってことが知られてます。それにさっきもいうた様に、僕は表立って動かない方が宜しいので、必然的に彼しか居ません」
「まー、あちきは阿須山っちでも全然オッケーだぞーい」
最初に賛意を示したのは、奏美だった。彼女はこういう方面の話は無頓着らしい。
ツインテールの黒髪を揺らしながら何度も頷く奏美に、梨衣南も仕方が無いとばかりに同意した。
「んまぁ、理論的には確かにその通りっちゃあその通りかァ……んじゃ阿須山、今日からカレシ役、ヨロ」
「え……ちょ、ちょっと、本当に僕で良いの?」
勝手に話がトントン拍子に進んでいった為か、瑠斗は明らかに動揺している。
しかし彼の隣の席では、咲楽も幾分はにかんだ様子で宜しくねと穏やかに笑っていた。
この時、刃兵衛は第三者的な立ち位置でふんふんと頷きながら、内心では派手にガッツポーズをキメていた。これぞ王道、これぞ正道。
(っしゃー! ラブコメにハーレムはテッパンでしょ! やったね阿須山君!)
ラブコメ主人公の気弱な男子が、イケてる女子らに囲まれる図。今まで何度、夢見てきたことか。
例え偽装でも何でも良い。
こういうシーンが見たかった。
刃兵衛は、己のプロデュースセンスに自画自賛したい気分だった。
後は余りに尊い場面に遭遇した時、変なところでキュン死しない様に自らを戒めておく必要があるだろう。
対する瑠斗、美少女三人に囲まれて明らかに困惑していた。まだその面には喜色は欠片も見られない。間違い無く自分など力不足だと思っているのだろう。
しかし、それは彼が勝手にそう思い込んでいるだけだ。
刃兵衛の目からすれば、瑠斗は十分に紳士で気遣いの出来る好青年だ。彼以外に、この役はあり得ない。
(頑張って下さい、阿須山君。その偽の恋が本物になる様、僕も精一杯お手伝いさせて頂きます)
ここから本当の、ラブコメ主人公の親友枠としての旅立ちだ――刃兵衛はひとり感慨にふけっていた。




