涙の真相、ドンデン返し 【19】
「__」
お兄ちゃんが、まるでわたしの考えてる事が読めるみたいに言った。
「世の中にはね、レジェナ、色々な人が居るんだよ。そして、支え合って生きているんだ。みんな、それぞれの役割があり、その役割を果たしているからこそ成り立つんだ」
そんなお説教__
「一人はみんなの為に、みんなは一人の為に。君を支えてくれている人達__この宿のご主人だって、君が王家を再興する為に頑張っていると思ったから、こうして僕に連絡をくれたんだ。自分の気分だけで物事を勝手に決めたりしてはいけないんだ。それが人間なんだ__」
「もういい!」
わたしは堪らなくなって叫んだ。
「もういいわ。何もかも終わりよ。王家再興も、何も__」
「レジェナ__!」
わたしは部屋を出て駆け出していた。
「レジェナ__」
駆けて行くわたしの背中に、お兄ちゃんの制止の声が届いた。
宿屋から外へ出て、夢中で通りを駆け続けた。途中で何度も人とぶつかりながら、それでも走り続けて町外れの運河に差し掛かっていた。
息を切らせながら、河のほとりに佇んで、ボンヤリと流れを眺めていた。否、そこに立って視線を泳がせていただけだった。何も観ては居なかった。網膜に映る目の前の景色は心を素通りして虚空に通り抜けていた。
わたしは何も考えていなかった。
否、考えが錯綜して、何もまとまらないのだった。
もう涙は止まっていたが、目が腫れているように熱かった。多分、真っ赤に充血しているのだろう。
判らない。
わたしはどうすれば良いのか。
判らない、何も判らなかった。
どうしよう、これから。
もう、宿には戻りたくない。否、誰にも会いたくない。特にサウロロフスの関係者の人達には。
誰にも。
お兄ちゃんにも。
遠くに行きたい。
誰も居ない所に。
わたしの事を知っている人が居ない所に。
そうしてやり直すんだ。
そう。
新しい自分に生まれ変わる為に。
その時。
ジャラン、と聞き覚えのある音が響いた。
「レジェナ様__」
不意に懐かしい、心が穏やかに包まれていくような声が届いてきた。
振り向くとそこに、いつものニヤケ面をぶら下げてマニが立っていた。
「マニ__」
「どうなさいました、レジェナ様」
マニの笑顔は温かかった。
「マニ……」
懐深く澄み切った、悔しいくらいに頼もしい、優しい微笑だった。
わたしの従者、マニ。
いつでもわたしの傍に居て、わたしの我がままを聞いてくれて、わたしを護って、支えて、励ましてくれた、マニ。
今、わたしが全てをさらけ出せるのはマニしか居なかった。
僅かな間だったのに、彼がわたしの中で途方も無く大きくなっていた。
折角止まっていた涙が、また溢れ出してくる。
「マニい__」
もう何も判らない。
わたしはマニの胸に飛び込んで行った。
「レジェナ様?」
「マニ……」
わたしはマニの胸の中で、只泣くしかできなかった。